映像とアンケートで人柄と政策を知る 西東京市長選の3候補
西東京市長選挙は2月7日の投票を控え、3候補の運動に力が入っている。市の今とこれからをそれぞれがどう捉え、どんな市政を実現しようとしているのか。選挙公報をはじめ、誰でもアクセス出来る映像やアンケート回答などがネット上に揃っている。特に候補者の語り口が直に伝わる市民サークル制作のライブ映像が評判になっている。
選挙公報は必須アイテム
政見を知る最良のツールは選挙公報だ。候補者提出の原稿がそのまま印刷される。訴えたい、実現したいことがギュッと濃縮されているので、候補者を知る必須アイテムでもある。平井竜一氏(54)=無所属新、立憲・共産・生活者ネット推薦=、保谷美智夫氏(62)=無所属新=、池沢隆史氏(61)=無所属新、自民・公明推薦=の新顔3候補の経歴や政見が載っている。
逗子市長を3期12年務めた平井氏の見出しは「しがらみのない若い力で市政をチェンジ! こんなもんじゃないぞ西東京」。大手スーパー西友の都内支店に勤める保谷氏は「全世代が暮らしやすい街 !!」。昨年12月まで副市長だった池沢氏(61)の欄は「新型コロナ対策に全力!」と白抜きの文字が踊る。
平井氏がPCR検査の拡充を掲げ、池沢氏はワクチン接種体制の整備を打ち出す。平井氏が先行して訴えていた国民健康保険料の値上げ凍結と介護保険料の値下げが載っている。池沢氏も国保料の据え置きと介護保険料の値下げをここで明示した。限られたスペースに3人の主要政策が並ぶ。選挙公報は市内の約10万世帯すべてに配布される。それぞれの特色は何か、どこに違いがあるか。じっくり見比べてみたい。
・西東京市長選挙の選挙公報について(西東京市選挙管理委員会)
インタビュー映像から人柄が伝わる
子育て世代の母親たちが集まる市民サークル「ハハマナブ」が撮った3候補のインタビュー映像がネット上で評判になっている。「小さい子にも分かるように、市長の仕事を教えてください」から始まり、「リーダーとは」「西東京市の魅力とは」…。サークルメンバーの竹之内あかねさんと湯沢智春(ちはる)さんの2人が聞きたいことをストレートにぶつけると、3人がその場で答える。そこから話題が教育や家庭に広がり、意外な一面を引き出した。
平井さんは家庭で生ゴミ担当。バクテリアに食べてもらうので「生ゴミは燃えるごみに出しません。燃やさない、埋め立てない。ゴミには詳しいですよ」。池沢さんはそば打ちも餃子づくりも得意だが、さらに「土日の休みは3食とも食事を用意していました」。2人の思わぬ言葉が返ってくる度に「えーっ」「そうなんだ」と驚く声が画面から聞こえてくる。
竹之内さんと湯沢さんの2人が質問したり、うなずいたり、突っ込んだり。答える3人の言葉や口調が映像で流れて来ると、人柄が自ずと伝わってくる。「ポスターやチラシだけではイメージが伝わらない。どんな人か知りたかったし、会ってみたかった」と湯沢さん。「やってよかった。多くの方から、それぞれの人柄が分かるとお褒めの言葉をいただいた」と竹之内さん。SNSのインスタライブのインタビューは初体験だったが、候補者の意外な一面も引き出して、手応えを感じていた。
・ハハマナブ(instagram)
・平井竜一氏のインタビュー(facebook, instagram)
・池沢隆史氏のインタビュー(facebook, instagram)
・保谷美智夫氏のインタビュー(facebook, instagram)
番組映像でじっくり判断
40歳を過ぎたメンバーで構成する「西東京青年会議所シニアクラブ」主催の「立候補予定者公開討論会」が1月14日にコール田無会議室で開かれた。その映像はケーブルテレビ局J:COM西東京で、音声はFM西東京で1月末に放送された。録画はいま、映像配信サイトYouTube で見ることが出来る。フリーアナウンサーの長谷さおりさんが司会を務め、公平中立を考慮して発言時間や順番のルールを決めて行う討論番組だった。
自己紹介の後、(1)丸山市政8年間の総括(2)コロナ対策と財政運営(3)庁舎統合を含む公共施設の再配置計画(4)管内で特に多いといわれる特殊詐欺事件の防犯対策、をテーマに取り上げ、それぞれ意見表明し、討論が交わされた。ママたちのインスタライブが家庭面、生活欄に当てはまるとしたら、こちらは政治面に似つかわしい本格的な政見放送だった。
