有賀達郎のデンマーク報告「幸福度の高い社会」を視察する(下)

 

 第1回では私が訪れたところをご紹介しただけだが、今回はもう少し調べたデータなどを入れて、デンマークの様子をお知らせしたい。

 

デンマークが気になる

 

 ところでデンマークへ行ったからかとは思うのだが、最近デンマークに関する記事やイベントなどがとても目につくようになっている。例えば経済協力開発機構(OECD)の子どもの貧困率、食と農に関する国家的な取り組み、日本で自転車についてのシンポジウムデンマーク大使館オープンデー映画上映会、帰国報告などなどを見かけた。

 

図1子どもの貧困率(OECDのデータから)(クリックで拡大)

 

 児童貧困率のデータがOECDから発表され、デンマークが一番低い数値だった。

 

チョコレートの箱のオーガニックマーク(赤線で囲んだ)

 

 デンマークが国として食と農の新しい動きをしている、という記事がデンマーク大使館のFacebookに紹介されていた。デンマークが先進的なレストランのシェフなどと提携して、食と農について積極的に後押ししてワールドフードサミットを開催。栄養のある食事は美味しいと子どもの頃から感じられるように、先進的な料理の知識やスキルは学校給食に活用出来る。

 デンマークはオーガニック比率が高く、街のスーパーでもオーガニックのコーナーがある。スーパーで買ったチョコレートの箱にもオーガニックマークがあった。

 

こんなツアーメンバーで

 

 さて、今回のツアーについて参加メンバーの様子。

 

 

 私自身60歳代終盤で、今さら行ってみて何になるんだろうと自分で感じながらデンマークに出掛けたが、年齢に関係なく行って良かったと思った。また、同行したメンバー12人が20歳代から各年代の方たちが揃い、女性起業家、退職者、ビジネスパーソン(男女とも積極的)などアクティブな方たちばかりで、ツアー中いつも刺激をもらい、楽しい時間の連続だった。

 

 

 参加メンバーのコメントから。
 「日々あらゆる場面で、ひとつひとつの行動を心の奥が嬉しくなる方へ、自分のためではなく次世代のためになる選択をしていくこと。小さくともその積み重ねがよりよい未来に繋がっているということ。そしてそれは、ちっぽけなわたしにもできるということ。」(30代)
 「人々の互いへの信頼、共生、性善説などから、自分の自由や権利が侵されることは決してないと信じている感じ」(60代)
 「本当の豊かさ、スローライフ、スロービジネス、それを実現している国がある、それらが実現可能なのだと実感できた」(30代)

 

報告会

 

 

 9月末にコール田無と日野市のPlanT(多摩平の森産業連携センター)で報告会を開催した。台風が近づいてくる天候にもかかわらず両会場とも20人以上が参加した。ここでは日程順に、行先の写真を100枚ちょっと並べて見ていただいた。大筋はこの記事の1回目の報告のようなものだった。

 

 

 10月15日には参加メンバー有志が主催して赤坂のコワーキング施設Yahoo Lodgeに集まって報告会を開催、80人以上が集まった。

 ここでは行ったところの紹介だけでなく、デンマークの状況を数字で示し、メンバーのパネルトークでそれぞれが受け取り持ち帰ってきた想いを語り、より広い視点からの報告が出来た。

 今回定員を50人で募集したところ一晩で満席になり、80人に広げても半日で締め切りになり、申し込み出来なかった私の知人が何人もいたくらいだった。デンマークに関心を持っている方がそれほど多いという事実にまず驚いた。そしてどんな方が集まるのか楽しみに待っていたら、いらしたのは20代30代が多く、さらに40代の働き盛り、大企業役職という方も何人もいらして、これから社会を作っていく人たちがデンマークに関心を持っているのがわかりうれしくなった。

 

デンマーク情報アットランダム

 

 報告会資料やその他調べたものを少しまとめてみた。

【幸福度】
 国連の機関がそれぞれの国民の意識をまとめて毎年発表している幸福度ランキングで、デンマークは2108年発表では3位、例年トップクラスにランクされている。

【教育】
 義務教育である6歳になった時に、1年生に上がるのに不安があるようだったら0年生という選択をして、後から1年生になることが出来る。また、9年生で卒業するが、まだ進路に迷っている場合は10年生という制度があって、高校や仕事に就く前に勉強することも出来る。また、高校卒業後はギャップイヤーと呼ばれる卒業後の期間に世界を旅行したり、仕事してみたりして経験を積む人が多く、その後、大学へ行くか仕事をする。さらに大学卒業後もすぐに就職しないで社会経験を積むようだ。 17歳までは児童手当が保護者に支給されるが、18歳以降全学生に社会人になるまで、国から直接本人に給付金が支給される。

【医療・出産・介護無料】
 医療費は無料。家庭医と病院という2段階。歯科治療は有料。出産は前後の検診も含めて無料で、育児休暇が両親合わせて32週間ありその間手当も支給される。介護は無料で在宅介護が基本でそのためのサービスが揃っている。

