まちおもい帖 第43回 コロナ禍がもたらした新しい世界

投稿者: カテゴリー: 暮らし連載・特集・企画 オン 2022年3月3日

  富沢このみ(田無スマイル大学実行委員会代表)


 

 コロナ禍も足掛け3年に渡り、少々ウンザリしている。報道では、度重なる緊急事態宣言で飲食店が苦しんでいるニュースが流れ、さまざまな経済活動に支障が生じている。医療現場の奮闘、生活困窮者の増大といった厳しい状況は、確かにある。しかし、この間、成長した業種もあるし、次につながるような新しい変化も生まれている。戦争、大震災、パンデミック…こうしたショックを糧にして、生き延びる。これが人類なのではないだろうか。

 

1.コロナ関連分野の革新

 

(1)不織布マスクの供給拡大

 コロナ禍で伸びた商品として、最も分かりやすいのは、マスクだ。新型コロナウイルス感染症が問題になり始めた初期には、品不足で大変であったことなどもう記憶が薄れつつある。現在では、マスクは、すっかり日常的なものとなり、色とりどり、さまざまな形のマスクが出回っている。

 一般家庭用のマスクの供給量は、コロナ前(2019年4月~12月)の27億枚から、コロナ後(2020年1月~12月)には、88億枚と3倍以上になっている。これは、厚生労働省の2021年7月30日の報道資料によるもので、残念ながら2021年の数値は、分からない。2022年1月1日の日本の総人口は、1億2544万人というから、1人当り70枚供給された感じだ。現在、各家庭に50枚入りの箱が1~2つぐらいあるという肌感覚に合っている。

 マスクの供給量が増えたのは、国を挙げてマスク増産を支援した効果もある。経済産業省は、2019年度、2020年度に、マスク生産設備導入補助事業を実施した。採択企業で注目されるのが、家電メーカーのシャープだ。液晶パネルのクリーンルームでマスクを生産している。当初は、社会貢献として参入したものの、マスクを皮切りに、フェースシールドも投入。家庭向け健康関連機器に加え、医療や介護などに役立つ機器やソリューションの拡充を図るとしている。

 当初は、布マスクを手縫いすることが流行り、人気アニメ「鬼滅の刃」の主人公の着衣と同じ緑と黒の市松模様のマスクなどもあった。しかし、スーパーコンピュータを使った実験などにより、次第に不織布マスクの方が安全であるとの認識が広まり、不織布マスクが主流となった。2021年には、韓国発と言われるくちばし型のマスクが、息がしやすい、口紅が付かないなどの理由から、人気になっている。

 

マスク

(図1)さまざまなマスク

(図3)ワクチン開発の革新
(出所)豊橋技術科学大学による実験値。豊橋技術科学大学令和2(2020)年度第3回定例記者会見(2020年10月15日)より

 

(2)ワクチンや治療薬における革新

 また、感染拡大を防ぎ、発症しても重症化しないようにするために、ワクチン開発が急がれた。今回、新型コロナウイルスに対応したワクチンとして、ファイザー社とモデルナ社が知られるが、これらのワクチンはmRNA(メッセンジャーRNA)を活用した新しい方法で作られた。

 あらゆる生物の遺伝情報はDNAに保存されており、DNAから必要な情報部のコピー(mRNA)を作成し、その情報に沿って必要なたんぱく質が作られる。このmRNAを体外から注入し、目的のたんぱく質を合成させるというのがmRNAを使った創薬技術だ。ファイザー社やモデルナ社のワクチンは、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質(ウイルスがヒトの細胞へ侵入するために必要なタンパク質)の設計図となるmRNAを脂質の膜に包んだワクチン。このワクチンを接種し、mRNAがヒトの細胞内に取り込まれると、細胞内でスパイクタンパク質が産生され、そのスパイクタンパク質に対する中和抗体産生や細胞性免疫応答が誘導されることで、新型コロナウイルスによる感染症予防、重症化予防ができる。

