わたしの一冊

「わたしの一冊」第10回 石田衣良著『池袋ウエストゲートパーク』

投稿者: カテゴリー: 連載・特集・企画 オン 2021年7月8日

「計画」を成功させる仕掛け by 菊池ゆかり

 

 主人公、マコトこと真島誠は池袋で起こるもめごとを解決するトラブルシューター。『I. 池袋ウエストゲートパーク(W.G.P)』シリーズは外伝を含む既刊18巻。マコトが仲間たちと痛快に悪いやつらをとっちめたり、ママと子どもを救ったりする話が収められている。数ある「事件」のうち、私は『灰色のピーターパン 池袋ウエストゲートパークⅥ』の中の「池袋フェニックス計画」という章が大好きだ。

 

古井戸再生プロジェクトの達成

 

 考えてみたら、○○計画とか□□プロジェクト、というのが好きなのだ。自分でも仕事やプライベートでものごとをすすめるときに名付けることが多い。特に昨年夏の「古井戸再生プロジェクト2020」は、完全プライベートでやった初めての取り組みだった。

 

古井戸再生

古井戸再生でみんな楽しく(イラスト=指田ふみ)

 

 30年ぶりに出戻った実家の古井戸を再生工事したのだが、その費用をクラウドファンディングで募ったのだ。戻ったばかりの実家は、快適だけど私が安心して暮らせるご近所とのつながりがなかった。80代の母と50代の私。2人の健康問題や、近年多発する災害への備えは定期通院と備蓄品だけで大丈夫なのか。加えて定年を数年後に控えた私は何か地域に貢献できることはないかとも考えていた。

 井戸水があれば、いろんなことができる。井戸水コーヒー、草木染め、水遊び。大地震で停電しても、手押しポンプなら水を汲み上げられる。もしものときはまず自助、近助。給水車の役割をウチの井戸ができるかもしれない。

 リアルな井戸端会議が必要なのだと気づき、それを広く知ってもらうツールとしてクラウドファンディングは最適だった。わずか1カ月で44万円が集まって古井戸再生プロジェクトは達成! もちろん私1人ではやれるものではなく、友人たちとチームを組み、戦略的に取り組んだ結果だ。

 何もかもゼロから始めるのではなく、あるもの、持っているものを駆使して。それはやっぱりヒトだろう。自分がやりたいと思ったことに手や口、お金までも出してくれる人をいかにして巻き込むか。

 

「つもり」を「してやったり」に

 

 「警察は組関係や風俗店には強いよな。じゃあ、やつらが弱いのは、誰だ」
 「マスコミか」
 「いいや、違う。やつらがほんとうに弱いのは、おれたちみたいな一般市民だよ。普通の人間の声がまとまったときが一番弱いのさ」

と状況を判断して、【大切なのはタイミングとただしいルート】を見極める。マコトは自分で描いた絵を実現するのが抜群にうまい。その絵を完成させるために、困っている当事者もやくざも警察も協力する。特に「池袋フェニックス計画」ではマコトの最終兵器おふくろさんが大活躍するところもいい。

 ホストクラブにはまった女子大生を救出したことで、警視庁組織犯罪対策部が企てたフェニックス計画の鼻を明かすまではいつも通り。さらに偶然知ってしまった副知事の不正を人情味たっぷりに裁いたマコトは掛け値なしにかっこいい!

 「事実は小説より奇なり」と言うけれど、よーく考えて仕掛けたことが思い通りになるのは不思議でもなんでもない。実は古井戸再生プロジェクトには「実家改造シェアハウス計画」という上位計画がある。まだまだ小さな種なのだが、確実に育てているつもり。「つもり」をいつの日か「してやったり」に!マコトをお手本に精進したい。

 

【筆者略歴】
 菊池ゆかり(きくち・ゆかり)
 1963年7月 西東京市東町生まれ。市内の地域包括支援センター勤務(社会福祉士)。保谷高校出身で生まれてからずっと市内在住。

 

【書籍情報】
書名: 灰色のピーターパン 池袋ウエストゲートパークⅥ
著者: 石田衣良
出版社: 文春文庫
発行年:2008年

 

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