「好き」と「楽しい」が導きの糸 ドリーム・ウェスト・ウインド・オーケストラの10年

投稿者: カテゴリー: 暮らし文化 オン 2017年7月19日

合奏体験会が始まる

 

 西東京市を拠点に活動している吹奏楽団ドリーム・ウェスト・ウインド・オーケストラ(DWWO)は2007年4月に結成し、今年10年を迎えた。昔習った楽器をもう一度鳴らしたい、聴くだけでなく演奏もしてみたい-。そんな音楽好きの「夢」をかなえた市民楽団だ。新メンバー募集のため7月初めに開かれた「合奏体験会」に出かけた。

 

「楽しそうですね」

 

 会場となった市内の柳沢公民館視聴覚室にはいすや譜面台が並び、定刻前に来て楽器を鳴らしている人が多い。指揮者の石井孝明さんが登場し、今回の参加者が紹介された。ホルンとトロンボーンの女性2人。打楽器の2人は1時間ほど経ってから現れた。

 音合わせを済ませたあと、童謡「故郷」(ふるさと)から入った。あとは「ラ・パロマ」「津軽海峡冬景色」などが続いた。新参加の2人も楽器を手に、合奏に加わった。

 休憩の合間に、その一人、トロンボーンを吹いていた小平市在住の女性(47)に感想を聞くと「息が続かない!」とひと声。小中高校時代、吹奏楽部で活動して以来30年ぶりに楽器を手にした。「持ち合わせがないので借りました」と言ったあと「(視力が衰えて)譜面がよく見えない。もっと大きな楽譜がほしい」(笑)。次回は? と尋ねると「考え中です。でもみなさん、楽しそうでしたね」。実感が込もっていた。

 

「ゼロから始める」に応募殺到

 

 楽団の母体になったのは西東京市の多摩六都フェア事業「大人のための管楽器アンサンブル講習」だった。副題の「ゼロから始めるポピュラーアンサンブル」にひかれたのか、50人の定員に250人を超える応募があった。倍率は5倍強。受講者は抽選で選ばれた。多摩北部都市広域行政圏協議会とともに実施したので、西東京市のほか小平市、東村山市、清瀬市、東久留米市の参加者も多かった。

 

トロンボーンを吹く佐藤健一さん

 東久留米市の佐藤健一さん(70)は定年を前に第二の人生を考え始めていた。「音楽は好きでも、大人になるまで楽器に触ったことがない。ずーっと聴く側でした。でも『ゼロから…』を目にして『私のための講座』と思いましたね。演奏する側にあこがれていましたから」。

 

 

クラリネットの薗部典江さん

 西東京市の薗部典江さん(56)も、子どもたちの学校祭で楽器演奏を聞くたびに「やりたいなあ」と思っていた。そこに「ゼロから」と「全くの初心者も始められる」講習が現れた。「うれしかったですね」。講習会場も近く、思い切って申し込んだ。選んだ楽器はクラリネットだった。「縦笛と同じかなと思っていたけど全然違う(笑)。奥が深い。とんでもないことを始めてしまいました。いまはひたすら、上手になりたい」。

 

神田由美子さんはバリトンサックス

 小金井市の神田由美子さん(65)は途中入団組。民間の音楽教室でサックスを習ったが「1人で吹いていても楽しくない」。そこに「一緒にやろうよ」と声がかかった。入団したら「すぐに飲み会でみんなと意気投合しました」(笑)。小学校教員を定年退職して楽団活動に力を入れた。家族も夕食の支度から楽器の運搬まで応援。いまは団長としてみんなのまとめ役を務めている。

 

「夢」をかなえて結成へ

 

 初心者が楽器を手にしても、講師陣の手厚いサポートがないと講習は成立しない。「一つの楽器に2-3人の先生が付きっきり。贅沢なコースでした」と佐藤さん。楽器はサックスだったが、練習しすぎて手を痛め、トロンボーンに転向した。「講師の先生たちはみな、忍耐強くて優しい」と感謝している。

 講習が終わるころ、「このままバラバラになるのはもったいない」との声が上がった。受講メンバーを中心に楽団が誕生。初代団長の佐藤さんが楽団の名付け親になった。叶った「夢」とこれからの「夢」。二つが「西」東京で重なる名前に決まった。

 それから10年。メンバーは47人。半数は創立時から在籍している。全体練習は毎週火曜日の夜。10代から70代のメンバーが近隣から集まって来る。同じ楽器のメンバーだけで練習したり、ミニコンサートを開いたりもする。恒例の演奏会は今年が第8回。6月18日に東村山市中央公民館ホールで開いた。年末に保谷こもれびホールでクリスマスコンサートも予定している。神田さんは「結成10年よりも、2年後の第10回演奏会を特別な企画にしたい」と話している。

 講師の一人、岡村由香里さんはユーフォニアム奏者。仲間とカルテットを組んで海外の国際音楽コンクールで優勝したキャリアを持ち、日本ユーフォニアム・テューバ協会事務局長を務めるかたわら、楽団が出来てからもパート練習に付き合ったり、全体練習を見守ったりしてきた。「みんなで楽しみながら演奏するのがここのカラーではないでしょうか。この10年間、随分頑張ったので、うまくなりましたよ」。

 「結成当初の演奏会アンケートに『痛々しい』との感想もあったそうですが、最近のアンケートは『安心して聴けた』(笑)。先日の打ち上げで、そんなエピソードが出て盛り上がりました」。団長の神田さんにとって、ちょっとひと安心なのかもしれない。

 

楽しみながら…

 

 講習でもタクトを振った石井さんが、楽団結成と同時に常任指揮者・音楽監督を引き受けた。「ビッグバンドは普通、オーディションで新しいメンバーを選びます。ここみたいに、ほぼゼロからスタートした楽団は当時ありませんでした」という。

 長続きしたのはなぜだろうか。そんな問いに愉快な回答が返ってきた。「みなさん音楽が好き、楽器が好き、飲むのもおしゃべりも、楽しくて大好き。ぼくも好きなんです(笑)」。なーるほど。楽団の雰囲気が伝わってくる。

 

指揮する石井孝明さん

 

 音楽を字解すると「音」を「楽」しむ。「好き」と「楽しい」が導きの糸だった。そこに「みんな」が加わり、「おしゃべり」と「お酒」が入ると、この「楽団」特有の響きが聞こえてくるのではないだろうか。

 「この年になって、震えるような緊張と、鳥肌が立つような感動を味わえる。こんな素晴らしいことはありません。本当にありがたいことです」。講習を企画した行政、教えてくれた講師、励まし合ってきた仲間、演奏を聴いた人たちへ。古稀を迎えた佐藤さんが、しみじみ贈る感謝の言葉だった。
(北嶋孝)(写真は筆者撮影。いずれもクリックすると拡大)

 

 

【関連リンク】
・ドリーム・ウェスト・ウインド・オーケストラ(HP
・多摩六都フェア平成25年度事業の終了御礼と卒業団体の活動のお知らせ(西東京市Web
・日本ユーフォニアム・テューバ協会(HP

 

北嶋孝
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