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第10回 女性がキラキラ輝く「鶴岡ナリワイプロジェクト」


  富沢このみ(田無スマイル大学実行委員会代表)


 

 雪の残る月山と鳥海山が見え、水を張った田んぼには小さな苗が植えられている。そんな風光明媚な山形県鶴岡市で、女性たちが自分らしい「ナリワイ」を見つけて活き活きと輝いている(注1)。今回は、鶴岡ナリワイプロジェクト(HP:http://tsuruoka-nariwai.com/)を視察するチャンスに恵まれた(注2)ので、その報告とそこから読み取れることを考えてみたい。

(注1)「鶴岡ナリワイプロジェクト」は、女性限定ではないが、圧倒的に女性が多い。
(注2)株式会社エンパブリックの視察ツアーに参加。

 

月山と田んぼ(筆者撮影)

 

1.「ナリワイ」とは

 

 鶴岡ナリワイプロジェクトは、「好きなこと・得意なこと」と「地域の困った」を掛け合わせ、月3万円程度の利益を目指す(注3)小さな起業家「ナリワイ起業家」を育てるプロジェクト。

(注3)鶴岡ナリワイプロジェクトは、藤村靖之『月3万円ビジネス』をベースにしている。

 

 一般に起業というと、特別な人がやること、将来的には会社を大きくするといったイメージがあるが、「ナリワイ起業家」は、日々の生活のなかで「あったらいいな」と思われるもののうち、自分でもやれそうなことを見つけて仕事にしていこうというもの。いわば小さな仕事づくりである。

 

ナリワイ起業のイメージ
(出所)鶴岡ナリワイプロジェクト『ナリワイカタログ~しごとづくりは、つながりづくり、地域づくり~』

 

 「生業(せいぎょう、なりわい)」とは、生活を営むための仕事のこと。ネット検索をすると、「(プロの)仕事」は「生業」とは違う、「生業」は日々の暮らしを支えることだけだが、「(プロの)仕事」は、先を見据えて、今すぐにお金にならないこともやってのけることだ、仕事とは、こうでなくてはならない……といったように、「生業」が「仕事」に対し劣っているイメージで語られることが多い。

 しかし、鶴岡では、生業を「ナリワイ」とカタカナで表わし、積極的な意味づけをしている。
一つには、「小さい」ことを肯定的に捉えている。「小さい」ことで「あったらよいと思えること」はたくさんある。「小さい」からチャレンジしやすいし、痛手や風当りも少ない。もちろん、小さな仕事であっても、手抜きはしない。

 最も重要なことは、「ナリワイ起業家」を目指すことによって、一人ひとりが主体的に動く人に変わっていくことだ。「ナリワイ」づくりを模索するなかで、自分を再発見する。「私なんて何の取り柄もない」といった思い込みから抜け出し、自分の可能性を自分でつぶさず、「自分の未来は自分でつくろう!」と思うようになる。

 

2.鶴岡ナリワイプロジェクトの背景にあるもの

 

 鶴岡市は、庄内藩の城があった城下町で、今なお山伏が修行をする出羽三山など、豊かな自然と文化に恵まれた町だ。「男性が社会の表を担い、女性は裏で支える」といった社会通念が残っているという。また、三世代同居が全国一多く、結婚しても女性が働くのは当たり前という地域性だ。

 家族の都合や夫の転勤などで鶴岡にUターン、Iターンしてきた女性は、それまで主体的に専門的な仕事をしてきた人でも、地方で、自分のキャリアを活かせるフルタイムの仕事を見つけるのは、難しい。また、「働くとは雇われること」だと思っている人が多く、契約更新時期になると、次の仕事が決まらない不安な日々を過ごしていることが多いという。
 
 こうした傾向は、鶴岡に限ったことではないだろうが、自身も鶴岡にIターンした井東敬子さん(鶴岡ナリワイプロジェクトのチームリーダー)も同様に感じていた。縁あって、「鶴岡ナリワイプロジェクト」に係ることになり、雇われる以外にも選択肢があるのではないか、自分の得意なことで小さくてもいいので、「ナリワイ」を創り、自分の人生を自分で決められるようになって欲しいと強く思うようになった。多くの田舎でそうであるように、出る杭は打たれがちだが、同じ思いの人たちが増えれば、大きな力になってまちの空気が変わってくるに違いない。井東さんは、そう思って、ナリワイ起業家を育てる「ナリワイ起業講座」を続けてきた。これまで31人の起業家が誕生した。これを100人にするのが井東さんの当面の目標だ。

 

