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佐藤昭夫著『「武力信仰」悪夢再現を憂える』

By in 書評 on 2015年4月24日

「武力信仰」表紙

【書評】美しい言葉に騙されるな
 師岡武男(評論家)

 戦後労働法を学んだ陸軍将校生徒の米寿の記、という副題のついたこの本の著者は、少年時代に「神国」「皇国」「世界平和」「植民地解放」「大東亜共栄圏」等々の美しい言葉を信じ込んで、軍国主義国家の幹部への道を歩んだ人生を後悔し、戦後の民主主義・平和主義の憲法下で、労働法の大学教授・弁護士として活躍してきた。

 にもかかわらず、戦後70年の今、かつての武力信仰の「強国」日本を「取り戻す」企てが「国民の生命財産を守る」とか「国際平和支援」などの美しい殺し文句で国論化されつつあることを、厳しく告発する。一般向けの本ではないが、誠実に戦中を反省して戦後を生きた老学徒の憂国の書を紹介しておきたい。

 「陸軍将校生徒」とは、陸軍の幹部将校を養成するための「幼年学校」と「士官学校」で教育された生徒の呼び名だ。著者は、昭和20年、士官学校で、特攻隊の隊長となることを決意して「航空科」に進んだが、間もなく敗戦を迎えた。この時代、学業優秀、身体強健の恵まれた少年たちの多くが将校生徒への道を歩んだ。

 著者は、皇国信仰崩壊による虚脱の数年間の後、早稲田大学で、名声高い野村平爾、戒能通孝教授らの感化を受け、将校生徒時代の教育の「悪夢」から覚めて労働法学の研究に進み、野村教授の後を継いだ。現在も、労働裁判などの弁護士として活躍中だ。

 天皇を頂点とする戦争責任者たちへの批判は強烈だが、それはそのまま、「美しい言葉」に騙されて、武力信仰の軍国主義国家への忠誠に励んだ自分自身への厳しい反省だろう。

 学者としては、労働法を主な活動の分野としたが、学生・生徒らへの最近の講話などで、労働問題に限らず社会問題全般について「美しい言葉に騙されるな、自分の頭で考えよう」と強調してきた論作をまとめた。今まさに、戦中と同様の、美辞麗句による「武力信仰」の悪夢が再現されようとしている、という危機感からだ。同様の憂慮を持つ人々が、声を合わせて叫ぶための一石となることを期待したい。

【筆者略歴】
師岡武男(もろおか・たけお)
 1926年、千葉県生まれ。評論家。東大法学部卒。共同通信社入社後、社会部、経済部を経て編集委員、論説委員を歴任。元新聞労連書記長。主な著書に『証言構成戦後労働運動史』(共著)などがある。

 

【書籍情報】
 佐藤昭夫著『「武力信仰」悪夢再現を憂える』
 悠々社
 2015年3月10日発行
 ISBN: 9784862420305
 定価3500円+税

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