『愛蔵版 まんが道』

「わたしの一冊」第20回 藤子不二雄著『まんが道』

投稿者: カテゴリー: 連載・特集・企画 オン 2022年4月14日

「古いもの」好きに導いてくれた by 中村晋也

 ぼくは西東京市の西武柳沢駅の近くで駄菓子屋を営んでいる。若い時から古いものが好きで、なにか商売を始めるときに駄菓子屋を選んだこともその流れからである。そんな、僕の古いもの好き・昭和への憧れを形成したのが、藤子不二雄によって描かれた「まんが道」である。(写真は、何度も読み返してボロボロになった『愛蔵版 まんが道』)

 

 まんが好きの兄の影響で絵本よりも先にまんがに出会っていた。なかでも毎月発売される「コロコロコミック」に連載されていた「ドラえもん」に夢中になり、藤子不二雄のまんがを読みあさるようになった。そして将来の夢はいつの頃からか「まんが家」になり、必然的に神様の描いた「まんが道」が僕の中でバイブルになった。

 

昭和のあたたかさと熱量を知る

 

 藤子不二雄は藤本弘さんと安孫子素雄さんの合作ペンネームだ(以下敬称略)。ただ、ほんとうの意味で合作としてまんがを描いていたのは初期に限られ、前述した「ドラえもん」は藤本弘、「まんが道」は安孫子素雄によって描かれている。やさしく穏やかなまんがを描く前者は「白い藤子」、人の葛藤や闇を表現する後者は「黒い藤子」とあだ名され、1987年にそれぞれ「藤子・F・不二雄」「藤子不二雄Ⓐ」となりコンビを解消することになる。

 「まんが道」は富山の国民学校で同級になった少年2人が、手塚治虫に導かれてまんが家を目指し、まんが家になるまでを描いた長編青春漫画である。話は安孫子の目線で描かれ(作品内では満賀道雄として登場)、相棒である藤本弘(才野茂)の才能に嫉妬する様子や、手塚治虫への畏怖、そしてまんが黎明期の出版業界の様子などが描かれている。

 ぼくはこの我孫子さんの描いた「まんが道」を通じて、まんがというジャンルが認知されていくその黎明期と、その周辺の人のあたたかさや熱量を知ることになる。

 

「まんが道」

『まんが道』で手塚治虫の平机のエピソードが描かれた場面

 

まんがを描くなら平机で!

 

 「まんが道」の作中で、藤子不二雄は手塚治虫から平机をゆずり受ける。手塚治虫はこの机で「ジャングル大帝」などの名作を生み出していったという。

 手塚治虫が次の世代のまんが家へ思いを継承するようなこのエピソードをとても気に入った僕は、まんがを描くなら平机でなくてはならない! と思うようになった。ほどなくして高円寺の古道具屋で一枚板の平机を購入できたが、そのせいでぼくと腰痛との長い付き合いが始まることとなる。

 平机が自分の部屋に入ると、今度は化粧合板でつくられた今風の家具なども気になるようになり、古家具屋通いは続くことになる。その後引っ越しを繰り返し、平机はなくなってしまったが、その頃に購入したものは駄菓子屋開業時に役立つことになった。

 

古家具

集めた古家具は現在、駄菓子屋の什器として再利用されている

 

昭和のワクワク感を今に

 

 まんが家に少しでも近づけるかと、美術大学に入り、まんが研究会に所属。3年次からは出版社への持ち込みをはじめた。1997年のある日、まんがの持ち込みの帰りに新宿駅で偶然にも安孫子素雄さんに出会った。先生は4人ぐらいのグループで談笑していたが、勇気をだして声をかけにいった。とにかく自分が先生のファンであることと、まんが家を目指していることを伝えたかったのだと思う。一方的に感動を伝えて、握手をしてもらったこと、「まんが家になるのを楽しみにしているよ」的なことを言われたことをうっすら覚えている。

 しかし、その3年後に自分の力量不足でまんが家になることをあきらめ、今はデザインの仕事と駄菓子屋が生業になっている。デザインの仕事では少年画報社などと取引があり、トキワ荘時代をよく知る年配の編集者のかたに「トキワ荘つながり」でとても良くしていだだいた。職種は変われども、近い世界の空気を吸えたことを誇らしく思えた。

 

西東京トキワ荘

「西東京トキワ荘プロジェクト」。まんがに限らず趣味の領域で集える場にしたい

 

 今、地元の地主さんからご厚意で空きアパートを一棟借りることができた。仲間たちでDIYしながら、地域の人が集まって部活動を行える場所にしたいと思っている。そしてこのプロジェクト名が「西東京トキワ荘プロジェクト」である。「まんが道」を通じて知り得た、昭和のワクワク感を令和の今も再現できたらと思う。

 

*      *      *

 

 こちらの原稿執筆の依頼を受けているさなか、我孫子素雄さんの訃報を聞いた。あらためて『まんが道』を読み返していた最中であったので、なんとも不思議な感覚に陥った。
謹んでご冥福をお祈りいたします。

 

【筆者略歴】
 中村晋也(なかむら・しんや)
 ヤギサワベース代表/グラフィックデザイナー。デザイン事務所併設型駄菓子屋「ヤギサワベース」を設立。西武柳沢駅を中心とした地域活動に地元商店街の一員として参加。「やぎさわマーケット実行委員会」委員長。西東京市内で開催されるイベントの企画・デザインにも多く関わっている。2021年に田無駅改札横にオープンした、西東京市駅前情報発信拠点「まちテナ西東京」の統括も務める。

 

【書籍情報】
書名:まんが道(全14巻)
著者:藤子不二雄Ⓐ 
出版社:‎ 中央公論新社
発行年:1996年

 

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