第1回 ほしい未来は自分でつくる


  富沢このみ(田無スマイル大学実行委員会代表)


 

 9月からこのコラムを担当させて頂くことになったので、まずは、私の立ち位置をお話することから始めたいと思う。

 生まれも育ちも西東京

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小学生の頃・母とわが家の前で

 私は、生まれも育ちも西東京市(田無)。中島飛行機の社宅であった二軒長屋で生まれた、いわゆるベビーブーマーだ。幼稚園から中学校までは地元で暮らしていたものの、高校から先は良くある勤め人と同様、地元は寝に帰るだけの場所になっていた。親の介護で地元に戻り、45年ぶりにほとんどの時間を西東京市で過ごすようになった。

 その親が亡くなって、「はてどうしようか」と惑う折、縁あって地域活動に関わるようになった。一般的に、地域活動の団体は、「環境」「子育て」「福祉」といったようにテーマがはっきりしていることが多いのだが、特にある分野に強い思い入れを持っているわけではなかったので、ちょうど出来立ての団体「田無ソーシャルメディア研究会(通称ソメ研)」に紛れ込んだ。

 「ソメ研」から地域活動をスタート

 「ソメ研」は、既に自ら団体を立ち上げて地域で活動している人や会社員の集まりで、普段はなかなか集まれない。このため、当時流行りだしたソーシャルメディアを使い、誰かが面白そうなことをやろうと言い出し、その指に止まった人が一緒にやるというような「ゆるい」集まりだった。「まちを楽しむ」「人のつながりをつくる」「30年後笑って暮らせる愉しいまちを作る」というようなことを掲げていた。

 さまざまなイベントを実施したが、思い出に残るのは、「スマイルフォト100」(100人の笑顔の写真を集める)、市民祭りで「西東京産野菜を使った鶏鍋」を出店、メンバーの奥さんが振付した「スマイルダンス」を有志で踊り、田無駅前などまちなかで撮影、といったあたりだ。ほぼ1年でさまざまなことをやって楽しんだので、結構目立つ存在になった。

 ところが、任意団体の常で、メンバー間の意見の違いから、「ソメ研」は、あっけなく終了!(注1)「ソメ研」の1事業として始めた「田無スマイル大学(通称スマ大)」がそれを引き継ぐことになった。
 (注1)「ソメ研」に代わる「ソーシャルグッド西東京」という地域活動のためのプラットフォームをつくったものの、実動していない。

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スマイルフォト100(鈴木剛さんのプレゼン資料より)

 「地域イノベーター養成講座」-「まな板の鯉」が人気

 「スマ大」は、2012年の春に、「地域イノベーター養成講座」を2回ほど実施したのが始まりだ。毎週日曜日の午前9時から昼まで、2週連続のプログラムだ。実は、私は、その頃から、法政大学院で「地域イノベーション論」を1コマ担当していた。しかし、書類を読んだり頭で考えたりしたことが実際に役立つものなのか、地元で何か講座をやってみたいというのがそもそもの動機だった。

 副代表の鈴木剛さんと相談するなかで、単に勉強するというよりも、実際に、地域にイノベーションを起こす人を養成するような内容にしようということになった。受講対象者は「16~40歳くらいで地域や社会の課題解決の担い手になりたいという意志を持っている方」とチラシに入れたので、のちのち、高齢の方から文句が出ることになった。

公民館などに置いてもらうチラシと鈴木さんのフェイスブックの「友達」約1000人が募集対象で、実際に人が集まるものだろうかとハラハラしながら始めた。ところが、伊勢原や町田など西東京市外からも来てくれる人がいて、「ソメ研」のメンバーも加わり、10数人だがとても刺激的な講座となった。

 当初は、私の講義を中心にと思っていたのだが、メンバーがやりたいことをプレゼンし、それを全員で叩く「まな板の鯉」方式が人気を呼び、皆がまな板の鯉になりたがった。他者に厳しい指摘をもらうことで、自分の考えの再考に結びついたからだ。そもそも意欲のある人が集まってくれたので、その後もメンバーそれぞれ試行錯誤しながら自らのビジョンに向かって進んでいる。

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地域イノベーター養成講座第Ⅱ期。前列左から2人目が筆者(仙人の家=市内東伏見5丁目)

 「欲しい未来は自分でつくる」-当事者意識とビジョンを持つ

 私は、漠然と、近隣の三鷹市では、行政が策定した長期計画を市民が「パブリックコメント」するという受け身の形ではなく、市民が長期計画を策定して市に提出するという能動的な参画をしているのがうらやましくってならなかった。西東京市でも、こういうことができないだろうかと思っていた。

