西東京市の散歩道(番外・新座編)
萩原 恵子(屋敷林の会、下保谷の自然と文化を記録する会)
◆武野神社周辺(新座市)
当市北町に接する埼玉県新座市。明治の初め、保谷は新座郡に属した時期もあり、地元の年配者にとって、湧き水のあった野寺地区、黒目川のある片山地区は身近な川遊びの場だった。
武野(たけしの)神社(旧八幡神社)は、新座市を東西に走る黒目川が台地を削ってできた斜面にある。平安末期、前九年の役で奥州征伐に向かう源義家が、戦勝祈願し北(奥州方角)向きに建て替えたとされる。斜面に参道、鳥居、社殿とひな壇のように並ぶ。
今は涸れているが10年ほど前までは湧き水があり、この湧き水を源泉にした中沢川(長さ3㎞弱)が黒目川へと注いでいた。しかし、周囲の斜面を開発して住宅を造ったら、とたんに水が涸れたという。
源泉の下方に、池と弁天社がある。かつて流れにサワガニがたくさんいたそうだが、今はたまに、池のザリガニを探す親子連れが見られる。
鎮守の森の隣にある空き地に、毎年コチドリが来て営巣している。常緑樹で囲まれた境内は、時間が止まったかのようだが、そのうちまた湧き水が回復して、生き物があふれる神聖な場所に戻るのではないか。そんな夢を抱いて、毎年きているのかもしれない。
◆野寺親水公園(新座市)
武野神社と連なる斜面に、細長く張り付くようにある雑木林の一つ。西側の林は、斜面下に川の跡が1本あり、それを境に住宅が接近して建つ。東側の林下方には、湧き水を利用した生き物のための池がある。近づくと、警戒して鳥たちが鳴き合い高く舞う。シジュウカラ、ヒヨドリ、ムクドリなど。
カナヘビが道を横切って草の間に隠れ、シオカラトンボが鬼ごっこするように逃げ去る。やはり人間はあまり池には近づかないほうがいいのかもしれない。林の上のほうのベンチで森の声を聞いてなごむ程度で。
林はエゴノキが多く、エノキ、クヌギ、ムクノキ、シラカシ、コナラなど、薪炭にする雑木林の定番ばかりだが、中木のサカキも多い。
虫取りの子供が、「クワガタムシを見つけたが放した」と言って通りすぎた。適当に草刈りの人の手が入るくらいで、ありきたりの雑木林であることが、今としては貴重だ。
◆野寺三丁目憩いの森と野寺緑地(新座市)
野寺地区の斜面の、もう一つの雑木林は2つの緑地公園がつながっていて、コナラが多い。エノキ、エゴノキ、クヌギ、イヌシデなども。
斜面の下が畑なので、圧迫感がなく林の中も明るい。樹間も空いていて下草にササが多いせいか、見通しがきく。そんな中をいろいろな種類のチョウが飛んでゆく。
やはり虫取りの子供たちがいて、クワガタもカブトもタマムシもヒカゲチョウもいた。ここは、こんな生き物との出会いを楽しめる、知る人ぞ知る昔ながらの雑木林……。
◆野寺カタクリ山(新座市)
武野神社の西方の斜面にあたる1700平方メートルが、カタクリの群生地。3月下旬から4月下旬が花の見ごろで一般公開されるが、開花期のほかは閉鎖されている。
近くでは練馬区の清水山、清瀬市の中里のあたりが群生地として有名だが、市境の道を越して100メートルも行かないで見られるここは、穴場的存在。
春を知らせる花として、開花まで7、8年かかる貴重な花として、毎年野寺のカタクリの開花を待つのも楽しみの一つといえる。
(完)
【筆者略歴】
萩原恵子(はぎわら・けいこ)
宮城県石巻市出身。校正者。屋敷林の会代表。下保谷の自然と文化を記録する会会員。かつて保谷に渋沢敬三や高橋文太郎がつくった日本初の民族学博物館の歴史を掘り起こし、広報活動を継続中。ブログ「西東京市・高橋家の屋敷林」その他。著書『タヌキの伝言』(けやき出版)。
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