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まちおもい帖 第42回 自分らしく生きるママさん起業家たち

投稿者: カテゴリー: 暮らし連載・特集・企画 オン 2022年1月6日

 

5.SDGsに特化した営業支援、商品開発事業「KANKIKU」を立ち上げた木村きく子さん

 

 木村きく子さん(39)は、行動力の塊みたいな人だ。座右の銘が「思い悩むより行ってみよ、行動の中から途が開ける」で、実際には、ひとつひとつものすごく悩んだり、考えたりしているのだが、傍から見ているとまるで弾丸みたいだ。6年生の長男と3年生の長女2人のお母さん、ご主人は、会社員。

 木村さんは、もともとは、作家志望。書いては新人賞に応募したり、出版社に送ってみたりしたが、なかなか芽が出ず、いろいろな仕事をしてきた。持前の行動力からか、面接すると大概受かり、やらせてみるとそれなりに仕事が出来るので重宝されてきた。自分では、作家になるために多様な経験をしている過程であると考えていた。

 しかし、妊娠し体調が悪化したため、専業主婦となった。気分転換に、かつて留学したことのあるスウエーデンに遊びに行くことを思い立った。現地の友人へのお土産に、群馬で出会ってとても美味しかった「カリカリ梅」をと探したのだが、残念ながら東京では手に入らなかった。

 旅から戻ると早速、群馬の老舗漬物製造会社の社長宛に、「こんなに美味しいのに、東京では知られていないし、買うことができない。私なら、もっと有名にし、販売力を高めることができる」と言う内容の手紙を送った。無視されるだろうと思っていたら、早速面接しましょうとなり、自宅を東京出張所にと話がトントン拍子に進んだ。

 彼女は、「カリカリ梅」の販促に素晴らしい成果をあげてきたのだが、コロナ禍で小学校は休校が続き、仕事も完全在宅勤務となり、これまでと違う時間を過ごすなかで、自分の生き方や価値観が大きく変化していった。家で過ごす時間が増え、新聞によく目を通すようになると、日本の1人当たりプラスチックゴミ排出量は世界第2位で、海洋汚染につながっているとか、パンデミックで貿易ができないなか、日本の食料自給率は4割を切っているといったことが目に付くようになった。

 これまでも環境問題にそれなりに関心を持っていたものの、子供たちの未来のために、自分は何もしなくてよいのだろうかと、より自分ごととして考え始めた。2020年7月にモーリシャスで貨物船が座礁し、重油が海に流出したニュースに触れ、二酸化炭素を大量に排出し、重油流出の事故が起こる可能性もあるのに、グローバル展開するということは、人間のエゴではないかと考え始めた。ちょうど、「カリカリ梅」の海外市場への販促を担当していたこともあり、いままでのように仕事にまい進することができなくなってしまった。

 そこで、会社を辞め、環境問題に取り組む企業の支援をしたいと考え始めた。まだ、具体的な仕事が決まったわけではないのだが、まず2021年4月に“環境のきく子”「KANKIKU」という屋号で個人事業主として開業届を出した。お嬢さんが「ママ(きく子)が環境問題をお仕事にするなら」とつけてくれた名前だが、結果として、「環境に聞く、環境に効く」とも読めるので、気に入っている。

 開業してからの半年間は、いろいろな想いを整理するために、起業家講座を受講したり、発信力を高めようとホームページを作ったり、既に環境問題に取り組んでいる人や企業に会いに出かけたりしてきた。彼女の想いは多岐にわたるが、それでは、人に伝わりにくいとのアドバイスを受け、会社のコンセプトを「SDGsに特化した営業支援、商品開発事業」と一つに絞った。具体的には、地産地消の推進となる国産食品の販路開拓サポート、プラスチックゴミ削減、環境配慮したパッケージの商品改善提案などなどがある。

 実は、インタビューの少し前に、仕事としての第1弾が決まった。最近では、リモートワークの進展を受け、地元企業の支援を地域外の専門能力を持つ人に副業で依頼するケースが増えている。長野県塩尻市のNPO法人MEGURUもその一つで、長野県内で地元の農産物や加工品のマーケティングや販売戦略が出来る人を募集していた。知人からその情報を得て、岡谷市の有限会社喜多屋醸造店と一緒に仕事をすることが決定した。

 

木村きく子

岡谷市に初訪問した時の木村さん

 

 喜多屋醸造店は、まもなく創業100年を迎える老舗味噌蔵。実家の味噌蔵を未来につなげていくために、30代前半のふたりの姉妹が家業を継ぐことを決意し、新ブランドの味噌「しぜんと。」を2021年7月に立ち上げた。長野県産の有機米、有機大豆を使った味噌と八ヶ岳の自然栽培で育てた米と大豆で出来た味噌の2種類。木村さんは、この美味しく、生命力あふれる味噌のブランディングとマーケティング、販売戦略立案を一緒に取組み、来年以降の製品販売を軌道に乗せるお手伝いをする。食料自給率向上にもつながるし、地球環境にも良い製品であり、まさに彼女が手掛けたかった仕事にたどり着いた。

 

味噌

「しぜんと。」ブランドの味噌

 

 木村さんのことだから、はじめての仕事に取組みながら、試行錯誤を重ね、新しい人と出会い、KANKIKUを大きく育てていくに違いない。
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5.SDGsに特化した営業支援、商品開発事業「KANKIKU」を立ち上げた木村きく子さん
6.しなやかな働き方

 

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