 感染症のワクチンは従来、ウイルス等の病原体を弱毒化・不活化して作られていたが、病原体そのものに由来するため安全性に懸念があった。また開発・製造に多大な時間がかかるため、パンデミックに素早く対応するのは不向きだった。ところが、mRNAによる創薬では驚異的なスピードで実用化が実現した。今回、最初にウイルスのゲノム配列が報告されたのが2020年1月10日、その4日後にはmRNAワクチンのGMP製造(注1)が開始され(モデルナ社)、2カ月後にはフェーズ1試験を開始、半年後にはフェーズ3試験が開始された。10カ月後の11月にはモデルナ社、ファイザー社のmRNAワクチンの有効性が確認され、重篤な副作用も見られないという結果が発表された。2020年12月には緊急使用承認で実用化が始まった。(ナノキャリア㈱の「【特集】mRNA医薬が未来を変える」による)
 (注1) Good Manufacturing Practiceの略。医薬品の製造管理及び品質管理の基準を満たして製造すること。

 

ワクチン開発

(図3)ワクチン開発の革新
(出所)「COVIDワクチンの短期開発が今後のワクチン開発にもたらすもの」『Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 3

 

 そもそも、ワクチンは、リスクが全くゼロということは無く、副反応は一定程度起こる。まして、今回のワクチンは、全く新しい方法で作られたため不安視する人もいる。今回のワクチンでは、接種部位の痛み、発熱、疲労感などの副反応が良く生じるものの、症状は数日以内に収まる。まれに、ワクチン成分に対して起こる激しいアレルギー反応であるアナフィラキシー、心筋炎・心膜炎、血小板減少を伴う血栓症を起こす場合も報告されている。

 しかしながら、たとえば、アナフィラキシーの頻度は、アメリカの調査では、両ワクチン合わせて、100万接種当たり4.5とされる(0.00045%)(一般社団法人日本感染症学会ワクチン委員会・COVID-19 ワクチン・タスクフォース『COVID-19 ワクチンに関する提言(第4版)』2021年12月16日)。副反応で苦しんだ個人にとっては大変な出来事なので、医者や本人が充分な注意を払う必要があるものの、免疫を持つ人が増えることにより感染拡大を防止できるという面から、ワクチン接種が推奨されている(注2)。ちなみに、日本の2021年交通事故死亡者2,636人の人口比率(0.0021%)、自殺者2万1,081人の人口比率(0.0168%)と比較しても、安全性は高いとみられる。

 (注2) 米国の調査で、10代から20代の男性の2回目の接種後に心筋炎・心膜炎が多くみられた。12~29 歳の男性の2回目100万回接種当たり40.6件(0.00406%)、30歳以上男性で 2.4 件と報告されている。ただ、コロナ感染による心筋炎の発生率は、12~17 歳で 100 万人当たり 450 人(0.045%)であるため、米国では引き続き12 歳以上にワクチン接種を推奨している。

 

 mRNAを使った創薬技術は、コロナ禍のおかげで一気に実用化が進んだ。この技術は、他にも応用が利くとされ、癌ワクチン、コロナ以外の感染症ワクチン、遺伝性疾患治療、再生医療など、さまざまな疾患領域での研究開発が進められている。モデルナ社は、2010年の創業であるし、ファイザー社と組んだドイツのビオンテック社も、2008年創業のバイオベンチャーだ。

 世界的にワクチン接種が進んだので、ワクチン・メーカーの業績は、好調だ。たとえば、米ファイザー社の2021年12月期通期の財務状況によると、独ビオンテック社と共同開発した新型コロナウイルスワクチン「comirnaty」の増加により、ワクチン部門の売上高が大きく伸び、全社の売上高も、前期比95%増の813億ドルとなった。ファイザー社の新型コロナ治療薬「Paxlovid」が米食品医薬品局(FDA)によって、緊急使用許可が下り、日本でも特例承認された。同社にとって、今後は、この治療薬による売上増も期待される。モデルナ社については、まだ年間の決算が発表されていないが、四半期ごとの業績では、同様に売上高は好調で、赤字だった業績が黒字に転換した。

ファイザー社の業績

(表1)ファイザー社の業績
(出所)ファイザー社のプレスリリースより

 

1.コロナ関連分野の革新
2.インターネット利用の広がり
3.新しい働き方
4.新しい時代へのターニングポイント

 

 

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