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銅像歴史さんぽ・西東京編 4「空海・覚鑁」 開祖と始祖が並ぶ

By in 連載 on 2020年1月9日

総持寺妙見堂前に置かれた空海(弘法大師、右奥)と覚鑁(興教大師)の銅像=西東京市田無町

 西東京市田無町の総持寺境内の妙見堂前に「弘法大師」の立像と「興教こうぎょう大師」の座像が並んでいる。弘法大師は平安時代初期の僧侶、空海(774~835年)で、真言宗の開祖。興教大師は新義真言宗の始祖とされる平安時代後期の真言宗の僧、覚鑁かくばん(1095~1144年)。新義真言宗の宗派には智山派、豊山派などがあり、総持寺は真言宗智山派の寺院だから、開祖、始祖の銅像を並べているのは当然なのかもしれない。

 弘法大師像には「御生誕千貳百年 巡行像」と記され、おそらく1974(昭和49)年前後に建てられたのだろう。興教大師像には「八百五拾年御遠忌記念」とあり、建立は1994年。総持寺自体は歴史ある寺院だが、2人の像が並んだのはそれほど古くはないようだ。

 空海は金峰山きんぷさん(奈良県)や石鎚山(愛媛県)などで修業を積み、804年に遣唐留学僧として中国・唐に渡った。空海が参加した遣唐使一行の中には、後に天台宗の開祖となる最澄もいた。長安に滞在し、2年後の帰国時には経典類など膨大な法典や文物を持ち帰った。

 

よく見かける修行像

 

 816年に天皇から下賜された高野山(和歌山県)を修行者の道場とし、金剛峯寺を建立。高野山は最澄が開いた天台宗の比叡山(京都府、滋賀県)に並ぶ平安時代初期の山岳仏教の拠点となった。弘法大師の贈り名(諡号しごう)は没後80年以上を経た921年に与えられた。

 四国を中心に各地に足跡を残し、四国の空海ゆかりの88カ所の霊場を巡る「遍路」は今も人気があり、若者にも広がっている。さらに、いわゆる「弘法伝説」が全国各地に残り、数千に上るという。空海は現代に至るまで民衆の生活に深く関わっている。

 

総持寺山門の多聞天の木像。右奥は広目天像=西東京市田無町

 

 総持寺と同様の、かさをかぶり、金剛づえ(金剛じょう)を持つ修行姿の弘法大師の銅像や石像を置く真言宗系の寺院は多く、西東京市内のほかの寺院にもある。ところが、歴史の教科書では必ず空海とセットで登場する最澄(伝教大師)の銅像はあまり見ない。銅像の数ではかなりの差がついているようだ。

 一方、空海の没後から250年以上を経て登場した真言宗の僧、覚鑁は高野山の僧の腐敗を嘆き、宗派立て直しのため高野山に大伝法院と密厳院を建立した。大伝法院座主と金剛峯寺座主を兼ねたが、反対派の僧侶らから襲撃を受け、根来山(和歌山県)に移住した。空海の教義の復興などに努め、「真言宗の中興の祖」「新義真言宗の始祖」と呼ばれる。興教大師の諡号を与えられたのは、江戸時代に入ってからの1690年だった。

 

反新政府軍の拠点に

 

 総持寺の創建年代は分かっていないが、かつては西光寺の名で、当初は田無発祥の地と推定されている谷戸地域にあった。旧・田無市の市史編さん室発行の「田無市史」によると、江戸時代の17世紀末ごろに現在地に移転したと考えられるという。

 戊辰戦争時には、新政府軍と戦った彰義隊幹部で旧幕臣の渋沢成一郎(後に喜作、渋沢栄一のいとこ)が彰義隊を脱退して立ち上げた「振武軍」の詰め所(本陣)となった。田無には300~400人の兵士が集まり、多額の軍資金が田無周辺で集められたと伝わる。

 明治初期に近隣の二つの寺を合併し、総持寺に改称された。その後、明治期には無住で荒れていた時期もあったという。別名「田無不動尊」と呼ばれ、関東三十六不動霊場の第10番札所、多摩四国八十八カ所霊場の第33番札所になっている。

 1850年に本堂建て替えを記念して植えられたという大きなケヤキが市指定文化財になっている。弘法大師像と興教大師像はそのケヤキの木の脇に。山門の多聞天などの木像は迫力があり、それらを見た後だからか、弘法大師像、興教大師像はあまり目立たない。

 

富士街道入り口にある「弘法大師標柱」=西東京市田無町

 

 総持寺から徒歩約7分の富士街道入り口(青梅街道沿い)に「弘法大師標柱(弘法大師供養塔)」と呼ばれる石碑が残る。幕末のものとみられ、田無周辺にも弘法大師信仰が広がっていたことをうかがわせる。
【メモ】総持寺は田無駅から徒歩約5分
(墨威宏)(写真は筆者提供)

 

【筆者略歴】
墨 威宏(すみ・たけひろ)
 1961年名古屋生まれ。一橋大学卒業後、共同通信社の記者となる。93年から文化部記者。2003年末に退社し、フリーライターに。主な著書は、双子の育児の体験をまとめた「僕らのふたご戦争」(1995年)、各地の銅像を歩いてまとめた「銅像歴史散歩」(ちくま新書)など。

 

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