東京から視察に来たメンバーを歓待してくれた井東さん(左端、隣が筆者)

 

3.鶴岡ナリワイプロジェクトの経緯

 

●2013~2014年度

 当初(2013年)は、鶴岡食文化産業創造センターで、仕事を作り出すための講座をやって欲しいとの話があった。そこで、『月3万円ビジネス』を執筆された藤村靖之氏の講演と対話型の講座を4回実施した。多くの人が来場し、藤村氏の考え方に賛同したのだが、残念ながら、実際に動き出す人は一人も出てこなかった。その理由を受講生に聞いてみると、「一人でやるのは心細い」、「お金をもらうことが怖い」といったような理由だった。

 そこで、「一人ではなく仲間と一緒にやる」、「ビジネスの練習をする機会を作る」ことが必要であると思い、2014年には、部活のノリで、「ナリワイ」部長を立候補させた。部員が2人以上いたら部をつくれて部長になれるというルールにしたところ、10人がやりますと手を挙げた。

 

●2015~2016年度

 これまでの実績をさらに次につなげようと、公益財団法人トヨタ財団の助成を得て、「鶴岡ナリワイプロジェクト」を実施することになった。1年目は、たくさんの参加者を集めようと無料で実施し、21人が集まったものの、受講生のレベルも想いも多様過ぎて、事務局の手が回らなくなってしまった。そこで2年目には、4000円とし、面接をしっかり行い、受講生12人で実施した。この2年間で31人の卒業生が誕生した。

 

●2017年度

 トヨタ財団の助成が終了し、今年度は、半年の講座(それまでは1年の講座)で料金も3万円にしたが、5名が参加している。プログラムは、6回コースになっており、第1回目の自己紹介からはじまり、やりたいことをかためて行き、早くも第5回目には、考えたサービスや商品をイベントで実際に販売してみる。そして第6回目に、その振り返りをして、事業計画を作り直し、半年後までに実際に動くよう指示して講座は終了する。この間に、講師(井東敬子、黒澤由希両氏:先輩起業家)が、受講生と一緒に、実践しながら伴走する。

 井東さんは、長い間、ホールアース自然学校でインタープリター(体験を通して自然についての理解を深める手伝いをする人)をしてきた経験から、ナリワイ起業家を育成するにあたっても、座学で学ぶよりも、失敗を怖がらず、体験しながら学んでいくことが近道と考えている。たとえば、2000円で売ろうと計画していたが、売れない場合、「今日は、練習なので1000円に値引きしますが、アンケートに答えて頂けませんか」など、次につながるヒントを得ることが大切という。

 黒澤さんは、ジュエリーデザイナーでもあり、販売員のインストラクターもしていることから、受講生の事業計画策定にあたって、ブランディングや価格設定などについてアドバイスを行っている。

 6回の講座の中では、受講生が互いに自分の得意技・出来る事を説明しあう機会がある。そのなかで、お互いに支援し合える関係を探る。たとえば、自分でナリワイを作ることは出来ないが、人の販売の手伝いは非常に上手い人がいる場合もあり、そうした長所を見つけ出してナリワイに結びつけることもあるという。

 

2017ナリワイ起業講座 第2回目の様子 鶴岡市勤労者会館にて(筆者撮影)

 2017年4月には、卒業生たち17人による「ナリワイALLIANCE(同盟)」(代表菅原明香(さやか)さん)が立ち上がった。ALLIANCEは、月1回「ナリワイやりたい!Talk Cafe」を開催。お互いに自分のナリワイの状況を報告しあうとともに、悩みを相談したりする。また、「ナリワイをやってみたいがどうしたらよいか分からない」という人たちも参加することが可能で、実際にやっている人の話を直接きける入門的な役割も果たしている。

 

4.ナリワイ起業家の紹介

 

 では、いったいどんなナリワイが生まれているのだろうか。HPにナリワイインタビューが掲載されているので、それを見て頂くのが一番良いが、私が直接出会った方を何人か紹介しておこう。

 

●互いに助け合い、刺激を受け合いながら成長

 鶴岡市櫛引地区で春夏秋冬に実施される「こしゃって(作って)マルシェ」で出会ったのは、「ルナリズム 心とカラダに宿る月のリズム」代表の諏訪部夕子さん。諏訪部さんは、女性ホルモンバランスプランナーであり、セラピスト歴9年、リラクゼーションサロン「Coco you」も経営している。「月3万円ビジネス」講座に参加して、働き方のヒントと感動を得た。その頃、女性の中に宿るバイオリズムと月の満ち欠けのリズムに注目しており、「ルナリズム部」を立ち上げ、「布ナプキン」をナリワイにしたいと思い立った。ルナリズム部の仲間やナリワイの同期生たちと試行錯誤しながら開発を進め、「針しごと~ちくちくらぶ」を始めていた福井今日子さんの「針仕事部」で試作品を作ってもらった。

