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机といすを“3代の生徒”が企画・新調 自由学園女子部の「木の学び」

By in 子育て・教育, 学ぶ on 2017年12月12日

高等科1年の教室に並んだ新しい机といす。高さ違いが3種。手前は2人用の古い机といす

 「生活即教育」の理念を掲げる自由学園(東久留米市学園町)の女子部に今年9月、新しい机といす100組が搬入された。来年も100組が古いものと入れ替わり、3年目には高等科(高校)と中等科(中学)教室の計300組がすべて新しくなる。生徒たちがこの5年間、“3代”にわたって調査、研究、試作して決めた方針に沿う更新作業だった。その全容が、11月18日に開かれた「学業報告会」で明らかになった。

 

 「机といすのプロジェクト」発足

 

 自由学園が目白から東久留米市に移転したのは1934年(昭和9年)。女子部は机といすを管理、修理しながら使い続け、不足したらその都度買い足してきた。移転当時から80年余り使ってきたのも多く、夏の暑い時期は汗をかくといすのニスがブラウスに付いたり、飛び出した釘に引っ掛かってスカートが裂けたりするなど老朽化が目立ち、更新時期を迎えていた。

 「カタログから新しい机といすを選ぶのではなく、どんな机といすがこの学園にふさわしいか考えて決めることを生徒の学びにしたいと思いました」。そう語るのは学園女子部部長の佐藤史伸先生。高等科の94回生が集まって2012年「机といすのプロジェクト」がスタートした。その後97回生が引き継ぎいだ。今年4月から高等科1年の100回生5人が担当し、6年目に入る活動を学業報告会でまとめて発表した。

 

 

学業報告会で発表する100回生の生徒

 

 初代の94回生8人は卒業生のアンケート調査などを実施。古い机といすの歴史をたどった。傷みや使い心地も調べ、現役生徒へのアンケートで要望をまとめた。いすの試作品も手掛けて新型いすのイメージを固めた。

 2代目の97回生5人は主に机を取り上げた。これまで使ってきた2人用の長い机を見直し、1人用に切り替えた。高さの異なる3タイプを用意して身体の違いに配慮。さまざまな試作品も作った。その結果、机の天板は固定。各自のトレーを引き出し代わりにすることにした。調べていくうちに、輸入材は安くて曲がりや節は少ないけれど、違法伐採などで森林の生態系を破壊している現状を知った。結局、出所の分かる国産材を選択し、家具などに使う広葉樹材を使うことになった。

 新しい机といすの形状や材料はほぼ決まった。
 3代目のメンバーは岐阜県の木工所や伐採現場に足を運び、伐採から製材・乾燥・加工までを小さなエリアに集約している実例を学んだ。高価になりがちな国産広葉樹のコストが抑えられるのだ。提供された広葉樹はブナ、カエデ、ナラなど12種。机といすに使うため木材を伐採した後に、自分たちが育てた苗を植えることも提案された。これを受けて実生苗を持ち帰り、数年育ててからこの森林に自分たちの手で返すことも計画した。その後、専門家のレクチャーなどから、信用できる木材を育てる「森林認証」制度も学んだ。

 現在「木の学び」の授業を担当する講師の遠藤智史先生が、広葉樹の家具を製造している木工所や造林に取り組む森林団体を紹介し、生徒の助言役を務めた。

 

 「うらやましい」と「うれしい」

 

 報告会ではこんな言葉が続いた。
 「新しい机といすは、森林に価値を生み出す多くの人たちの手によって形になった。その誇りと自信、魅力を伝えられるようになりたい」「80年後に机といすを更新するときは、今年伐採した森に苗を植え、育った木を使ってまた机といすを作れば(森林の)よい循環になる」「森からいただいた生命は使って終わりではなく、持続的循環を考え、森林のために木材を大事に使うべきだ」…。発表したのは村上夏海さん、上野美羽さん、増田愛さん、須田帆菜さん、横山佳月日さんの5人。これまでの活動や成果を踏まえ、それぞれがたどり着いた思いと結論だった。

 

 

机を挟んで遣り取りが続いた

 

 会場の後に新しい机やいすが並び、試作品も展示された。報告会が終わると保護者や卒業生らが机やいすを囲み、質疑を交えて談笑の輪が広がった。

 9月搬入の机といすのセットは、高等科3年と2年のクラスに配置した。1年は数が足りないため、古いセットも混在している。来年は高等科1年の残りと中等科3年に。3年目は中等科2年と1年の教室に運ばれる予定だ。

 報告会の数日前、昨年までプロジェクトメンバーだった97回生から話を聞いた。学園の最高学部(大学)1年の膳場美緒さんと時高直緒さんの2人は「長く使うので、シンプルなものを考えた」と言う。生徒の身長データを調べて高さの違う3タイプを作り、自分に合った机を選べるようにした。天板が持ち上がる雲水型の木製試作品のほか、片袖タイプの段ボール作品も作った。「引き出しも工夫して、自分たちで制作し、卒業したら持ち帰るようにした」と2人は顔を見合わせた。

 新セットの感想を聞いたら、膳場さんは「うらやましい」と言う。「3年間いろいろ考えたので実際に使ってみたかった」のだ。時高さんは「うれしい」と言う。「いまの100回生に協力して一緒に机づくりを手伝ったから」と話した。

 

みんなで記念撮影。左から遠藤智史先生、村上夏海さん、上野美羽さん、増田愛さん、須田帆菜さん、横山佳月日さん、佐藤史伸女子部部長

 

 「木の学び」が広がって

 

 女子部は1921年の創立以来、生徒が交代でご飯を薪で炊き、昼食を作り、校内食堂で一緒に食べてきた。キャンパスにある約4000本の樹木も薪の供給源となった。樹木の手入れは最高学部学生の活動。男子部の机といすは、教材として生徒の手作り。6年間使ったら各自持ち帰る。高等科は埼玉県飯能市名栗で育林活動もしている。木を育て、木に親しむ土壌は、学校生活のなかで培われているのかもしれない。

 机といすは、学校生活に欠かせない基礎備品だ。その由来や機能を生徒自身が探り、話し合って新しい机といす決めていく。材料、材質から始まり、木材や森林の生態や循環、人びとの協業・提携へと視野を広げる。「木の学び」は「社会の学び」につながった。

 学校側は小さな種を撒いた。3代の生徒たちが育て、その種はやがて枝葉を広げて実を結ぶ…。プロジェクトの報告を聞き終わって、こんなイメージが浮かんできた。
(北嶋孝)

*

 記事を掲載後、読者から「古い机やいすは入れ替えた後どうなっているのか」と質問があった。学園に問い合わせたところ、女子部の佐藤史伸部長から返信が届いた。

 「古い机といすは、女子部だけではなく、他の部で利用できるところで使ってもらっています。それでも再利用できない場合は倉庫に保管して、行事など必要な時に使用します。痛んで、修理が難しいものは、解体しご飯炊きの薪として利用します」

 初めて教室に運び込まれてから80年余り。古い机といすは務めを果たした。しかし”余生”も休むだけではない。折々出番があり、最期も”お役”に立つ-。話を聞くたびに背筋が伸びる、「机といす」の長い旅だった。
(2017年12月21日追記)

 

【関連リンク】
・自由学園女子部(自由学園
・学業報告会(自由学園

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