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「旅する種子」の新しい旅 種子法廃止を契機に地域の農業を考える

By in みどり-環境, 食・調理, 学ぶ on 2018年3月30日

左が聞き手の大江正章さん(コモンズ代表、ジャーナリスト)、右が西川芳昭さん’

 4月からの種子法廃止を受けて、各地で種子や農業を考え直そうという動きが起きています。「種子の魅力」を語る西川芳昭さん(龍谷大学経済学部教授)の講座「種子がなければ生きられない-農家や消費者が種子を選べるようになるには」がこのほど都内で開かれました。主催したNPO法人コミュニティスクール・まちデザイン理事長、近藤惠津子さんの報告です。(編集部)

 2月3日の午後、「食と農と地域をつなぐ」をテーマに、講座企画や学校への出前授業、講師派遣などを行っているNPO法人コミュニティスクール(CS)・まちデザインが講座を実施しました。

 CSまちデザインでは従来より、消費者にとって日頃意識することが余りないけれど、なくてはならない「命を育む食の源としての種子」について考える講座を実施してきました。今回の講座は、昨年4月の国会で突然「種子法(主要農作物種子法)」の廃止が決定したことから、あらためて種子について考えようと企画したものです。

 講師はまちデザイン市民講座2度目のご出講となる、龍谷大学経済学部の西川芳昭教授。「種子法廃止」をきっかけに、多くの方に種子の魅力を知ってほしいという西川先生の思いが伝わる講座となりました。

 

西川芳昭さん

 

 種子法が廃止される!

 講座はまず、この3月末で種子法が廃止になると、日本の食料にどんな影響が出るのか? についてのさまざまな発言や報道に対し、間違った内容や誤解を招く表現が多いとの指摘から始まりました。

 たとえば、種子法によって保障されていると報道されることの多い「品種育成の振興」は、「種苗法」の目的だということ。私たちは目的の違う種子法と種苗法の存在もわかっていなかったことに気づかされます。種子法では、都道府県が奨励品種を決めるための圃場審査などを行うことを定めているのです。

 また、「種子法によって日本在来の穀物が守られてきた」という記事に関しては、「これって何を指すの?」という指摘。これについては新潟県産のコシヒカリを例にご説明くださいました。

 コシヒカリはよく知られた米の品種名ですが、収量と味にこだわって開発されたいわば米のブランド名でもあります。とくに新潟コシヒカリは、長年おいしいお米として高い評価を受けてきましたが、欠点はいもち病に弱いこと。そこで、新潟県ではいもち病に抵抗性を持った品種を開発してきました。その際交配に使われたイネの遺伝子の多くは、アメリカ、中国、フィリピン、インドで開発されたものなのだそうです。

 つまり、今、私たちが食べている国産の米も、種の段階ではすでに外国の血(?)が混ざっているのです。これを日本在来の穀物と言ってしまってよいでしょうか。そもそも米は中国が原産地です。

 種子法廃止に反対する多くの人々が、廃止によって多国籍企業が日本の主要作物市場を席巻し、国が私たちの食料を守る責任を放棄してしまうのではないかと懸念していますが、それを性急に議論する前にまず、種子の持つ魅力と可能性を知ることが大切だと西川先生はおっしゃいます。

 
 練馬大根も「旅」の産物

 西川先生は、種子について次の3つの視点で、私たちにわかりやすくお話しくださいました。

 一つ目は、「作物は人間にその生存を委ねている」ということです。野生植物は、種子が成熟すると母親を離れてこぼれ落ちたり、はじけ飛んだりして生き続けます。それに対して作物の場合は、成熟した種子が落ちないものを選別することによって、人間の収穫作業を効率化してきました。作物化した植物は、人間が収穫し栽培することで生存できるのです。

 次に、「作物の遺伝資源に関しては、世界中の人が相互依存関係にある」ことです。先に挙げたコシヒカリもそうですが、日本で育成された農林10号という小麦の品種がもとになって、海外で収量の高い新品種が開発され世界中に広がったという事例も紹介されました。育種に携わる人たちはそもそも、自分たちが開発した優れた品種は、使われてこそ、広がってこそ意味がある、と思っているのだそうです。これは気づかない視点でした。

 そして三点目は、「種子は旅をする」です。人が移動する時、種子を持って動くということです。筆者も以前、江戸時代の参勤交代で地方の種子が江戸に持ち込まれ、新しい品種となって、また地方に運ばれていったという話を聞いたことがあります。尾張(宮重)大根が練馬大根のもとになり、練馬大根を使って三浦大根が生まれた…などなど。

 

 種子を生かす農のあり方

 こうして考えると、育種家の権利は守られるべきとは言え、現実には、種子は多国籍企業に囲い込まれ、何を売るかはいくつかの大手流通業者が決めていて、種子の持つ魅力が発揮できているとは思えません。とくに、収益性の低い米づくりでは、地方の昔ながらの品種はほとんど作られなくなってしまうだろうと、西川先生も懸念されています。また、農業の強みは、太陽光をはじめとする自然を使ってエネルギーを生み出す唯一の産業であることなのですが、石油・電力などのエネルギーを大量に使い、短期的な効率を求めていたのでは、エネルギー収支がマイナスになってしまいます。これでは持続可能な産業とは言えません。

 農家には作りたい作物を作る自由があるのではないか(農民の権利)、私たち消費者にもどんな種子で作ったどんな作物を食べたいかを選ぶ権利があるのではないか(食料主権)と思えます。西川先生がご紹介くださった日本の各地で展開されている、地域の多様な種子を生かす農のあり方こそが、持続可能な食と農なのではないでしょうか。

 種子法廃止の問題点を知りたいと参加された方には、意外な講座内容だったかもしれません。しかし、命を育む種子とは何かについて、初めてきちんと考えたという感想をいただきました。消費者自身が、目の前の食べものの向こうに広がる農業の世界、そして種子の存在を考え、こういう種子で作った作物が食べたいと声に出すことが何より大切なのではないかと考えさせられた講座でした。
(写真は筆者提供)

 

【関連リンク】
・ タネは誰のもの? 「種子法」廃止で、日本の食はどう変わるのか―種子の専門家に聞く 龍谷大学経済学部教授・西川芳昭さん(KOKOCARA
・ 西川芳昭・龍谷大学経済学部教授「種子をめぐる国際条約と日本の農民と消費者の権利」(IWJ
・ 種子がなければ生きられない~農家や消費者が種子を選べるようになるには(NPO法人コミュニティスクール・まちデザイン市民講座

 

【筆者略歴】
近藤惠津子(こんどう・えつこ)
 1956年8月15日生まれ、東京都出身。NPO法人コミュニティスクール・まちデザイン理事長、生活クラブクッキングスタジオBELLEマネージャー、多摩南生活クラブ生協理事長、生活クラブ東京副理事長を経て現職。小中学校への出前授業や、全国のJA、自治体、市民団体などで食と環境、食の安全をテーマに講演を行っている。

 

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