 諏訪部さんは、布ナプキンを販売するのが目的というよりも、布ナプキンを作るワークショップを開催し、参加者が身体の悩みを話し合い、終わった後に心が晴れてくれることが目的だという。年頃のお嬢さんと親子で参加する方もおられると言う。

 

「こしゃってマルシェ」ルナリズムのブースにて 右端が諏訪部さん、隣が筆者

 また、ナリワイプロジェクトの中間報告会の折、カラフルで可愛い布ナプキンを見た湯田川温泉「ますや旅館」の女将、忠鉢泰子さんが「失禁パット」もつくれないかしらと思い立ち、一緒に開発することになった。女将さんとルナリズムの布ナプキンを縫製している「ハンドメイドアクセサリーneneco」さんとが、何度も試作を重ねて商品化した。失禁パットについては、湯田川温泉で以前から裁縫の好きな人たちが古布を活用し「おくるみ」と呼ばれるマスコットを作っており、この「おくるみの会」も縫製を担当している。

 布ナプキンは、同じくナリワイ起業家阿部さおりさんの「Alomaリラクゼーションルーム優」でも販売されている。

・ルナリズム 心とカラダに宿る月のリズムのHP:https://www.facebook.com/luna.rhythm/
・リラクゼーションサロン「Coco you」のHP:http://relaxationspace-cocoyou.tumblr.com/
・ハンドメイドアクセサリーnenecoのHP:https://www.facebook.com/handmade.neneco/
・Alomaリラクゼーションルーム優のHP:https://aroma-yuu.jimdo.com/

 

●体験を活かしたナリワイづくり

 五十嵐有紀子さんは、3人の子育て中、精神的に辛かった時、育児雑誌『クーヨン』と出会う。娘さんに折り紙をと思って取り寄せた「トランスパレント」(注4)を作っていると心が落ち着き、すっかり自分がハマってしまった。知人の紹介で「月3万円ビジネス講座」に参加するなかで、「トランスパレントの講座をやってくれないか」と声がかかり、良い反応を得たことからだんだんと自信がついてきた。そのうち、決められた図案ではものたりなくなり、オリジナルの「カラフルちぎり絵キット」を作成、鶴岡市内の自然学習交流館などさまざまな場所で販売が広がっていった。

 

五十嵐有紀子さんとトランスパレント(鶴岡ナリワイプロジェクトのインタビュー記事から転載)

 その後、五十嵐有紀子さんは、ナリワイメンバーの五十嵐淳子さんに誘われ、菅原明香さん、稲田瑛乃さんと一緒に、「Hospital Heart Act」にも参加することになった。Hospital Heart Actとは、患者さんやその周りの方たちに‘病気のことばかり考えさせない’時間を提供するプロジェクト。

 淳子さんは、以前入院した時、隣のベッドの方が折り紙を教えてくれ、心がとても安らいだ経験を持つ。有紀子さんのカラフルちぎり絵キットを目にして、これが病院の売店で販売されていたら嬉しいのにと思った。患者さんやその周りの方たちが、入院や療養生活のなかで、体調と相談しながら無理のない範囲で、自分のペースで取り組めるアートがあったなら、より心穏やかに過ごせるのではないかと思いついたのだという。ちぎり絵キットのほかに、菅原明香さんが「あかるさかおる」のアーティスト名で、お洒落で簡単にできる塗り絵のポストカードを提供している。

 五十嵐淳子さんは、このほか、体調を崩している時に話を聞いてもらえるだけで救われた経験から、「星壺カウンセリング」をナリワイにしている。菅原明香さんは、アメリカ留学経験で得た英語とアートで「バイリンガル育児」などのナリワイをしている。

 佐藤涼子さんは、東京新宿の出身で、子どもの頃から宇宙に興味があり、JAXAから国際宇宙ステーションの運用を委託されている会社で働いていた。国際宇宙ステーションの実験運用管制官として働くことはとても充実していたものの、結婚し、子どもが出来たら、体力的に続けるのは難しいと感じていた。東日本大震災もあり、仕事よりも大切なものがあるような気がしているなか、夫の実家がある鶴岡に移住することになった。鶴岡市の移住サイトでナリワイプロジェクトのことを知って(注5)参加してみたところ、宇宙の話を真剣に聞いてもらえたので嬉しかったという。今では、主に子ども達を対象に、星や国際宇宙ステーション観測会など宇宙をテーマにしたイベントをナリワイとしている。

