何を作って成長経済を実現するか―五輪後の救国財政の中身の問題

投稿者: カテゴリー: 連載・特集・企画 オン 2021年7月24日

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第25回

師岡武男(評論家)
 
 

 経済活動の内容は、大別するとモノ(財・サービス)を作って使う実体経済と、そのために必要な貨幣を運用するマネー経済で組み立てられている。両者は密接に絡み合っているが、国民の生活にとって重要なのは実体経済を豊かにすることである。マネー経済はそのために役立つように運用されなければならない。

 実体経済を豊かにすれば、その規模はおのずと大きくなる。それが経済成長といわれる。その大きさを示す指標の一つが、モノの売買によって生まれた「付加価値」を合計した「国内総生産」(GDP)である。以前は国民総生産(GNP)といわれたが、ほぼ同じことだ。

 経済成長は戦後の世界経済にとって共通のキーワードになった。今の日本経済にとっても、特段に重要な課題である。バブル経済崩壊後の平成時代の30年は低成長のじり貧続き、令和の今はその上にコロナ不況が加わってドカ貧の危機に陥っている。

 経済が景気良く成長するためには、モノを生産する供給力と、モノを買う需要力がともに拡大しないと実現できない。平成不況は、消費と投資の需要力の減退によるデフレであり、アベノミクスはデフレ克服を最大目標としたが、7年余りかけても実現できなかった。その挙句にコロナ禍に襲われた。

 オリンピックは大きな需要拡大要因として期待されたに違いないが、コロナによって経済需要は吹き飛び、その強行実施はコロナ禍を拡大するだけになってしまった。そして残されたのが、コロナ禍と経済不況の二重苦である。どうしたらいいのか。

 国民経済の再生のために、国の財政支出を徹底的に拡大して成長を図ることしかないだろう。そのための財源は十分にある。それにより、デフレ対策としての需要拡大のほかに、供給力の維持拡大のための支出の必要も一層大きくなった。コロナ禍を放置したために生産基盤が弱体化したためだ。この政策のほかに、有効な対案があるだろうか。

 では、財政資金を飛躍的に拡大して拡大すべき需要と供給の内容は何だろうか。経済成長のための最大の課題はそれであって、財源問題ではないのである。それはまさに国家目標の問題だからだ。同じ成長経済であっても、何を作り、何に使うかによって国の中身は全く違ってしまうだろう。大別すれば、福祉国家か覇権国家かということになろうか。その点で、菅内閣が6月に決めた「経済財政運営と改革の基本方針」(いわゆる骨太方針)の成長政策には大いに疑問がある。

 骨太方針は「次なる時代をリードする新たな成長の源泉」として「四つの原動力」を挙げた。①グリ-ン社会②デジタル化加速③活力ある地方創り④少子化の克服。それらにたくさんの具体策が書きこまれている。政府は積極財政とは言わないが、ある程度の財政拡大はせざるを得ないだろう。これらによってさまざまなモノを生産することで、需要と供給が拡大して成長要因になるだろう。ではそれで国民の生活が豊かになり安定すると期待できるだろうか。

 この四つの「原動力」で国民生活充実に必要などんな政府支出・投資・消費や民間の生産と消費、投資が増えて成長が実現するのかは、説明されていないので、さっぱりわからない。成長には、内容次第で良い成長も悪い成長もあり得るのである。例えば米国流の軍需生産拡大による好景気を見ればよい。国民生活の安心と安定のための財政支出は、もっとはっきりした分かりやすいものでなければならない。国民の福祉拡大のための成長でなければ意味がない。政府の選んだ成長原動力は、福祉後退の原動力にもなりかねない。

 では野党の対案はどうか。総選挙を目前にしながら、積極財政による経済救国政策はほとんど見当たらない。財務省の財政危機論の金縛りからいまだに解放されず、反緊縮、積極財政、国債増発、経済成長などのキーワードはまるで禁句とされてしまったようだ。それで、コロナ対策、デフレ対策ができるわけがないだろう。目を覚ましてもらいたい。(2021.7.23)

 

 

【筆者略歴】
師岡武男(もろおか・たけお)
 1926年、千葉県生まれ。評論家。東大法学部卒。共同通信社入社後、社会部、経済部を経て編集委員、論説委員を歴任。元新聞労連書記長。主な著書に今年2月刊の『『対案力』養成講座』(言視舎)、『証言構成戦後労働運動史』(共著)などがある。

 

 

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