 調べてみると、三鷹市では、20年以上かけてこうしたことができるようになったようだし、代々の市長がこうしたことをリードしてきたようだ。市民の側から仕掛けることなんて、可能なのだろうかと逡巡した。その折、服部圭郎『衰退を克服したアメリカ中小都市のまちづくり』(学芸出版社、2007年)を読んだ。市民活動をしている人が行政と連携したり、時には市長や市議になったりして、市民自らがすみやすいまちを作っていることを知り、「まぁ、ともかくやってみよう」という気になった。

 「スマ大」は、いろいろな活動をしながら、試行錯誤しているのが現状だし、メンバーそれぞれ想いが少しずつ違う。しかし、大きく掲げているのは、次の二つだ。

 一つは、当事者意識を持つこと。私たちは、何か気に入らないことがあると、すぐ行政や政治家のせいにする癖が身についている。確かに、選挙で一票を投じているが、それだけで良いのだろうか。「こんなまちなら住みやすいのに」「こんなサービスがあったらもっといいのに」と思うなら、それを自分ごととして考え、知恵を絞り出し、自分たちでやれることからやってみよう! そう思い、かつ実際に活動する人たちをたくさん生み出したいと思っている。

 ある防災イベントで実施した「避難所運営ゲーム(通称HUG)」が東日本大震災もあって需要が高まり、市内外で20回以上実施することになった。このゲームも、被災した折にお客様では居られないことを実感し、自分ごととして日常生活を考えるようになるという面で当事者意識を持つ啓蒙活動の一つとなっている。

 もう一つは、未来から考えること。一般に、行政が策定する長期計画では、トレンドで考えることが多い。現状がこうだから、将来はこうなるだろうと予測し計画する。そうではなくて、「あったらいいな」というビジョンから考え始めるのだ(注2)。そのビジョンを実現するためには、何が足りなくて、何が足かせになっているかを考え、そのギャップを埋めるための手立てを考える。天気予報は「forecast」だが、「backcast」といってあるべき姿から解決方法を探るやり方だ。
 (注2)当初、「あったらいいなを形にする」と言ってきたのだが、NPO法人グリーンズが「欲しい未来は自分の手でつくる」と言っており、この方が分かりやすいと最近では、「欲しい未来は自分でつくる」と言うようにしている。

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【図】トレンドとビジョンの違い

 持続可能性と社会的インパクト

 「スマ大」は、「ソメ研」を母体にしているので、活動は基本「楽しみながら」「まちで遊ぶ」感覚でやることにしている。もともと、自ら市民活動を立ち上げている人や会社勤めをしながら市民活動をしている人の集まりなので、年金暮らしで時間に余裕のある私が代表というか雑務全般を行っている。行政の施設を使わせてもらう必要上、書類の上ではコアメンバーがいるものの、基本的には、ヌエのような存在だ。テーマに興味を持った人、その折時間に余裕のある人が主になって活動するものの、誰が「スマ大」メンバーかと聞かれると困ってしまう。専ら、シンパ(共鳴者)に支えられている。

 NPO法人で財政的にも組織的にもしっかりしているところは、行政の受託事業を行っていることが多い。受託事業を行えば、人を雇うこともできるが、事務が煩雑になり、活動に制限がかけられそうだ。多くの市民団体は、創業者とともに年齢が持ち上がり高齢化していることが多い。新陳代謝を図り、持続可能な組織にしていくためには、何か収益事業を起こさなければいけないかもしれない。この頃は、株式会社で地域活動を始めているところも増えている。若手を継続的に呼び込み、他地域にも展開(スケールアウト)できるようになれば社会的インパクトも大きくなる。

 私自身、「欲しい未来」をつくれていないし、組織的にもこれで良いのだろうかと日々手探り状態だ。このコラムでは、「スマ大」のこうした課題も踏まえつつ、他地域等で注目される動きに触れてみたいと思っている。

 

05FBこのみ【著者略歴】
 富沢このみ(とみさわ・このみ)
 1947年東京都北多摩郡田無町に生まれる。本名は「木實」。大手銀行で産業調査を手掛ける。1987年から2年間、通信自由化後の郵政省電気通信局(現総務省)で課長補佐。パソコン通信の普及に努める。2001年~2010年には、電気通信事業紛争処理委員会委員として通信事業の競争環境整備に携わる。
 2001年から道都大学経営学部教授(北海道)。文科省の知的クラスター創成事業「札幌ITカロッツエリア」に参画。5年で25億円が雲散霧消するのを目の当たりにする。
 2006年、母の介護で東京に戻り、法政大学地域研究センター客員教授に就任。大学院政策創造研究科で「地域イノベーション論」の兼任講師、現在に至る。2012年より田無スマイル大学実行委員会代表。2016年より下宿自治会広報担当。
 主な著書は、『「新・職人」の時代』』(NTT出版)、『新しい時代の儲け方』(NTT出版)。『マルチメディア都市の戦略』(共著、東洋経済新報社)、『モノづくりと日本産業の未来』(共編、新評論)、『モバイルビジネス白書2002年』(編著、モバイルコンテンツフォーラム監修、翔泳社)など。

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