・トランスパレント・ルームのHP: https://www.facebook.com/transparentroom/?pnref=story
・Hospital Heart ActのHP:https://www.facebook.com/HospitalHeartAct/
・星壺カウンセリングのHP:http://starpot339.exblog.jp/
・あかるさかおるのHP: https://www.facebook.com/akarusa.kaoru/?fref=nf&pnref=story

(注4)トランスパレントは、ツヤと張りのある薄い半透明の紙。折り紙のように折ったり、切ったりしたパーツを貼り合わせて窓辺に飾ると、ステンドグラスのようなやさしい光がこぼれる。
(注5)鶴岡市は、移住者向けプログラムに、鶴岡ナリワイプロジェクトを載せている。Iターン、Uターンの人にとって、ナリワイ起業家たちの存在は、自分らしい生き方が出来そうだと移住を前向きに捉えるのに一役かっているようだ。http://tsuruoka-iju.jp/

 

●新しいしなやかな生き方

 稲田瑛乃(あきの)さんは、神戸で生まれ育ったが、山形大学農学部に進学し、山の暮らしを体験したり、子どもの自然体験プログラムに関わったりするなかで、地域の魅力をもっと地元の人に知ってもらいたいという気持ちが大きくなった。このため、大学院の時に休学し、北海道の「黒松内ぶなの森自然学校」でスタッフとして、子どもたちのキャンプ指導員や大人向けツアーガイドなどして働いた。大学院を修了後、特別緊急雇用で赤川漁協同組合に就職、赤川の魅力発信プロジェクトに携わった。その後、湯田川温泉の旅館で3ヵ月ほど仲居として働いた。これらの豊富な体験は、彼女にさまざまなことを学ばせてくれた。写真は、彼女の手帳で、「出来ること」が書いてある。いろいろなことが出来るので、「猫の手仕事いたします」と書かれている。

 彼女は、「工房げるぐど(庄内弁でおたまじゃくし)」をつくり、個人的に頼まれた木工品や手描き看板を作成したり、チラシやイラストを描いたりしている。市内を流れる内川でNPO法人「公益のふるさと創り鶴岡」が舟下りをしているが、船頭が高齢化しているという話を聞き、「私舟漕げます」と手をあげて船頭をやっている。山菜採りも高齢化で山に行く人が減って困っているといえば、「私できます」と手をあげて山菜採りの手伝いをする・・といった具合だ。仲居もしていたので、マルシェなどでの販売の手伝いも上手だ。「こしゃってマルシェ」に行った時には、100円で子ども達に木製ネームタグづくりのワークショップをしていた。彼女は、月収15万円くらいだというが、さまざまな仕事で稼いでおり、時々によってそのウエイトも変化する。時には、お礼に米などをもらう場合もある。

自分のナリワイを説明する稲田さん(上)と出来ることをメモった手帳(筆者撮影)

 

 稲田さんの暮らし方は、ナリワイ起業家の中でも飛びぬけてしなやかだ。稲田さんは、「仕事は何をしているの」と聞かれると答えづらいと笑うものの、「人と地域と自然-これに沿うような仕事」「居心地の良い空間を自分と周りと一緒につくる」「私のスキルを活かしたものづくり、地域づくり」とまとめてくれた。いろいろなことをやっているように見えても、軸はぶれていないのだ。

・工房げるぐどのHP:http://fulufo.tumblr.com/

 

内川舟下りを体験させてくれた稲田さん(知人撮影)

 

5.ナリワイプロジェクトから見えるもの

 

●点から線へ、さらに面へ

 以上のように、鶴岡ナリワイプロジェクトは、月3万円を稼ぐことが目標というよりも、地域社会の中での新しい自分の存在意義を見つけ出して自信を得、自分の人生の舵取りを自分でするようになることに意味がある。それも、一人ではなく、仲間と一緒にやることで、弱いところを補いあったり、事業のスピードを速めたり、迷いを取り除いてもらいあったりする。

 「地域の困りごと」と「自分の出来ること」を掛け合わせるので、地域にとっては活力につながるし、やっている本人にとっても、歯をくいしばって肩肘張るのではなく、愉しくやることができる。子育てしながらなら、あるいはパート勤めをしながら、やれる範囲でナリワイをする。時間的に自由ならば、さまざまなナリワイを掛け持ちすることも可能だ。自らのライフスタイルに合わせて、働き方を自在に変えることができる。

