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生活の非常事態へ政府のカネをもっと使え 一律給付の追加実施を

投稿者: カテゴリー: コラム・百音風発 オン 2021年5月3日

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第24回
師岡武男(評論家)

 
 

 日本の国民生活は、いま非常事態にある。コロナ禍による健康・経済不安と、デフレ絡みの経済崩壊の危機が深刻化しているためだ。政府がそれを認識しているなら、非常時対策を緊急にとらなければならない。その要になるのが、政府のカネ、つまり財政資金を大量に使うことだ。

 思い出せば、戦争の時代にはそれをやってきた。大量の国債を発行して戦費を賄ったが、物価は統制して抑えてきた。敗戦後はインフレ化させたが、それも適当なところで収束させた。ウルトラ積極財政のやり方も収め方も、先刻経験済みなのである。

 幸い、今は戦争ではない。政府のつくる大金を、戦争のためでなく国民生活の非常事態打開のために使うのだ。しかも、あの戦争経済時代のように、お先真っ暗ではない。ずっとたやすいことなのである。

 コロナ以後の財政は、2020年度の3回の補正予算と21年度の当初予算を組んできたが、それで足りているだろうか。20年度は合計で175兆余、21年度は106兆余円。このままでは、超緊縮予算だが、そもそも20年度の175兆円では足りなかったから、コロナ蔓延を収束できず、生活困窮者が増え続けてきたのだ。コロナ禍とデフレ経済の転換の見通しが立っていない21年度は、20年度よりもっと積極財政が必要なはずではないか。

 財務省は例年通りに当初予算の漸増という小手先の操作で、財政危機のムード作りを続けたかったのかもしれないが、それはもう成立したのだから、早く本物の補正予算を組むべきだ。補正には、コロナ対策とデフレ対策に必要で十分な支出の増加を計上すべきである。その際焦点となるのは、20年度補正の特別定額給付金(10万円)と同様の一律給付を行うかどうかである。

 生活困窮者の現場で、支援活動をしている人々からは、一律現金給付のさらなる実施を求める声が高まっているが、政府は今のところ否定している。主な理由は、一律では、「必要のない人にも給付することになる」「使わずに貯金してしまう人も多いので、消費拡大のデフレ対策としての効果は弱い」のに、巨額の財源が必要になる、というものだ。従って、給付対象は「本当に困っている人に限るべきだ」というのが大勢のようだ。

 しかし政府のこの態度は間違っていると思う。本当に困っている人の選別、線引きは厳しく複雑になりがちなことは、生活保護制度の運用でもはっきりしている。そのため実施までに時間がかかるだけでなく、救われない人が沢山出る恐れがある。時間がかからないはずの前回の一律給付でさえ、諸外国に比べて日本の非能率はひどかった。今はそれらが改善されているとはとても思えない。緊縮財政で公務員を減らして小さな政府にしてきた結果である。勿論、選別方式がすべていけないと言うのではない。当面のコロナ対策、デフレ対策についての話である。

 給付金が使われずに貯金に回るという問題はどうか。金額が少ないのですぐに使わず貯金する人もいるだろうが、それに対しては金額と回数をもっと増やす必要があるということだ。

 家計に余裕があって当面使う必要のない人が貯金を増やす場合は、それだけ豊かさが増すことになるが、それはそれで結構なことではないか。何か不都合があるだろうか。貨幣発行権のある政府は全く困らない。

 政府が貨幣を給付して国民の資産が平等に増えることと、マネーゲームの投機で一部の人が大金を増やすことと、どちらがいいことか、と考えるべきだろう。どちらのカネも政府と日銀がつくったものである。

 コロナ禍が引き起こした多額の一律給付金は、はしなくも財政危機というものの正体をさらけ出すことになったと言えよう。何しろ一人10万円の給付に必要な12.8兆円余のカネは、防衛予算総額の2年分以上である。20年度予算の国債発行額は112兆円になるが、政府財政はびくともしていない。

 政府は国民生活の安定維持のために必要なカネはいくらでも使えることが、証明された。財務省は、この給付金を痛恨事だと思っているようだが、国民にとってはまさに痛快事だったのだ。財務省は、二度と繰り返さないと決意していると言われるが、そうさせてはならない。

 一律給付金の実施が大きな意味をもつのは、単に非常時対策だけでなく、格差是正のための所得再配分という重要な役割を持つことである。コロナ禍がもたらした、天の配剤ともいえるだろう。

 一律給付は積極財政への突破口を開いたが、日本経済再生のために政府財政のやるべきことはほかにもたくさんある。やればできることがわかったのである。
(2021.5.3)

 

 

【筆者略歴】
師岡武男(もろおか・たけお)
 1926年、千葉県生まれ。評論家。東大法学部卒。共同通信社入社後、社会部、経済部を経て編集委員、論説委員を歴任。元新聞労連書記長。主な著書に今年2月刊の『『対案力』養成講座』(言視舎)、『証言構成戦後労働運動史』(共著)などがある。

 

 

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