【エネルギー】
 2010年に策定されたエネルギー政策にある2020年に消費電力の50%を風力発電でまかなうという目標は、2017年には43.4%だったのでほぼ達成が見えている。その後2030年までにエネルギー需給全体の50%、2050年にはすべてを化石燃料から脱却し再生可能エネルギーでまかなう体制へ向けて進んでいる。

【働き方】
 法定の週間労働時間が37時間(月~木曜:8時~16時、金曜:8時~13時が通常の働き方)、年間5週間の休暇があって消化率ほぼ100%。新卒一斉採用はなく、空きが出来たポジションを公募、社内での自動的な昇進もない。同一労働同一賃金。生涯平均転職回数は平均6回。フレキシキュリティ(flexicurity)制度があり、会社側として解雇をしやすいが、労働者への手厚い失業への保障がある。労働者は、失業手当を受けながら新しい仕事への教育を無料で受けられる。
 (注)フレキシキュリティ制度は、柔軟性(フレキシビリティー)と安全の保障(セキュリティ)とを合わせた造語。解雇しやすい企業側と、失業保険のような保障や無料の職業訓練教育の充実している労働者側、その双方にメリットを感じられるという制度で、デンマークやオランダなどで取り入れられて失業率が低く雇用の流動性が高く、EUとして加盟国へ奨励している。

【政治】
 地方議員は無報酬(会期中は時給で支払われる)。夕方から議会が開かれるので、日中に仕事しながら議員活動も行える。
 国際透明性機構(トランスペアレンシー・インターナショナル)が毎年発表している政治家、公務員の透明度はいつもトップクラス(腐敗が少ない)。

【CPR(Central Persons Registration)番号】
 デンマーク版のマイナンバー制度であるCPR(社会保障番号)制度には、住所、健康・医療履歴、学歴、社会保障の履歴などすべての国民の個人情報が統合されている。研究者は、研究を目的として匿名化されたデータを利用することが可能。日常生活でレンタルショップのカードを作るにも、銀行口座を開設するにもCPR番号が必要。医師は医療情報に関してはアクセス出来るので、これまでの治療状況などが分かったうえで治療投薬などが出来る。また、地域的な疾病の様子などもわかるので、地域医療施策にも活かせる。この制度はデンマークでは50年使われ社会に定着し、利便性や実用性が評価されているようだ。

【シンプル】
 デンマーク社会の一部を紹介してみたが、様々な制度の基本にある、一人ひとりが自立していて、自分の道は自分で選ぶ、個人が自分で選んで納得いく生き方を出来るように仕組みを整えていくのが国や社会の役割。時には選んだ道がうまく行かない場合があっても、また出直せるように仕組みが出来ている。こういう仕組みがあると、後は個人個人の想いで判断して生きていける。これをしてはいけないとか、やらない方が良いとか、何か不都合があると新しいきまりを作らなきゃいけないなどと考えず、社会を背負っているなんて大げさではなく、この社会で生きていることを楽しんでいる、というシンプルな社会なんだろうなと思う。

デンマーク大使館オープンデーで配布されたカード

 デンマーク人の好きな言葉に「Hygge(ヒュッゲ)」がある。ほのぼのというか快適に過ごすというような意味を表す言葉で、夜はローソクを灯して家族や素敵な友だちとビールやワインを飲みながらゆったり過ごすという代表的なスタイルだけでなく、一人で本を読みながらというのも、日常生活でうまく行っているなというのもヒュッゲ。今世界中から注目されている生き方とされている。私もこれからヒュッゲな生き方を目指し、日々の生活を大切にしながら、素敵な生き方を素敵な人たちと一緒になって考えていきたいなと思っている。

 

 最後に、このツアーから多くのものを得られたのは、これだけの内容を用意し、常に同行して解説通訳としてコーディネートし一緒に食事や懇親会も参加して我々を引っ張ってくださったデンマークロラン島在住のジャーナリスト、ニールセン北村朋子さんがいたからということを付け加えておきたい。朋子さんはすでに来年に向けてデンマークの方たちと最新の情報、有意義な情報を選び始めていて12月には日本に来て各地でセミナーや講演を予定。(写真と図はすべて筆者提供)
(注)「ロラン島のエコ・チャレンジ」ニールセン北村朋子著、野草社

 ◇ 特集:有賀達郎のデンマーク報告 「幸福度の高い社会」を視察する(

 

【筆者略歴】
 有賀達郎(ありが・たつろう)
 1950年東京生まれ。1997年夏の株式会社エフエム西東京の開局準備段階から放送現場に関わり、代表取締役を経て2016年3月に退社。FM時代から多摩コミュニティビジネスネットワークの世話人などを務め、FM退社後はJ:COM西東京の番組「たまろくと人図鑑」の司会、PlanT(日野市多摩平の森産業連携センター)のコーディネーターなど西東京をはじめとして北多摩や多摩エリアで活動中。

 

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