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紙芝居と絵本で「物語の奥へ」誘う アーサー・ビナードさんの「おはなし会」

By in 交流・共生 on 2019年8月10日

アーサー・ビナードさん(筆者撮影)

 台風の暴風雨が予想された7月27日、米国ミシガン州生まれの詩人、アーサー・ビナードさんの「日本語と英語と虫語? のおはなし会」が柳沢公民館で開催された。予報とはうってかわり関東地方は梅雨明けを思わせる真夏日。公民館視聴覚室には1~2歳のお子さんから、おかあさん世代、おばあさん世代の老若男女90名が集った。本が一杯詰まった図書館袋を重そうに携えた男性の姿もあった。

 

 「英語がぺらぺら」と紹介されたアーサーさん。「ペラペラにはいくつか意味があって、一つは『際限なく軽薄な調子でしゃべり続けるさま』。もう一つは『外国語を流暢にしゃべるさま』。よって母国語が英語である自分は、後者には当てはまらない。ということは…」と紹介を引き取り、早速会場の笑いを誘った。

 長年アーサーさんの絵本のファンだった筆者は、語りにも魅了され、柳沢公民館での会に前後して6月14日神保町 ブックハウスカフェでのイベントと、8月2日に東中野の Space&Cafeポレポレ坐で開かれた紙芝居上演会にも足を運んだ。何度聞いても、話題が豊富なアーサーさんのお話は飽きることがない。柳沢公民館の会は撮影不可だったが、ポレポレ坐では幸運にも、アーサーさんと紙芝居の写真撮影ができた。

 

物語の奥に広がる世界

 

おはなし会のチラシ(クリックで拡大)

 柳沢公民館の会では、アーサーさんが初めて日本語に訳した『ホットケーキできあがり』(エリック・カール著、原題「Pancakes, Pancakes!」)から始まった。小さい頃に慣れ親しんだ本を和訳する喜びと苦労なども披露した。

 アーサーさんは、最前列に敷かれたシートに座ってお話を聞いている子どもたちに順にマイクを向ける。

 「パンケーキ好き?」
 「好き!」
 「パンケーキ作ったことある?」
 「この前おかあさんと一緒に作ったよ!」

 子どもの心もがっちりと掴んでいく。

 ホットケーキを作るために、主人公のジャックは小麦を収穫し、脱穀し、臼で挽く。めんどりから卵を貰い、乳牛のミルクを絞る。ミルクを攪拌しバターを作り、薪を割って火を起こす。ホットケーキの材料が揃うまでお母さんとジャックのリズム感あるやり取りが繰り返される。絵本最後のセリフ「いただきまーーもぐもぐもぐ」のセリフには、ジャックのはらべこぶりが込められていた。ジャックが体験するまで知り得なかった「ホットケーキの後ろに大きな世界がある」ことをアーサーさんは伝えたかったと言う。

 『なずず このっぺ』は、カーソン・エリス著『Du Iz Tak?』の日本語訳版。日本語訳といっても、原文の昆虫語を日本語の昆虫語に訳すという面白い設定だ。原本とそして昆虫と何度も向かい合って完成させたそうだ。知らない言葉と出会い、新しい言葉を自分のものにしていく体験。さらに「What is it? 何これ?」という言葉は「本当は何だろう?」と掘り下げていく、大切な問いの入り口でもあると言う。

 

「問い」を忘れていないか?

 

 7年かかってアーサーさんが作った紙芝居『ちっちゃい こえ』は今年5月に童心社から出版された。丸木俊・丸木位里夫妻が描いた大連作『原爆の図』が基となっている。夫妻が原爆投下の直後に広島に入り、そこで目の当たりにした光景と体験者の証言をもとに作られた『原爆の図』。その中から絵を選んで切り取り、反転させたり、重ね合わせたり、色を変えたりするなどの実験を積み重ねようやく完成したという。

 

紙芝居を上演するアーサー・ビナードさん(東京・東中野のSpace&Cafeポレポレ坐)(筆者撮影)

 