西東京青年会議所はこれまで市長選挙の際、立候補予定者の参加を得て公開討論会を開いてきた。しかし今回はコロナ禍で会場確保にも苦労し、市民の参加もままならない。シニアクラブ公開討論会プロジェクト委員会の徳永篤朗さんは「今回はコロナ感染防止のため市民参加なしの収録型で行い、放送とネットで視聴できるようにしました。YouTube 配信は初めてですが、再生回数はかなり多くなっています」と言う。映像が見られるだけでなく、ボタンを押すと字幕が表示されるので分かりやすい。
・西東京市長選挙立候補予定者公開討論会2021(YouTube)
・シニアクラブ活動のお知らせ 西東京市長選挙 立候補予定者公開討論会(西東京青年会議所)
庁舎統合計画は3人とも「見直す」
いくつかの市民団体が3候補にアンケートを実施した。特定のテーマに取り組んでいるだけに問いは個別具体的。回答も具体的で3人の特徴は明確になった。
まちづくりを考える西東京市民の会は、2023年度まで統合庁舎の位置を決める現行の計画を取り上げた。3人とも「計画を見直す」で一致したが、その理由は分かれた。
池沢氏は「現在の庁舎を最大限に活用」とした。平井氏は「時間をかけ、市民参加の下、再検討すべき」と述べた。さらにインターネットやAIなどの「技術革新によって市役所は劇的に変わることが予測される状況を見極めた上で庁舎のあり方を再検討すべき」とした。保谷氏は、保谷庁舎を取り壊し「3階か4階までを市庁舎に、その上をアパートか賃貸マンションにして家賃収入」を得る方式を提案した。
図書館の将来は、池沢氏が「新しい場所に建てる」のに対し、平井氏は「現在地で建て直す」に丸印を付けつつ、「田無庁舎一帯を官民連携による公共サービスと集客施設の複合計画として構想」し、「中央図書館を中心とした教育・文化施設を位置付けたい」としている。保谷氏は「市レイアウト図を再度作る」と述べている。
市政に市民意見を反映する手法を尋ねたのに対し、池沢氏は「市民参加条例が基本になる」としながらも「これまでの手法は、広範な意見集約という点では課題もある」と認めている。平井氏は「まずは私自身が市民と直接会って膝を交えて話を聞くことから始めたい」と切り出し、「市民参加の形骸化」を指摘。「コンサルティング会社に任せず、職員が市民と一緒に政策や計画を策定することが大事」と述べている。保谷氏は「開かれた」「分かりやすい」「行きやすい」「子育て・高齢者が参加しやすい」市役所を挙げた。
・まちづくりに関するアンケート実施(まちづくりを考える西東京市民の会)
障がい者福祉施策とLGBTへの取り組み
西東京市障がい者福祉をすすめる会は昨年3月に公開された「西東京市の障害者福祉に関する調査報告書」のデータを挙げながら、市の独自サービスと事業、障がい者の理解促進、通学支援など9項目を質問した。この中で、市の独自サービスへの取り組みに対する回答が3者3様だった。
保谷氏は「車いす、松葉杖でも(暮らしやすいように)段差、斜めの歩道をなくす」と手短に書いている。池沢氏は「西東京市障害者基本計画の基本理念に基づき、障害のある方がその生涯にわたり個人としての尊厳が守られ、主体的にいきいきと活動し、住み慣れた地域の中で安心して生活できるまちづくりを進める」としている。平井氏は「障がい者福祉政策を進める際には必ず、当事者や現場の意見を聞くことを基本とする」と述べた上で▽音響信号機の設置▽駅ホームドアの設置や踏み切りの立体化を西武鉄道と協力▽誰でもトイレやエレベーター設置、段差解消などバリアフリーのまちづくりを進める、などを挙げている。
・西東京市長立候補予定者への公開質問とその回答(西東京市障がい者福祉をすすめる会)
「レインボーコミュニティー西東京」もLGBTに関する5項目への回答を求めた。特に昨年5月に市議会で全会一致で可決された陳情「同性パートナーシップの公的承認」を受けて、認証制度の導入を尋ねた。平井氏は男女平等参画推進審議会へ諮問し、当事者団体も委員に加えて検討会を立ち上げ、「来年度中に制定を行えるようにします」。池沢氏は「市が認証するだけでなく、この制度を通じて日常生活における利便性の向上や、周囲の方々の理解促進に結びつけることが大変重要」と指摘。「所管する部署からのヒアリングにより、詳細を確認した上で(具体的なスケジュールを)判断します」としている。保谷氏からは期限まで回答が届かなかったという。
・ 西東京市長選挙実施に伴う公開質問状の候補者回答公表(レインボーコミュニティー西東京)
映像とアンケートへの回答を通じて、3人の人となりや考え方、西東京市の将来を形作る政策が浮かび上がってくる。紹介した映像やアンケート回答をたどった後は、選挙戦に付きもの憶測や決めつけ、非難と排除がむなしい所作に見えてこないだろうか。それらを判断するのは、もちろん市民一人一人であることは言うまでもない。
(北嶋孝)