第37回 循環型経済に向かって

 

オランダにおける循環型経済の事例

 

 100%循環型経済を実現するという目標を掲げているオランダでは、官民が連携し、様々な試みが行われている。オランダにおける、いくつかの具体的な事例を挙げてみよう(注)

(注)以下の事例の多くは、写真も含めハーチ㈱が運営するWEBマガジン「IDEAS FOR GOOD」による。

 

(1) 壊すときのことを考えて建てる建築スタジオ「bureauSLA

 

 建築スタジオ「ビューロ・スラー(bureauSLA)」は、建築家と建築史学者、都市設計家、エネルギー専門家からなる建築スタジオで、資源やエネルギー、廃棄物の潜在価値を最大限に高める建築プロジェクトを手掛けている。

 創業者のピーター・ヴァン・アッシェさんは、お金に余裕のない音楽家の弟のために、日本でいうメルカリのような中古市場で資材を集め、防音装置付きの部屋を安価に作ったことをきっかけに、廃棄物を活用するなどの循環型建築分野に魅力を感じるようになった。

 代表的な作品は、「People’s Pavilion」。9日間のイベント用建築を依頼された折、サステナブルな作り方をしようと考えた。具体的には、木材や外壁、ガラス、タイル、プラスチックなどの資材を様々なところから借りてきて、イベントが終わったらまたみんなに返すという方法だ。

 借りてきたすべての資材は、一切加工しないことに決めた。穴を開けたり、切り落としたり、接着剤を使ったりしない。そのためには新しい建築モデルが必要だった。建築の専門家集団として、検証に検証を重ね、紐でくくりつけるような構造の新しい建築モデルを編み出した。

 

People’s Pavilion

図3 People’s Pavilion

 

 建築モデルができあがったところで、一般に向けて資材の提供を募り、多くの市民や企業から資材の提供を受け、イベント終了後にそのままの形で返却した。

 

図4 イベントを終えすべての資材を返す前に記念撮影 (c) Jeroen van der Wielen

 

 ピーターさんは、9日間できたことは、9年間でも実現できるはず、不要になった時のことを考えてからつくる、買うことが循環型の思考であると言う。一方で、これまでの接着剤やシリコンを多用してきた建築については、廃棄するのが大変であり、これを負の遺産にしないためには、愛着を持って長く使っていくことが必要であるとしている。

(出典)IDEAS FOR GOOD「【欧州CE特集#26】壊すときのことを考えて建てる。オランダのサーキュラー建築スタジオ『bureauSLA』

 

(2)有機性資源を循環させる「ワームホテル」

 

 ワームwormとは、ミミズなどの虫のこと。「ワームホテル」というのは、地元の生ごみを有機性資源として循環させるためのコンポストのことだ。オランダでは、これをコミュニティづくりや子供たちの環境教育にも活用しようとしている。

 一般的なワームホテルは高さ約2メートル。鐘状で、耐久性のあるエコ素材でつくられている。一軒あたり数kgのミミズが暮らしている。住民は有志で手を挙げればワームホテルの支配人になることができ、そこに近所の人が生ごみを持ち込み、虫たちが食べて分解し、豊富な養分を含む土に還す。そして、地元住民たちでこの土を分け合い、肥料として活用するという仕組みだ。

 

図5 ワームホテルのイメージ

 

 ワームホテルには、大小さまざまなものがあり、一般的には、50~500ユーロ(7000円から7万円)くらいで購入できる。これに、ミミズと微生物が多く含まれるミミズの寝床に10ユーロ(1400円くらい)かかる。ワームホテルでは、年に1~2回堆肥が収穫される。その折には、地域ごとに収穫祭のように、小さなパーティが開かれ、軽食や飲み物を楽しみながら、ワームホテルから熟した堆肥を取り出し、それを住民で分配する。

 アムステルダム市内だけでも現在200軒ほどのワームホテルがあり、1500世帯が生ごみを持ち寄る。現在さらに300人の住民がワームホテルの支配人に名乗り出ているとのこと。ワームホテルがどこにあるかは、地図に書かれている。

 もちろん、良い肥料を作るためには、生ごみの分別が欠かせない。ワームホテルのホームページによれば次のように分別される。

 

生ごみの分別

表1 ワームホテルにおける生ごみの分別

(出典)IDEAS FOR GOOD「循環型都市のヒーローはミミズ!オランダの『ワームホテル』にみるサーキュラーなまちづくり

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