『MELODY』

「わたしの一冊」第18回 荒井良二著『MELODY』

投稿者: カテゴリー: 連載・特集・企画 オン 2022年2月10日

子どものおかげで読んだ本 by 白井真純

 「人の子はかわいい。でも親になったら本が読めない」
 アメリカの詩人エミリー・ディキンスンが主人公の海外ドラマ「ディキンスン」を見ていたら、そんなセリフがあった。私は3児の親であるが、もし3人がいなかったら、どれだけの本が読めただろう。親にならなかった自分は親になった自分より量は読めたかもしれない。しかし、3人がいるおかげで読むことになった本もあるし、今では一緒に絵本を読んだり、図書館へ出かけたりという経験もさせてもらっている。エミリーと話す機会があったらそんなことを話してみたい。(写真は、子どもの噛み跡でぼろぼろになった『MELODY』)

 

「キキキ、クーコ」と唱えてどこかの国へ

 

 いまは小学2年生になった子が0歳児の時によく読んだ一冊が荒井良二のデビュー作『MELODY』である。詩を思わせる作品で、「ぼく」が自転車のかごに入るサイズの地球儀を回して、思いをはせているどこかの国の絵で構成されている。回すときの音が「キキキ、クーコ」。赤と青の2色刷りの素朴な雰囲気の絵も余白があって心地よい。「キキキ、クーコ」と唱える間だけ、どこかの国に滞在しているような気持ちになる絵本である。

 この本を最初に手に取った時はいまいちピンと来なかったが、0歳児と読むと「キキキ、 クーコ」という音の感じや抽象的な話がぴったりはまって毎日読んでいた。いつしかお守りがわりになり、遠出するときは必ず鞄に入れていた。

 子の噛み跡だらけの『MELODY』を見ると、わたしはメロディを唱えている間どこかの国に行っていたのかもしれないと思う。母がどこかに行っている間、子は思う存分、本をがじがじと噛んでいたのだろう。育児書や保健師から0歳児の子がなんでも口に持って行くと教わっていたし、子が何度も本を噛んでいる様子を見たはずなのに、この本に限らず0歳児の時によく読んだ本は噛み跡でぼろぼろである。いま思えば、本を取り上げる力もないほど疲れ果てていたのかもしれない。8年前の母になったばかりの私に、「お疲れさま。8年後は3児の母になっているよ」と声をかけたらどんな反応をするだろうか。

 

Melody

荒井良二さんのサインが入った『MELODY』の中表紙

 

作者と記念撮影

 

 思い出がたくさん詰まった一冊であるが、とっておきのおまけ話もある。
 この本を発行したトムズボックスが吉祥寺のお店を閉める時に作者の荒井良二さんに会ったことだ。ご本人を前に躊躇する私を見かねた夫が荒井さんに持参した絵本を見せた。私はしどろもどろになりながら、お礼と復刊のお願いを伝えることができた。荒井さんは少し雑談してくれて、一緒に記念撮影もしてくれた。荒井さんはデビューから30年以上になるが、今も素敵な絵本を届けてくれている。私は毎回どこかに『MELODY』の面影を探しながら新作を読んでいる。

 

【筆者略歴】
白井真純(しらい・ますみ)
7年前より東久留米市在住。IT企業勤務。一般社団法人まちにわひばりが丘「まちにわ師」1期生。にわシネマ担当。

 

【書籍情報】
書名:MELODY
著者:荒井良二
出版年:1990年
出版社:トムズボックス(品切れ)

 

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