第3回 コミュニティづくりのビジネス化


  富沢このみ(田無スマイル大学実行委員会代表)


 

 第2回のコラムで、若者に「社会に貢献したい」という意識が高まっていると記したが、「まちづくり」や「市民活動」に若者を呼び込むのは、なかなか難しい。多くの市民団体は、資金的な余裕がなく、若い人を雇えるだけの力がないからだ。時間が豊富な年金暮らしの人が中心となり、若い人は、土日等時間をやりくりしてボランティアで手伝うというのが一般的で、持ち上がりで年齢が高まっている。NPO法人でしっかりしているところは、行政等の受託を受けて安定した経営をしているものの、活動に制限があって窮屈そうだ。
 
 しかし最近では、企業のCSV(Creating Shared Value)(注1)を活用し、若者が社会的な活動に携われる機会を作るケースが出てきた。

 西東京市では、一般社団法人「まちにわ ひばりが丘」がそれだ。「まちにわ ひばりが丘」は、株式会社HITOTOWA(荒昌史代表)が民間ディベロッパーから受託、従来のひばりが丘団地全体のエリアマネジメントを行うために設立された。

(注1) 少し前には、企業の社会的貢献として、専らCSR(Corporate Social Responsibility)が注目されていた。CSRは、企業が寄付やボランティア活動等を通じてイメージの向上をはかるのに対し、CSVは、企業が本業を通じて社会課題を解決し、結果として競争力高めるという違いがある。社会的な行為という面では同じだが、前者が受け身的なのに対し、後者は、攻めの戦略といえる。

 

まちにわひばりが丘が運営するコミュニティセンター「ひばりテラス118」

まちにわひばりが丘が運営するコミュニティセンター「ひばりテラス118」

 

 一般社団法人「まちにわ ひばりが丘」-エリアマネジメント

 西東京市と東久留米市にまたがるUR都市機構のひばりが丘団地がリニューアルされたことは記憶に新しい。高層化によって空いた敷地は、民間ディベロッパーに販売された。

 ひばりが丘団地(現ひばりが丘パークヒルズ)には、既に自治会があり、この自治会は、団地設立当初、生活にいろいろと不便なことを自ら解決しようと組織化されたもので、現在でも、しっかりと活動している(注2)。しかしながら、民間ディベロッパー数社に販売された敷地には、複数のマンションが建ち、しかも二つの市にまたがることもあり、放っておくと無機質なまちになりかねない。

(注2) ひばりが丘団地自治会については、原武史『レッドアローとスターハウス-もうひとつの戦後思想史』(新潮文庫、2015年)に詳しい。

 このような懸念があるため、従来のひばりが丘団地エリア全体を対象にエリアマネジメントを行おうと設立されたのが、一般社団法人「まちにわ ひばりが丘」だ。あらたにエリア内にマンション等を建設する大和ハウス工業、住友不動産、コスモスイニシア、オリックス不動産の社員が理事を務め、UR都市機構の職員が監事となっている。事業者が増えれば、ここに加わってもらう予定だ。正会員は、理事になっている企業のマンション管理組合であるが、既存の団地自治会などとも連携していく。

まちにわ ひばりが丘の組織概要 (出所)まちにわ ひばりが丘のHP

まちにわ ひばりが丘の組織概要 (出所)まちにわ ひばりが丘のHP(クリックで拡大)

 

 UR都市機構が以前の団地の低層棟118を賃貸で提供し、これをリニューアルした「ひばりテラス118」がこの事業の核となるコミュニティセンターとなっている。ここでは、さまざまなイベントが行われており、また、「まちにわ師」と呼ばれるボランティアの養成や、「AERU」という季刊紙のライターやカメラマンを募集するなどして、地域で実際に活動する人を増やそうとしている。

 

法政大学院生とひばりテラス118を訪問。前列右端が事務局長の高村和明さん、2人目が筆者(2016年8月7日)

法政大学院生とひばりテラス118を訪問。前列右端が事務局長の高村和明さん、2人目が筆者(2016年8月7日)

