第10回 サービスに不満を感じたら … 上手な苦情の伝え方


 斎藤澄子(社会福祉士・精神保健福祉士)


 

 私の本業は、某区の窓口で、サービス利用者からの苦情に対応することです。毎日のように、さまざまな苦情が集まってきます。「100円ショップで買ったスプーンをヘルパーが紛失した」「職員が近所の人に個人情報をもらした」「四角い居室を丸くしか掃除してくれない」「職員の介助の不手際で転倒、骨折してねたきりになった」……

 苦情は言ってもいいのです。でも、伝え方は大事。
 今回は、苦情の意味について、また、事業者への上手な伝え方について、お話しします。

 とかく苦情は言いにくい

 サービスを利用すると、いろいろ気がつくことがあると思います。よいことばかりではありません。「ちょっと違うのでは……」「おかしいんじゃないの?」「ありえない」「許せない」など、改善してほしいと思うことは少なくないでしょう。

 でも、思ったからと言って、即行で事業者に連絡するかというと、実際は、ためらいを感じる方がほとんどだと思います。
 なぜ、苦情は言いにくいのでしょうか。

 皆さんは、商品・サービスについて、企業や自治体に苦情を言ったことがありますか?
 経験のある方はおわかりでしょうが、一般的に「苦情を言う」という行動には、相当なエネルギーが必要になります。

 苦情を言うためのエネルギーが湧きにくい、4つのパターンを上げてみましょう。

☆パターン1 「こんなことで、苦情を言ってもいいの?」
 自分のわがままや思い込みではないのか、根拠のない苦情ではないのか、考えるほどに、苦情を伝えることに自信が持てなくなる。

☆パターン2 「お世話になっているから、言いにくい」
 自分のできないことをしてもらっているのだから、苦情を言うなんて申しわけない。100分の99までは満足しているので、これ以上求めるのは相手に悪い気がする。

☆パターン3 「苦情を言うと、あとで不利になるのでは?」
 苦情を言ったら、気を悪くして、あとで意地悪されるかもしれない。悪い噂を流されることが心配。

☆パターン4 「自分だけが、悪者になりたくない」
 事業者は、ほかの利用者にも同じことをしているのだろうから、誰かが言ってくれるだろう。率先して苦情を言うことによって、矢面に立ちたくない

イラスト= © 手島加江

イラスト= © 手島加江

 

 苦情を言うことは利用者の権利です

 苦情は言いたくない、でも、不満に思っていることを伝えなければ、改善が見込めない。我慢するか、我慢しないか。もちろん、決めるのは個人の判断です。

 でも、利用者には、苦情を言う権利があることを覚えておいてほしいと思います。利用者は苦情を言ってもよく、事業者は苦情に適切に対応しなくてはいけません。
「社会福祉事業の経営者は、常にその提供する福祉サービスについて、利用者等からの苦情の適切な解決に努めなければならない」(社会福祉法)
「指定事業者は、提供したサービスに係る利用者およびその家族からの苦情に迅速かつ適切に対応するために、苦情を受け付けるための窓口を設置する等の必要な措置を講じなければならない」(介護保険指定居宅サービス等の人員、設備および運営に関する基準)

 一般に、苦情が改善のきっかけになり、よりよいサービスに結びつくことは少なくありません。特に、事業者に悪気はなく、単に不適切であることに気づいていない場合、苦情はサービス向上につながりやすいのです。

 反対に、苦情を抑え込もうとしたり、誠実に対応しようとしない事業者は、いずれ、利用者からそっぽを向かれる恐れがあります

 上手に苦情を伝えるために

 苦情を伝える場合、ちょっとの準備をしておくと、問題解決が進みます。

①書類やメモをそろえる
 契約書や請求書などは、苦情の根拠を明確にする資料です。また、不適切な対応を受けた時間、場所、職員名、具体的な対応の様子などのメモがあれば、大変役立ちます。さらに、言いたいことをまずメモに書いてみて、整理してから話す、というのもよい方法です。

②本人・家族間で意見を統一する
 家族の中で、「改善してもらうべき」「そこまでしなくても」という意見の対立がある場合、事業所も、対応に困ります。事前に意見を統一しておきましょう。

③時間を置かずに伝える
不適切なことが起こったら、あまり時間を置かずに事業所に伝えましょう。介護の様子は記録に残されますが、職員の記憶は薄れます。様子見をしているうちに、事態が深刻になってしまうこともあるので、早いうちに伝えたほうが、解決も容易なのです。

④苦情の根拠を確認する
 苦情を言ってもいいのかどうか迷いがある場合、自治体や地域包括支援センターに連絡して、意見をきいてみましょう。内容によっては、あなたに代わって事業所に連絡してくれたり、悪質な場合には、事業者に指導を実施してくれることもあります。

 事業者にも思いやりを

 事業者を一方的に責めるだけでは、感情的な対立が起きがちで、問題の解決を難しくします。

 現在、介護報酬引き下げや人手不足によって、多くの事業者は苦しい状況です。苦情は受ける側にも負担がかかりますので、過度の要求は慎みたいものです。

 また、ちょっとした気遣いも忘れずに。事業所の忙しくない時間に連絡する(あるいは都合のよい時間帯をきいたうえで、あとで連絡する)、用件は手短かに要領よく話す、相手の人格を傷つけるような言葉は使わない、など、事業者に対する思いやりが、結局は、改善を促進する1つのキーになることが多いと感じています。(了)

 

【プロフィール】
 斎藤澄子(さいとう・すみこ)
 福岡県出身。都内某区で高齢者の相談業務に従事。社会福祉士・精神保健福祉士。元看護雑誌編集長。趣味はトランペット演奏、長年の「少年隊」のファン。
 手島加江(てじま・かえ)
 イラストレーター。1980年桑沢デザイン研究所卒業。82年頃よりフリーとして活躍。広告、雑誌、書籍、CDなど。個展、グループ展など多数。

 

 

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