第39回 現代版駆け込み寺―生活サポート相談窓口

 

5.弱いところへの打撃が大きい

 

 西東京市の生活サポート相談窓口に来る人は、会社員だけでなく、飲食業、建設業、タクシー等運送業など、多岐にわたる。フリーランスや請負といった就業形態も多く、失業手当など社会保障を受けられない人も少なくない。年金で足りない生活費をパートで補っていた高齢者、親の仕送りで足りない部分をアルバイトで賄っていた学生、不安定で低賃金の就労形態のなかギリギリの生活をしていた外国人などなど。年齢も20歳未満から20代、30代、40代、50代、60代、70代、80代以上と全世代に渡っている。

 

 コロナ禍以前から、生活困窮している人たちが多いと認識されていたのは、①母子世帯、②子ども、③高齢女性であったが、コロナ禍による打撃は、こうした人たちに大きく及んでいる。

 

 ① 母子世帯の貧困
 図5でみたように、一人親世帯の相対的貧困率は、50%前後と高い。なかでも、母子世帯は、父子世帯に比べ就労収入が半分に留まっている。日本の母子世帯の就業率は、諸外国に比べても高く、働いているにもかかわらず、低賃金・非正規雇用により、低い収入となっている。コロナ禍では、飲食関係、娯楽関係、観光関連、大型小売などへの営業自粛が続いており、パート、アルバイト、派遣などで働く女性たちへの影響が大きい。

 

母子家庭の現状

図6 母子家庭・父子家庭の現状
(出所)厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課母子家庭等自立支援室『令和元年度 母子家庭の母及び父子家庭の父の自立支援施策の実施状況』 令和3年3月3日

 

 

 ② 子どもの貧困
 親の所得が低ければ、子どもの貧困につながる。貧困の子どもへの影響は、多面的・重層的だ。親が低賃金の長時間労働をせざるを得なければ、家に帰っても、子どもだけで過ごさなければならない。孤食となり、栄養バランスの取れた食事ができない。経済的に困窮していれば、他の子どもたちのように塾や習い事に通うこともないため、一人で遊ばざるをえず、友達が出来にくい。遊園地や水族館に行く、流行りのゲームをするなどのさまざまな文化体験をする機会にも恵まれないことが多い。親が健康保険に加入していない、あるいは自己負担分の支払いができないため、適切な医療を受けられない場合もある。

 さらに、親が忙しさから、ストレスを溜め、子どもに暴力を振るったり、ネグレクトしたりなど弱い子どもにしわ寄せされることもある。家族に要介護者がいる、あるいは自分より小さな妹や弟がいる場合には、親代わりとなって、子どもが面倒を見ているケースもある。

 学力が追い付かない、経済的理由から進学を諦めるなど、将来への夢を持ちにくく、自己肯定感が低くなりがちである。学力が低い、学歴が低いことは、彼ら彼女らが大人になった時に、また低賃金の仕事にしかつけないなど、貧困が世代を超えて続いていくことになりかねない。

 

貧困の連鎖

図7 貧困の連鎖
(出所)子どもの未来応援国民運動

 

 2013年には、子どもの貧困対策法、正式名称「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が成立し、子どもの貧困対策として、図8の4つの柱が進められている。以前から、全国各地で子ども食堂、フードパントリー、無料の学習支援などが行われていたが、コロナ禍では、その必要性が高まっている。

 

子どもの貧困対策4つの柱

図8 子どもの貧困対策4つの柱
(出所)子どもの未来応援国民運動

 

 ③ 高齢女性
 高齢者は、年金があるので、生活が楽と思われがちだが、特に夫を亡くした高齢女性の場合には、無年金(注4)、または国民年金の遺族分(配偶者の4分の3)のみで暮らしている人が相当程度いる。これらの人たちは、貧困線以下、月4~8万円の現金収入しかないため、厳しい生活を送っている。

 

高齢世帯の所得分布と公的年金・恩給の有無

図9 高齢世帯の所得分布と公的年金・恩給の有無
(出所)厚生労働省『国民生活基礎調査』2012年
(注)福島県を除く。

 

 生活保護を受けている高齢女性も多いが、月数万円の働き口を探して年金と合わせ、生活保護を受けずに暮らそうとしている人も多い。そうした人たちが、コロナ禍で仕事を失い苦しい生活を余儀なくされている。

(注4)今から35年前の1986年に年金制度が改正され、会社員の妻(専業主婦)も国民年金に強制加入となったが、それ以前においては、加入は任意であった。このため、無年金の女性高齢者が存在している。

次のページに続く

【目次】
1. 西東京市の福祉丸ごと相談窓口とは
2. コロナ禍で急増した相談件数
3. 日本における「貧困」の再発見
4. 絶対的貧困と相対的貧困
5. 弱いところへの打撃が大きい
6.コロナ後の暮らし

 

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