 株式会社HITOTOWA-ネイバーフッドデザイン事業

 この事業を受託したのが、株式会社HITOTOWAだ。2020年度までに、「まちにわ ひばりが丘」の理事・監事を住民に引き継ぐことになっている。HITOTOWAは、「人と和のために仕事をし、企業や市民とともに、 都市の社会環境問題を解決します」と謳っている。主に、集合住宅を軸にした人々のつながりをつくることで都市の社会課題を解決するネイバーフッドデザイン事業やCSR/CSVコンサルティング事業を手掛けている。「まちにわ ひばりが丘」は、このネイバーフッドデザイン事業にあたり、事務局長として高村和明さん(1985年生まれ)が派遣されている。
 
 HITOTOWAは、ひばりが丘だけでなく、ディベロッパーと組んで同様な事業を行っている。たとえば、西宮市の浜甲子園団地地域の建替・再開発事業に伴うエリアマネジメントを長谷工、京阪電鉄不動産、積水ハウス等を顧客として行っているし、野村不動産等を顧客として、さいたま市のマンション「プラウド浦和高砂」でも防災・減災や子育てなどのイベントを行っている。また、三菱地所レジデンス、相鉄不動産、丸紅を顧客に、西新宿5丁目に開発中の「ザ・パークハウス西新宿タワー60」のネイバーフッドデザイン事業を行っている。

 代表の荒さんは、東日本大震災を経て、マンションや商業施設などで防災減災研修・ワークショップを行い、自助だけではなく共助もできる「よき避難者」を育てる「Community Crossing Japan」を立ち上げ、さまざまな研修を行っている。これもネイバーフッドデザイン事業のメニューの一つとなっている。
 
 目からウロコ-若い人が常勤でまちづくり

 おそらくHITOTOWAは、これらディベロッパーに、これからは、集合住宅にも人と人のつながりをつくることが大切であり、それが商品価値を高めると説き、CSVとして取り組むことの重要性を理解させているのだろう。そのうえで、ネイバーフッドデザイン事業の仕事を得ていると想像される。

 これは、市民活動をしている私からみると、目からウロコだ。市民団体では、前述のように、資金がないため、恒常的に働いてくれる若い人を雇えない。ところが、大手ディベロッパーがその必要性を感じて資金を提供してくれれば、高村さんのような若手を常勤で雇えるのだ。
 
 一般社団法人「まちにわ ひばりが丘」は、正会員からのお金とひばりテラス118の賃貸料等で回していかなければならず、それはそれで大変ではあるだろう。しかし、少なくとも、事務局長の給与を出せるというのはうらやましい。年金暮らしの人とボランティアが時間をやりくりして細々続けている「まちづくり」イメージからするとまさに「イノベーション」だ。

 

【関連リンク】
・まちにわ ひばりが丘:http://machiniwa-hibari.org/
・HITOTOWA:http://hitotowa.jp/

 

05FBこのみ【著者略歴】
 富沢このみ(とみさわ・このみ)
 1947年東京都北多摩郡田無町に生まれる。本名は「木實」。大手銀行で産業調査を手掛ける。1987年から2年間、通信自由化後の郵政省電気通信局(現総務省)で課長補佐。パソコン通信の普及に努める。2001年~2010年には、電気通信事業紛争処理委員会委員として通信事業の競争環境整備に携わる。
 2001年から道都大学経営学部教授(北海道)。文科省の知的クラスター創成事業「札幌ITカロッツエリア」に参画。5年で25億円が雲散霧消するのを目の当たりにする。
 2006年、母の介護で東京に戻り、法政大学地域研究センター客員教授に就任。大学院政策創造研究科で「地域イノベーション論」の兼任講師、現在に至る。2012年より田無スマイル大学実行委員会代表。2016年より下宿自治会広報担当。
 主な著書は、『「新・職人」の時代』』(NTT出版)、『新しい時代の儲け方』(NTT出版)。『マルチメディア都市の戦略』(共著、東洋経済新報社)、『モノづくりと日本産業の未来』(共編、新評論)、『モバイルビジネス白書2002年』(編著、モバイルコンテンツフォーラム監修、翔泳社)など。

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