第6回 市庁舎はだれのために(最終回)
東由美子(建築家)
最終回は西東京市の2つの庁舎について取り上げます。
保谷庁舎は築48年、田無庁舎は築33年と古く、バリアフリーに対する当時の意識はこの程度であったかと考えさせられます。
特に保谷庁舎は1階内部に段差が多く、スロープは設置されているものの危険度が高いと思います。入口もわかりにくく、バス停を降りると「スポーツセンター」や「こもれびホール」はすぐわかりますが、庁舎の入口はピロティーの下の暗い部分にあり、どこだか迷います。雨の日にはバスを降りてから、屋根のない部分を何度も通らなくてはなりません。
田無庁舎も歩行者の主な入口は道路から半階程上がったところにあり、長いスロープを上らなくてはなりません。車は主な入口とは半階下がったところにあります。車の入口と歩行者の入口を分ける建築的手法で、この時代に建てられた他の区の庁舎にも見られますが、高齢社会の今となってはやさしい建物とは言えません。
私ももっと若いころ、仕事で田無庁舎を訪れた時は、なんとも感じませんでした。でも今回取材のため行ってみると、長い上りのスロープは入口にたどりついた時、ため息がでました。その上福祉関係の階は1階下にあり、せっかく上ったのにまた下りるのかとがっかりしてしまいました。
視覚障がい者に対する配慮も足りないように思います。どちらの庁舎も視覚障がい者用の誘導ブロック、いわゆる点字ブロックが受付の位置まできちんと誘導していません。建物の中までは入れても、その後どこへどのように行けばいいのか、視覚障がい者は案内を乞うことができません。まちづくり条例のマニュアルにも、受付までの誘導を明示してあります。受付の位置が当初の計画から変更されたのなら、それに対応した誘導が必要です。障がい者の立場に立って考えて欲しいと思います。
また、誘導ブロックの色ですが、特に田無庁舎のものは、床タイルの色に似ていてわかりづらいです。建築関係者の中にも、視覚障碍者は色も光も感じない全盲の人のことしか頭にない人がいますが、ぼんやり見えている、いわゆる弱視の人も多いのです。誘導ブロックは突起だけでなく色でも誘導するのですから、黄色などの目立つ色、床と反対色にすべきです。デザイン的に同系色にしたいと考える設計者がいたら、その人はデザインの意味を理解していないと思います。
ついでながら、田無庁舎の並びにある中央図書館の入口の誘導ブロックのすぐ脇に自転車置き場があり、とても危険です。「点字ブロックにはみだして自転車をとめないでください。」という看板がありますが、はみださないとしても、荷物などがひっかかる可能性があります。すみやかに誘導ブロックの位置か自転車置場の位置を移動すべきだと思います。
庁舎は特に高齢者や障がい者、外国人などが訪れることの多い場所です。外国人のためにはローマ字表記を増やすことも必要でしょう。バリアフリーについてはマニュアルを守るだけでなく、使用者の立場に立って考えたいものです。今からでもできることには取り組んで欲しいと思いました。(了)
【筆者略歴】
東由美子(ひがし・ゆみこ)
1948年生まれ。建築家。東設計工房主宰。住宅、障害者、高齢者のグループホームの設計などに携わる。女性建築技術者の会会員(1986-1990代表)。趣味は国際交流、太極拳。著書『もっと頭のいい収納―「かたづけ上手」のスッキリ生活術』のほか、共著『すまいのカルテット―春夏秋冬』、『いきいきさわやかーダイニング&キッチン』(女性建築技術者の会)『アルバムの家』(同)など。