第9回 認知症の高齢者を支える成年後見制度(2)


 斎藤澄子(社会福祉士・精神保健福祉士)


 

 前回は、成年後見制度の概要をご紹介しましたので、今回は、この制度を利用するにあたって知っておいたほうがよいことをお伝えします。

 

 誰が後見人になるのか

 

 申立ができるのは、本人、配偶者、四親等以内の親族等、成年後見人等、任意後見人、成年後見監督人などです。身寄りがいなかったり、家族関係がとても悪くて、申立をする人がいない場合は、市区町村長、検察官が申し立てることができます。

 申立にあたっては、後見人等が必要な理由やその役割を理解し、だれが後見人等になるのか、家族の中で、よく話し合っておく必要があります。

 申立時に後見人の候補を記入しますが、必ずしも、そのとおりになるとは限りません。家庭裁判所は、親族以外の第三者(弁護士、司法書士、社会福祉士等)を後見人に選任することが少なくありません。

 最高裁判所の概況報告によれば、平成26年12月末日までに選任された後見人等のうち、親族は35%、第三者後見人が65%でした。多額の財産があったり、家族間で激しい争いがある場合だけでなく、第三者が選任される傾向が強くなっているのです。

 なお、第三者が選任された場合は、本人の財産から、第三者後見人に報酬が支払われます(後見人等が裁判所に報酬付与を申し立てた場合)。

 

イラスト= © 手島加江

イラスト= © 手島加江

 

 いつ申立をするのか

 

 最高裁判所の概況報告によれば、平成26年12月末日までの申立の動機は、「預貯金等の管理・解約」が最も多く、次いで、「介護保険契約」「身上監護」「不動産の処分」「相続手続き」と続きます。保険金受け取りや訴訟手続きのために申立を行ったというケースも少なくありません。

 平成26年度は、申立から審判まで、全体の約76%が2か月以内、94.3%が4か月以内に終結しました。書類を集める期間や審判が確定するまでの期間もいれると、さらに時間がかかります。特に、相続手続きや生命保険受け取りのための申立などでは、どなたかが亡くなったわけですから、バタバタしているところへ、後見申立の手続きが加わるので、申立をする家族も大変です。

 多くの事例を見ている私としては、本人の判断力が落ちてきたかなあ、という段階で、成年後見制度利用を検討しておいて、状態が安定しているときに手続きを行うことが望ましいと考えます。実際の申立には至らなくても、初期の段階で、制度の概要を把握しておくこと、相談窓口を知っておくことをお勧めします。

 

 後見人らの仕事

 

 後見人等の役割は、本人の意思を尊重し、かつ、本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら(身上配慮義務)、財産を適正に管理あるいは管理の支援をすることです。

 ですから、本人の預貯金でリスクの大きい投資を行ったり、後見人等が本人からお金を借りたり、家庭裁判所の許可なく本人の不動産を売却したりすることなどは、厳に戒められるところです。また、介護サービスが必要なのに利用を妨げたり、本人が嫌がるのに無理に施設に入所させたりすることも、制度の趣旨からは大きく外れています。

 なお、後見人等に不適正な行為があった場合、裁判所によって解任されたり、悪質な場合には、業務上横領罪に問われることもあります。未成年後見人を含む後見人等による横領の被害額は、2014年に、少なくとも56億7千万円に上ったとのことです。

 

 後見人を自分で決めることができる任意後見制度

 

 読者の中には、「後見人は、自分で決めたい」という方もおられるかもしれません。それを可能にするのが「任意後見制度」というものです。

 任意後見制度は、判断力が低下する前に、将来を見越して、後見人を決めておく制度です。90歳、100歳になっても、判断力が保たれている場合は、この制度は使えませんので、掛け捨ての保険のようなものです。

 手続きは家庭裁判所ではなく、公証役場で任意後見契約の公正証書を作成してもらい、法務局に登記することで完了します。契約には、財産管理に関する項目だけではなく、どこで暮らしたいか、葬儀はどうするか、などの内容も入れることができます。任意後見人は誰に頼んでもよく、親族や親しい友人でも構いません。

 実際に判断力が低下してきたら、本人や家族、任意後見人を引き受ける人が、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し出ます。監督人が選任されたところで、初めて正式な任意後見人として実務を行うことが認められます。

 ただし、任意後見人を頼んだ人が本人より先に亡くなったとか、また、ながいあいだに本人と任意後見人候補が仲たがいしてしまったという話もあります。契約の内容をよく考え、任意後見人候補とよく話し合ったうえで、契約することが大事です。

 

 相談の窓口は社会福祉協議会の権利擁護センター

 

 東京都は、制度の普及と利用促進を図るため、48区市に成年後見推進機関を設置しています。西東京市の場合は、「西東京市社会福祉協議会権利擁護センター」が推進機関になっています。

 紙数が尽きてしまいましたので、ここでは説明しませんが、このほか、成年後見制度に関連した用語に、「後見等監督人」「特別代理人」「後見制度支援信託」「医療同意」「報告義務」などがあります。また、判断力の低下が軽度の場合、法的な代理ではないものの、金銭管理と福祉サービス利用を支援する「日常生活自立支援事業(地域福祉権利擁護事業)」というサービスもあります(社会福祉協議会が実施しています)。

 これらについても、権利擁護センターで丁寧にくわしく説明を受けることができます(多分)。制度利用が必要な方やご家族は、一度相談されてはいかがでしょうか。

 

 

【プロフィール】
 斎藤澄子(さいとう・すみこ)
 福岡県出身。都内某区で高齢者の相談業務に従事。社会福祉士・精神保健福祉士。元看護雑誌編集長。趣味はトランペット演奏、長年の「少年隊」のファン。
 手島加江(てじま・かえ)
 イラストレーター。1980年桑沢デザイン研究所卒業。82年頃よりフリーとして活躍。広告、雑誌、書籍、CDなど。個展、グループ展など多数。

 

【関連先リンク】
・西東京市 権利擁護センター「あんしん西東京」(西東京市社会福祉協議会)
>> http://www.n-csw.or.jp/service/02/fukushi-service/anshin/

 

 

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