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老々介護生活者の願っていること

By in 書評 on 2017年8月2日

【書評】
宮本剛宏著『介護危機』
鏡諭編著者『介護保険制度の強さと脆さ』
師岡武男(評論家)

 私はいま西東京市に住んで老々介護の生活をしている。今年になって出版された介護関係の二冊の本『介護危機』(宮本剛宏著)『介護保険制度の強さと脆さ』(鏡諭編著)を読んだ感想を書いてみた。

 

 老人が寿命を終えるときのプロセスは、よく言われるように「ピンピンコロリ」が一番いい、と私も思う。しかし、残念ながら多くの場合ピンピンでもなくコロリでもない。その場合は、多かれ少なかれ医療や介護の世話にならざるをえないのである。

 そこでまず、老人となって体力、知力の衰えに悩む人々に切実に必要となる医療と介護の支援の在り方について、私の基本的な問題意識をまとめておきたい。

 第一に、その理想的なあり方は①本人への十分なサービス(役務・実物)の供給②家族の負担をできるだけ軽くし、社会的な負担を充実③在宅での支援と施設での支援をともに充実④サービスの提供は居宅近くの地域内で充足できれば一層よい、と考える。なかでも最優先されるべきは①である。

 第二に、基本的な課題は、医療と介護のサービスの提供とその費用の負担を本人・家族・社会でどう分担するかである。

 では、現実はどうなっているだろうか。
 二つの本は、この基本的な目標と課題について、2000年の介護保険実施以来の実情と問題点、対策についてくわしい説明をしているが、重点の置き方は、著者の立場の違いも反映したものになっている。

 『介護危機』の著者は、訪問介護を中心に従業員千人近くを抱える民間介護事業者。『強さと脆さ』は自治体で介護行政の経験のある大学教授と自治体行政の現役による合作であり、現役には西東京市役所の職員も含まれている。

 現状についての認識は、ほぼ一致している。介護保険は、まさに時代の要請にこたえる強力な制度だが、その成果は、立法の理念の実現とは程遠いだけでなく、政府の対策は次第に理念から後退しつつある、ということだ。

 理念とは、介護の充実のために、支援の担い手を「家族から社会へ」場所を「在宅から施設へ」と移していくことである。

 言うまでもないことだが、衰弱した老人への医療と介護の必要は今始まったわけではない。人類誕生以来のものであり、対策は時代と社会の在り方に応じて行われてきた。「おばすて」もその一つだったろう。しかし現代の日本は、このままでは「介護の沙汰もカネ次第」(樋口恵子、中央公論08年12月号)で、地獄になることもありうる、ということである。つまり介護の課題は、基本的に社会保障をどう充実させるかである。逆に言えば、大金持ちなら、介護保険も社会保障も必要を感じていないかもしれない。

 日本での「介護地獄」の様相についての報告は、もうたくさん書かれているから、改めて指摘することもないだろう。しかし、それをどうやって改善すべきかは、何度でも考える必要があると思う。この二冊の本もそれに取り組んでいる。

『介護危機』の著者は「業界で最も高い給与水準の介護事業」をめざし、業界のリーディングカンパニーを創る責務を自認している、という人だ。介護の現状は、介護を担う人材の不足と介護保険制度の財源不足が何より深刻だという。人材対策の一つとして実行しているのが「高い給与水準」などによる経営管理の改善である。保険財源の不足対策については、政府の給付縮小、保険料引き上げ、自己負担引き上げの枠組みに基本的に順応している。しかしこの枠組みのなかで、介護の改善や人材の確保ができるのだろうか、と疑問を感じる。現に事業所の倒産、閉鎖が増えている。

 『強さと脆さ』の本は、保険法の相次ぐ改正で、「必要な給付のための国民共同連帯の理念」(第一条)が、施設入所者の選別や利用者負担の差別などでなし崩しになっていることを批判している。しかし同時に、改正の柱になっている自治体による「地域包括ケアシステム」の構築などについての取り組み方の研究報告を編集している。

 地域包括ケアの構想について、『介護危機』の本では「(自治体の)地域包括ケアセンターが中心となって、医療機関とケアマネージャー、介護施設・在宅介護サービス事業所、地域住民が連携して、効率的で適切なサービス提供をめざす」もの、と簡潔に説明している。それが出来上がれば、利用者にとって便利になるから有難いことだ。

 

 しかしこの構想の背景にあるのは、社会保険給付の縮小、保険料値上げ、自己負担増加の政策の流れであることを忘れるわけにはいかない。それは、具体的には医療から介護へ、社会負担から自己・家族負担へ、施設から在宅への、財源節約の流れでもある。この流れは、医療と介護の十分な支援を約束してくれるのだろうか。はなはだ疑問である。

 そこで、今現に老々介護段階にあるわが身の行く末を考えてみる。何よりも気になっているのは、在宅での家族介護と訪問介護の手に余る事態になったらどうしよう、ということだ。特養ホームなどの施設に入れてもらう、ということぐらいしか考えつかないが、特養が足りないこともあって入居者の選別が厳しいらしい。近くの良い特養に入れてもらいたいのだが。

 その願いをかなえてもらうために、地域包括ケアシステムは、役に立ってくれるだろうか、と考えてみても、当面あてにはできそうもない。結局のところ、立ちはだかるのは、給付縮小政策の壁である。不安解消のためには、やはり国の政策を給付充実型に転換してもらうしかない、と思う。

 

【筆者略歴】
師岡武男(もろおか・たけお)
 1926年、千葉県生まれ。評論家。東大法学部卒。共同通信社入社後、社会部、経済部を経て編集委員、論説委員を歴任。元新聞労連書記長。主な著書に『証言構成戦後労働運動史』(共著)などがある。

 

 

 


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