第8回 認知症高齢者を支える成年後見制度(1)


 斎藤澄子(社会福祉士・精神保健福祉士)


 

 認知症により判断力が衰えた高齢者は、さまざまな不利な状況に陥ります。
 特に困るのが、金銭管理です。日常的な買い物のほか、公共料金や介護サービス費の支払い、預貯金の出し入れが適切に行えないことが増えてきます。家族がキャッシュカードで出し入れできる普通預金はともかく、定期預金など、まとまった金額の口座解約については、金融機関から「本人でないと、その手続きはできません」と言われるでしょう。

 また、悪質な業者による消費者被害に遭ったり、勧誘を受けたことを忘れて必要のない複数の新聞の購読契約を結んでしまうなどの問題が起こることも、よく耳にするところです。適切な判断力が求められる不動産売買や遺産相続の手続きでも、認知症高齢者は不利な状況に陥るおそれがあります。

 どのようにすれば、認知症のあるご本人が適切な環境で暮らし、財産を守り、管理することができるのでしょうか。
 今回と次回は、その対応策の1つとして、成年後見制度をご紹介します

 

 禁治産制度から成年後見制度へ

 

 成年後見制度は、契約によってサービスを利用する介護保険制度が開始された2000年に始まりました。

 介護保険サービスを利用するためには、利用者に契約を理解する能力が求められますが、認知症などでその能力が低下した人を支える制度が必要になったからです。

 2000年以前は、同様の仕組みの「禁治産制度」がありましたが、家長制度の色彩が強いこと、禁治産・準禁治産の宣告を受けるとその旨が戸籍に記載されることなどから、利用者は多くありませんでした。

 新しくなった成年後見制度には、次のような特徴があります。

 ①認知症や知的障害等の程度によって、「後見」(判断力が全くない)、「保佐」(判断力が著しく不十分)、「補助」(判断力が不十分)の3類型に分けたこと
 ②後見人等(3類型の代理人を「後見人」「保佐人」「補助人」と呼びますが、ここではまとめて「後見人等」と称します)は財産管理だけではなく、本人が日常生活に困らないよう、介護や医療などに配慮する「身上監護」も役割としたこと
 ③法務局に登記されるだけで、戸籍には記載されないこと
 ④任意後見制度(次回で説明します)を取り入れたこと
 ⑤禁治産制度にあった浪費者への適用がなくなったこと

 「後見人」は、被後見人のすべての法律行為を代理することができ、また、日常生活に関する行為を除いて取り消し権を行使することができます。

 「保佐人」は、預貯金の解約や訴訟など重要な法律行為に関する同意権・取消権を有し、本人の同意のもとに、申立時に指定する特定の法律行為(不動産売却、福祉サービス契約など)に関する代理権や重要な法律行為以外の行為に関する同意権・取消権を有します。

 「補助人」は、本人の同意のもとに、申立時に指定する特定の法律行為(不動産売却、福祉サービス契約など)に関する代理権や重要な法律行為以外の行為の一部に関する同意権・取消権を有します。

 

シニアライフの知恵第8回

 

 なんだか難しいお話になってしまいましたが、要するに、後見人等は、判断力の低下した方の代わりに、預貯金の出し入れをしたり、介護サービスの手続きをしたり、また、ご本人が不当な契約をした場合にそれを取り消したり、という役割を果たすことのできる、「法律で認められた代理人」です。

 最高裁判所の概況報告によれば、平成26年12月末日現在、全国でこの制度を利用している方は18万4670人。うちわけは、「後見」14万9021人(80.7%)、「保佐」2万5189人(13.6%)、「補助」8341人(4.5%)、任意後見契約が発効している人2119人(1.2%)となっています。

 認知症により見守りまたは支援の必要な高齢者は、平成23年に東京都だけで約23万人いました(「東京都認知症高齢者自立度分布調査」、「とうきょう認知症ナビ」より)。現在はもっと増えていますから、今後もこの制度の利用者が増えると予想されています

 

 申立の手続き

 

 後見人等を決めるのは、家庭裁判所です。西東京市など都下の市町村に住民登録している方は東京家庭裁判所立川支部、23区および島嶼部の方は東京家庭裁判所後見センターで手続きを行います。

 申立にあたっては、収入印紙や切手代として6600円~7500円かかるほか、判断力の程度を専門医が診断する「鑑定」が実施される場合は、別途5~10万円の費用が必要です。鑑定が実施されるのは、全体の約10%です。

 申立から審判まで、次のような流れになります。

 ①書類を集める
 申立をする人(本人、配偶者、四親等以内の親族等)は、家庭裁判所から申立書類一式を入手します。申立書類を作成しているあいだに、本人の主治医による成年後見用の診断書、申立人以外の親族の同意書、住民票や戸籍謄本などを用意します。
 ②書類を提出し、面接を受ける

 書類が整ったら、書類を提出する際に、家庭裁判所に面接の予約をします。申立人との面接だけですむ場合もありますが、本人面接が行われることもあります。「補助」の場合は、申立に対する本人の同意が必須なので、必ず本人面接が行われます。

 ③裁判所による後見人等の選任
 申立の約2~4か月後に、裁判所から、後見人選任の審判書が届きます。申立人や利害関係者が2週間以内に不服申立を行わなければ、後見等開始審判の法的効力が確定します。確定後は、家庭裁判所が法務局に登記を依頼し、登記番号が付された登記事項証明書を取得することによって、後見人等が本人の代理を行えるようになります。

 なお、社会福祉協議会の権利擁護センターでは、制度の概要や手続きについて、情報提供や助言を行っています。不明な点は、問い合わせてみましょう。 

 

【プロフィール】
 斎藤澄子(さいとう・すみこ)
 福岡県出身。都内某区で高齢者の相談業務に従事。社会福祉士・精神保健福祉士。元看護雑誌編集長。趣味はトランペット演奏、長年の「少年隊」のファン。
 手島加江(てじま・かえ)
 イラストレーター。1980年桑沢デザイン研究所卒業。82年頃よりフリーとして活躍。広告、雑誌、書籍、CDなど。個展、グループ展など多数。

 

 

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