第7回 「捨ててはいけない」書類の話


 斎藤澄子(社会福祉士・精神保健福祉士)


 

 書類はたまる

 

 介護保険や行政の高齢者サービスを使い始めると、いろいろな書類がたまってきます。例えば、契約書、利用のしおり、各種の利用計画書、請求書、領収書……。毎月届けられるものもあり、見る見るうちに、山になります。

 断捨離ばやりの世の中、「捨てちゃおうかな」と思う方もいるかもしれませんね。
 でも、ちょっと待ってください。確かに、捨てて差し支えない書類も少なくありませんが、一方で、必ず保管しておかなければならない書類もあるのです。
 今回は、そんな書類のお話をします。

 

 利用開始時にもらった書類は保管しておこう

 

 介護保険をはじめとした民間事業者によるサービスを利用するとき、ほとんどの場合で、「契約書」「重要事項説明書」などという書類を渡され、署名捺印を求められます。このときの書類は、絶対に捨ててはいけません。なぜなら、これらは、利用者と事業者のお約束を文書化したものだからです。

 どんなサービスが受けられるのか、だれがサービスを担当するのか、キャンセル料はかかるのか、緊急の連絡はどこにするのか、事業所の営業時間は何時から何時までなのか、土日は対応してくれるのか、利用料はどのように支払うのか、個人情報はどのように守られるのか、利用を打ち切るにはどんな手続きが必要なのか、苦情は誰に言えばよいのか、などなどなど。

 契約によるサービスでは、利用者と事業者双方に、義務と権利が生じます。違約すれば、民事訴訟の対象になることもありえます。約束が守られないとき、契約書類があれば、それを根拠に、事業者に対応を求めることができるのです。

 なお、契約書とは異なりますが、行政サービスの申し込み時に渡される「利用のしおり」などにも、注意事項や連絡の方法など、大切なことが書かれています。こちらも、きちんととっておきましょう。

 

シニアライフの知恵

イラスト=©手島加江

 

 ある程度は残しておきたいケアプラン

 

 介護保険を利用すると、ケアマネジャーが作成する「介護サービス計画」(ケアプラン)のほか、「通所介護計画」「訪問介護計画」などサービスごとの利用計画書を渡されます(施設の場合は、ケアプランはなく、施設介護計画のみ)。

 このうち、ケアプランは毎月、利用者に提示され、利用者や家族による同意印を求められます。その他のサービス計画のほうは、概ね6カ月ごとに更新されます。

 毎月のケアプランを全部保存しておく必要はないと思いますが、ある程度は残しておくことが望ましいと考えます。「何かおかしい」と感じたとき、以前の状況がわからないと、比べようがないからです。(中には、3年間一度も変更がないケアプランを見たこともありますが、それはそれで問題です)。保管する目安を上げてみますと、

①至近3カ月分のケアプラン
②ケアプランの内容が変わったとき
③ケアプランを作成したケアマネジャーが変わったとき

 介護計画書や、サービス開始・変更時に開かれるサービス担当者会議の「会議録」も、サービス内容が変わった前後の分は保存しておくとよいでしょう。

 

 請求書・領収証

 

 毎月渡されるものですから、どんどんたまるのが、請求書や領収証です。
 ときどき、「口座振替にしているので、請求書や領収証は捨てています」と言われる方に出会います。ただ、通帳に記載されるのは金額だけなので、明細がわかりません。明細がわからないと、事業所に確認するときに、困ります。保管の目安としては、

①至近3カ月分
②突出して金額が高いか、あるいは極端に安い場合
③内容に、今まで見たことのない項目が記されている場合

 このほか、デイサービスなどで渡される「プログラム予定表」や「献立表」、行事のお知らせ、家族会への招待状……。これらは、終わったものは捨てても構いません。

 

 百円ショップを活用しよう

 

 保管の方法でお勧めしたいのは、百円ショップでファイルを購入することです。いくらか厚みのあるファイルを選びましょう。種別、月日順に整理することが望ましいのですが、とりあえず、絶対に捨ててはいけないものと、毎月たまるものに分けて、入れていきます。ファイルは目につく、決まった場所に置くようにします。いっぱいになったら、整理しましょう。

 

 もしものときに、書類さえあれば

 

 私が勤務する、某区の相談窓口には、ときどきこんな電話がかかってきます。

(利用者本人から)「今日、デイサービスをキャンセルしたいのだけれど、どこに電話したらいいのか、わからない」
(配偶者から)「いろいろな手続きを任せていた夫が急に入院した。連絡や支払いをしなければならないけれど、何が何だかわからない」
(利用者の子どもから)「離れて暮らしている親が急に入院したので、利用している会社に連絡をしたいのだけれど、連絡先が、わからない」

 「温泉を使ったデイサービス」とか、「向かいに大きな病院がある」とかのヒントがあれば、私のほうで事業所を探すことも可能ですし、行政は給付管理のために利用中の事業所を把握しています。でも、書類さえあれば、面倒な問い合わせをしなくても済みます。また、書類がそろっていれば、対応する窓口で、より深く、より適切な助言を期待できます。

 書類の保管は、あなた自身に役立つだけではありません。断捨離もよいけれど、必要なものまで捨ててしまわないでください。

 

【プロフィール】
 斎藤澄子(さいとう・すみこ)
 福岡県出身。都内某区で高齢者の相談業務に従事。社会福祉士・精神保健福祉士。元看護雑誌編集長。趣味はトランペット演奏、長年の「少年隊」のファン。
 手島加江(てじま・かえ)
 イラストレーター。1980年桑沢デザイン研究所卒業。82年頃よりフリーとして活躍。広告、雑誌、書籍、CDなど。個展、グループ展など多数。

 

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