 5月20日(土)に、「3万円ビジネス」に取り組んでいる3つの地域が集まる「しごとの未来をつくる人たちの『3ビズギャザリング2017』」が開催された。60名の親子が参加した。「鶴岡ナリワイプロジェクト」のほか、埼玉県杉戸町・草加市の「わたしたちの3万円ビジネス」、新潟県長岡市の「さんビズ」のメンバーだ。3万円ビジネス提唱者の藤村靖之さんの非電化工房がある栃木県那須町で、全国の点と点を結んでしまおうという試みだ。

・わたしたちの3万円ビジネスのHP:http://choinaca.wixsite.com/3biz
・さんビズのHP:https://www.facebook.com/sun3biz/

 

●自分の時間と健康を切り売りしない生き方

 「ナリワイ」と昔からの「コミュニティビジネス(CB)」とは、どう違うのだろうか。CBとは、市民が主体となって、地域が抱える課題をビジネスの手法により解決する事業の総称と定義されている(注6)。非常に似ているが、ナリワイが個人の働き方に焦点を置いているのに対し、CBの方は、課題の解決の方に力が置かれている気がする。

 また、西東京市では、「『ハンサム・ママ』プロジェクト」(注7)が実施されている。女性の多様な働き方を市が支援するもので、特に子育てしながら起業したい人を応援するプロジェクトだ。アイデアを具体化するにあたっては、商工会や多摩信金から専門的なアドバイスも得られる。HPに掲載されている、先輩起業家のインタビュー記事を拝見すると、やはり自分らしい生き方を模索する姿が見受けられ、ナリワイに通じるところがある。ただ、このプロジェクト自体が、「西東京市まち・ひと・しごと創生総合戦略」に基づき、地域に根ざした産業を育て、まちの活力を伸ばすこととされているので、施策と対象者との間に齟齬があるような気もする。受講生がナリワイの話を聞いたら、自分が探していたのはこれだと「膝を打つ」かもしれない。

(注6)NPO法人コミュニティビジネスサポートセンターのHP:https://cb-s.net/
(注7)ハンサム・ママプロジェクトのHP:http://handsomemama.com/

 

 伊藤洋志『ナリワイをつくる-人生を盗まれない働き方』東京書籍、2012年には、「個人レベルではじめられて、自分の時間と健康をマネーと交換するのではなく、やればやるほど頭と体が鍛えられ、技が身につく仕事を「ナリワイ」(生業)と呼ぶ」と定義されている。
誰もが知る大手企業がグローバル競争のなかで敗退し、働き方改革が叫ばれても厳しい労働環境は変わりそうにない。「仕事といえば就職」という常識を一度疑い、自分の時間と健康を切り売りしない生き方を模索したい人は、潜在的に多いのではないだろうか。

 でも、3万円では暮らせないと思うかもしれない。それは、高度成長期に、私たちが自分の可能性を狭め、お金を支払わないと暮らせない体質になってしまっているからかもしれない。

 先に紹介した稲田さんのようには、すぐになれないにしても、自分で野菜を作ったり、森の手入れをして間伐材を燃料にしたり、あるいはそれを誰かと分かち合ったり、困っている人を助けて何かもらったりと、ついこの間までなされていた暮らし方を取り戻せば、ナリワイでも、それなりに楽しい暮らしが出来そうな気がする。

 

05FBこのみ【著者略歴】
 富沢このみ(とみさわ・このみ)
 1947年東京都北多摩郡田無町に生まれる。本名は「木實」。大手銀行で産業調査を手掛ける。1987年から2年間、通信自由化後の郵政省電気通信局(現総務省)で課長補佐。パソコン通信の普及に努める。2001年~2010年には、電気通信事業紛争処理委員会委員として通信事業の競争環境整備に携わる。
 2001年から道都大学経営学部教授(北海道)。文科省の知的クラスター創成事業「札幌ITカロッツエリア」に参画。5年で25億円が雲散霧消するのを目の当たりにする。
 2006年、母の介護で東京に戻り、法政大学地域研究センター客員教授に就任。大学院政策創造研究科で「地域イノベーション論」の兼任講師、現在に至る。2012年より田無スマイル大学実行委員会代表。2016年より下宿自治会広報担当。
 主な著書は、『「新・職人」の時代』』(NTT出版)、『新しい時代の儲け方』(NTT出版)。『マルチメディア都市の戦略』(共著、東洋経済新報社)、『モノづくりと日本産業の未来』(共編、新評論)、『モバイルビジネス白書2002年』(編著、モバイルコンテンツフォーラム監修、翔泳社)など。

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