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西脇真一、平野光芳著「なぜ金正男は暗殺されたのか―自滅に向かう独裁国家」

By in 書評 on 2017年11月14日

【書評】

殺害に成功したが、事件の隠蔽には失敗した
野洲 修(西東京市在住)

 金正男氏は言うまでもなく、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の兄である。今年2月13日、大勢の人々が行きかう白昼のマレーシア・クアラルンプール国際空港で暗殺された。本書は、9か月たった今なお謎が多いこの事件を、現地に駐在する新聞記者たちが丹念に追った記録だ。

 正男氏の顔に猛毒の化学兵器・VXを塗りつけ、殺害した容疑で逮捕されたのは、インドネシア人とベトナム人の女性2人だった。だが実行犯である彼女たちは、マレーシア警察の取り調べに対し、指示役から「テレビの悪ふざけ番組の撮影」と聞かされ、アルバイト感覚で引き受けただけだと語った。

 それが事実ならこの事件、誰が何のために引き起こしたのか。記者たちは、実行犯の出身地を始め、アジア各地へ飛んで、関係する人々に会う。そして、2人の言い分が正しいとの確信を持った。北朝鮮の国家ぐるみによる暗殺に違いない―。

 それにしても、情報が瞬時に行き来し、SNSなどを使えば誰でも不特定多数に発信できるのが現代社会の特徴である。誰かが秘密のまま隠し通したい事柄も、いずれ明るみに出るものだ。

 ところが、北朝鮮だけは事情が異なる。事件現場のマレーシア警察を始め、真相を究明する動きは盛んだが、核心部分にはなかなかたどり着くことができない。まして、捜査権を持たない記者たちの取材は、さらに困難を伴う。

 もどかしさを感じながら読み進めていて、全く別の場面が浮かんだ。古代遺跡や化石の発掘作業だ。研究者は、陶器の破片や恐竜の骨といったパーツを掘り出し、粘り強く全体像を明らかにしていく。本書の基になった新聞連載も、そんな作業に似ているように思えた。

 著者は言い切る。「北朝鮮は金正男氏の殺害には成功したが、事件の隠蔽には失敗したということだ。それも自滅に近い形で」と。関係者を一人ひとり訪ねては事実を積み上げ、謎だらけの事件の全貌に迫ろうとする、記者たちの真摯で地道な取り組みに感銘を受けた。

 

【書籍情報】
書名 なぜ金正男(キムジョンナム)は暗殺されたのか―自滅に向かう独裁国家
著者 西脇真一、平野光芳
出版 毎日新聞出版
定価 1,080円
ISBN 978-4620324791

 

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