行き詰まるアベノミクス

投稿者: カテゴリー: 連載・特集・企画 オン 2016年2月10日

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第12回

師岡武男 (評論家)
 
 

◆2015年の実質賃金が4年続きのマイナスになって、改めてアベノミクスの行き詰まりが注目されている。恐らくこれからも、賃金、物価、経済成長などの、どの数字も停滞を続けるだろう。国民全体が貧しくなっていく中で、貧富の格差が拡大していく、という情けない姿の経済になる様相だ。

◆本来アベノミクスの目標は、これとは逆の野心的なものだった。デフレが克服されて経済は成長し、賃金は物価以上に上がる「好循環」で、国民生活は豊かになるはずだった。多くの国民もそれは望むところである。現に安倍首相は、そのための政策として、賃金、最低賃金の引き上げ、同一労働同一賃金による格差縮小など、これまでの政府が言ったことのない積極的な政策も打ち出している。財政政策についても「成長なくして財政再建なし」と強調して、財政再建優先主義の財務省やマスコミ論調に抵抗する姿勢を示している。格差対策では、低年金の高齢者への3万円の給付金も、野党やマスコミの財務省流「バラマキ」論のレッテル貼りに屈せず、予算化した。

◆それなのに、3年余り経っても結果が出ないのはなぜか。真剣に考え直さないと、安倍政権の賞味期限が切れてしまうのではないか。考えるべきことは、成長第一という政策目標でいいのかどうか、そうではなくて「国民生活第一」の分配政策に転換するか、大幅に取り入れるか、だろう。

◆成長第一のための3本の矢が、金融、財政、民間投資だった。その実績を検討してみると、実行できたのは金融緩和だけである。政府の最大の武器である財政は、補正予算を含めた総予算でみると、13年度以降は100兆円を割る緊縮予算になっている。当初予算だけ比べて「過去最高」などとマスコミに書かせても、現実をだますことはできない。一方、民間投資は、景気が良くなる動きが無ければ増えない。賃金を上げて消費を増やせと号令はかけたのだが、結果は実質賃金の低下だったのである。

◆さてどうすべきか。やる気になれば、まだやれることはある。財政を拡大して大きな政府にする。賃金の引き上げをもっと強力に進め、物価にもある程度転嫁させて中小企業経営を助ける。それが好循環の姿である。しかしそれには安倍政権の頭脳と腕力が必要である。

◆「成長よりも分配」という政策転換の動きも出てきたようだ。安倍首相の施政方針演説にも「成長と分配の好循環を創り上げてまいります」という言葉が使われた。確かに、分配だけでなく成長と分配の「二兎」を追う方が望ましいことだ。一人当たりGDPがOECD20位(2014年)に甘んじている必要はないだろう。しかし「二兎を追うもの一兎も得ず」となる恐れがある。分配の格差是正に、もっともっと本気で取り組むべきではないか。

◆本来なら野党から、総合的な代案が出て、政府・与党を攻めたてるべきなのだが、それが一向に見えてこない。共産党には、社会保障改善や、消費税に代わる財源などの提唱はあるが、財政による景気対策の基本的構想がない。アベノミクスがどん詰まりになっても、国民は「ほかに適当な政権が思いつかない」ことになるのだろうか。

 

 

【筆者略歴】
師岡武男(もろおか・たけお)
 1926年、千葉県生まれ。評論家。東大法学部卒。共同通信社入社後、社会部、経済部を経て編集委員、論説委員を歴任。元新聞労連書記長。主な著書に『証言構成戦後労働運動史』(共著)などがある。

 

 

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