地域の“防災ナース”に期待 眠れる看護師70万人の役割

投稿者: カテゴリー: 暮らし環境・災害 オン 2017年11月8日

 

挨拶するピンククロスプロジェクト発起人の飯田祐巳さん(右)

 看護師らの専門集団「ピンククロスプロジェクト」が11月1日、70万人と言われる潜在看護師の働き方改革をテーマにしたトークショーを開いた。特に災害の多い日本では、病院など医療機関で働くだけが看護師ではなく、災害時も災害後も、知識と経験を生かして生活に密着した地域活動が期待されているとの指摘があり、潜在看護師の“防災ナース”としての役割にあらためて光が当たった。

 

トークショーで“防災ナース”を語る(東京・東銀座の時事通信ホール)

 

 トークショーの第一部は「災害大国日本と防災ナースの役割」について、震災の現場体験を積んだ医師、看護師らが発言した。

 「ドクターヘリ」の活動で知られる前橋赤十字病院集中治療科・救急科医師の町田浩志さんは、東日本大震災で病院に取り残された患者、医療スタッフを震災後3日目にようやく救助したエピソードを紹介した後、「復興のためには医療チームが引き揚げたあとが大事。地域で苦労する保健師さんたちと一緒になって地元の回復に力を貸してもらいたい」と家庭に入った看護職にメッセージを送った。

 診療看護師の高橋淳さんは東京城東病院の副看護師長。震災直後、気仙沼市や大船渡市の被災地を回った。「保健師さんと一緒だったけれども、把握していないところに避難している住民も多く、ペットと一緒のため避難できずにいるケースもあった。そんなときは地域に暮らす潜在看護師さんが頼りになるはず」と話した。

 老人保健施設の看護責任者を務める石松幸さんは郡山市在住。地域で暮らしているので、災害時にすぐ対処できる「防災ナース」の役割を実感していた。「若い人ならすぐ出来るSNSも、お年寄りは苦手。入れ歯洗浄などに困っていても頼めない。本人たちの普段の生活を知っている人の手助けが必要」と指摘した。

 神戸市からやって来た朴明子さんは訪問看護ステーションで働いている。22年前の看護学校生のとき、阪神淡路大震災を体験した。2人の子どもを抱えてやっと外に出ると、壊れた家屋が目についた。家族を探す声が耳に入り、住民が遺体を運ぶ光景も忘れられない。そんな体験を踏まえて「安否確認や被災住民の健康状態把握は、看護職なら力になれる。自分には出来ないではなく、出来ることを一つずつ、少しずつ始めましょう」と呼び掛けた。

 司会を務めた日本リスクマネジャー&コンサルタント協会事務局長の相馬清隆さんは「防災ナース」の役割に触れ「事前の予防活動とともに、生活再建の役割が重要。職を離れても、知識やホスピタリティーを地域で生かしてほしい」と述べた。

 

トークショーの第二部

 第二部は、「看護師の新たな可能性と働き方」のテーマを掲げて、身近な場で潜在看護師を生かす活動の場を紹介した。

 保育園で高熱を出した子どもを迎えに行き、必要なら病院に連れて行くなどの病児保育を始めた東京・港区の訪問看護サービス事業のバラク社。都内や神奈川県でベビーシッターなど保育事業を展開しているマザーグースは、熱を出したりした子どもの健康状態にアドバイスをしてくれる看護職を求めていた。通訳・翻訳サービス会社ブリックスは、東京五輪を控えて語学の出来る看護職を求めている。いずれも職を離れ、地域で暮らす潜在看護師(スリーピング・ナース)の目覚めを期待していた。

 オープニングの後、挨拶に立ったピンククロスプロジェクト発起人の飯田祐巳さんは「これからは家庭に入った70万人の看護職が地域の生活を支える時代になる。高齢者の見守りサービス、平時の防災活動、子育て支援、外国人対応など、看護職を生かして貢献してほしい。地域全体を健康にしていく、活性化していくことを願っています」と述べた。始めの言葉が、締めの言葉でもあった。

 

白衣のファッションショー。日本レスリング協会強化本部長の栄和人さんも壇上からエールを送った

 最後の第三部は看護師らのファッションショー。斬新な制服を着こなした看護婦らが登場。激励に来た日本レスリング協会強化本部長の栄和人さんも白衣を着て「頑張ってほしい」とエールを送っていた。

 医療福祉関係らを含め約190人が会場に詰めかけ、壇上の看護師らの発言に耳を傾け、清新なナースファションに目を見張っていた。
(菊池きよえ)

 

【関連リンク】
・PINK CROSS PROJECT 2017(HP
・看護職員の現状と推移(厚生労働省、PDF

 

【筆者略歴】
菊池きよえ(きくち・きよえ)
 保健師、看護師。東京都出身、東京医科歯科大学卒。国立がんセンターにて終末期医に取り組み、その後クリニックで健診結果の説明および保健指導の大切さを経験し、現在は国の医療費削減施策である「生活習慣病予防対策」のモデル事業を企画運営。特に若い年齢層の肥満者「かけだしメタボ」への早期介入を提唱し、メタボ対策に取り組んでいる。

 

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地域の“防災ナース”に期待 眠れる看護師70万人の役割」への1件のフィードバック

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    素敵なイベントに参加させて頂きました。このような心が温かくなるような活動を応援していきたいです。地域の為に、頑張ってくれる看護師を是非みんなで掘り起こし手伝いましょう。新潟ですが、是非応援させて頂きます。

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