 ピカドン前後の情景が、切り取られた『原爆の図』から生々しく立ち上がる。紙芝居『ちっちゃい こえ』が上演されると会場全体が静まりかえった。

 「この紙芝居の主人公は誰だと思う?」
 「ずんずん るんるん ずずずんずん るんるんるん、ちっちゃいこえ きこえるかな?」

 マイクを向けられた小学生の女の子が答えた。「この紙芝居の主人公はサイボウ。だってお話に一番関わっているから」。紙芝居に登場する猫、鳩、犬、植物、すべての生き物は人間と同じサイボウを持つ。あかちゃん、おじいさん、おかあさんも同じ。核分裂と放射線物質によって蝕まれるあらゆる生。命の源であるサイボウが死んでいく。

 

『ちっちゃい こえ』の場面から(筆者撮影)

 

 「アメリカにもヨーロッパにも他のアジアの国にもない日本だけの紙芝居というメディアは、持ち運べて電気もいらず瞬時に立ち上がる優れた装置」とアーサーさんは言う。

 語り手の声と絵で74年前の広島を伝える。「原子力ってなに?」「戦争ってなに?」「お国のためとは?」「仕掛けているのは誰?」「隠された意図は?」「戦争は突然始まるの?」と問い続けるアメリカ人。日本人の我々に「問うことを忘れていないか?」「思考停止に陥っていないか?」と突きつける。

 

図書館のイベントにでかけよう

 

 他にも、戦争で教会の鐘までが溶かされ大砲になってしまう『キンコンカンせんそう』、広島の原爆ドームが主人公の『ドームがたり』(鈴木コージ・絵)など、次々と絵本を紹介した。子どもたちとの会話を挟みながらの2時間。大人も子どもの集中さえも逸らせないままお話会は終了。戦争の愚かしさ、悲惨さ、権力者の欺瞞を、時にユーモアいっぱいに伝える語り口も見事だった。

 西東京市図書館と子どもげきじょう西東京基金の共催で実現したこのイベント。企画に携わった谷戸図書館地域館長の北嶋彰子さんは「子どもの参加者が21名に留まり大人が多勢となったが、さまざまな年代を惹きつける貴重なお話会だった」と語った。

 今後の図書館でのお話会や紙芝居のイベントは、図書館HPの行事案内や行事カレンダーで参照できる。イベントを通した本との出会いから物語の奥へと分け入っていくは時間は、親子にとっても忘れ難い夏休みの体験となるかもしれない。
(卯野右子)(写真は筆者撮影)

 

【関連リンク】
・ホットケーキできあがり(偕成社
・なずず このっぺ?(フレーベル館
・ちっちゃい こえ(紙芝居)(童心社
・キンコンカンせんそう(講談社
・ドームがたり(玉川大学出版社
・図書館からのお知らせ・行事案内(西東京市図書館
・2019.8.2 アーサー・ビナード 新作紙芝居『ちっちゃい こえ』上演+トーク( Space&Cafe ポレポレ坐

 

【筆者略歴】
 卯野右子(うの・ゆうこ)
 西東京市新町在住。金融会社勤務。仕事の傍ら「アートみーる」(対話型美術鑑賞ファシリテーター)「みんなの西東京」「放課後カフェ」の活動に参加。東京藝術大学で「アートX福祉」を履修し、2019年4月より東京都美術館のアート・コミュニケータとして人と美術館を繋ぐ活動を開始する。

 

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One thought on “紙芝居と絵本で「物語の奥へ」誘う アーサー・ビナードさんの「おはなし会」

  1. 穂坂 晴子
    1

    卯野さん、素敵なコメントありがとうございます。ドキドキしながらの投稿でしたが、やはり編集長にはいろいろご迷惑かけましたが、できてみると嬉しいですね。卯野さんの記事読んでビナードさんの思いや人柄も伝わってきますし、子どもたちの会話も巧みに取り入れて、やはり記事はこう書くのかと、、巧みな表現だと学びました。先輩!またお添えて下さいね。まったくの素人の私が紙芝居の世界にはまりました。教室でも生徒が一生懸命聞いてくれて上手下手でもないかなと、、。今日はクレヨンハウスでビナードさん講演です、西東京の事、伝えてきますね。卯野さんの記事もプリントアウトしました。(^^)/

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