「新しい資本主義」には政府のカネと力を

投稿者: カテゴリー: 連載・特集・企画 オン 2021年12月27日

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第28回

師岡武男 (評論家)

 

新鮮な標語だが

 コロナ禍とデフレ下の総選挙が終わり、新内閣の政策も与野党の公約も出揃って、政治も経済も新しい段階に入った。

岸田首相が提唱した「新しい資本主義」という新しい標語が、立ち消えにならずに使われ続けているので、その問題を改めて考えてみよう。誰が発案したのかまだわからないが、資本主義という言葉を保守系の政党や政府が公式に使ったのは、おそらく初めてのことだ。えっと思わせる新鮮さがある。

立ち消えになるかと思えたのは、言葉は新鮮だが、選挙後の政策の中身はアベノミクスを大きく転換するような新しさが感じられなかったからだ。しかし岸田首相は自信があるらしく、この標語を使い続けている。それならば、それにふさわしい内容はどうあるべきかを考えてみたい。

これまで、資本主義という言葉をよく使うのは、社会主義系の社会運動家や知識人などだった。それによれば、資本主義とは「悪」であり廃止すべきものとして主張されてきた。

資本主義の經濟とは、大まかに言えば、私有財産による自由な生産と、市場売買を組み合わせた自由経済のことだ。現状維持を求める保守派は、この制度を、悪のレッテルとされた言葉で表現したくないだろう。しかし現実に、この制度が強者本位、貧富の格差拡大などによる社会不安を招き、特に日本では長期のデフレ化が否定できない。正面から制度改善に取り組むことを宣言してイメージを刷新することが、現状維持のために必要、と考えたのが「新しい資本主義」の狙いだろう。

 

今こそ資本主義修正が必要

 実はこの考え方自体は、古くから「修正資本主義」と呼ばれてきたものを言い換えただけのことである。そして今こそ、日本の資本主義は根本的に修正改善される必要があるのではないか。

さらに言えば、社会主義を目標に掲げる政党の政策内容も、実質は資本主義の修正改善以外のものではない。なぜなら、「社会主義・共産主義」への変革を目指す共産党も、その目標は抽象的で、具体的な設計図を示していないからだ。旧社会党の政策は「社会主義的・的」と自称(佐々木更三委員長)したことがあるが、もともと修正資本主義である。

従って、いま改めて「新しい資本主義」と言われたのは、保守系政党までも、資本主義の修正改善を公然と政策目標に掲げたことに、大きな意味があると言えよう。自公政権のどんな新政策も「それが新しい資本主義か」と問われることになったのだ。対する野党も、それぞれ資本主義の修正改善策の対案を示して、政権交代を訴えなければならない。つまり、与党も野党も本気で「新しい」資本主義への修正改善を競わなければならなくなった。これは経済政策にとって大きな変化ではないか。

では、新しい資本主義には何が必要か。実はこれも内容的に特に目新しいものではない。自由・平等・博愛の近代社会らしく、完全雇用、格差是正と生活保障、内需拡大の経済成長、などによって安心と安全の国民経済を確保することであろう。それらが実現できなければ、新しい資本主義とは言えない。

 

本物の改善案か

 そう思って、政府、与野党とも資本主義への思い切った新しい修正競争を展開してもらいたいのだが、実態はどうだろうか。

日本経済の現状に対して、新しい資本主義実現に何より必要な政策は「政府によるカネと力(規制)の活用」が必要不可欠だということを、まず確認しなければならない。それによって、現在および将来の国民生活充実のために、需要・供給と供給能力の拡大をはかることである。政府、政党はその具体策を示しているだろうか。

当面のコロナ対策の充実強化策はどうか。コロナの予防、治療と生活不安の解消策がまだまだ不十分であることは、明らかだ。遅い、少ないこと旧態依然だ。どうしてこんなに薄情な冷たい政府なのだろう。

それと一体の問題である平成不況以来のデフレ対策はどうか。これこそは、「成長と分配の好循環」という標語で要約した「新しい資本主義」のかなめだ。政府がこれまでに示した政策と財政案でその成果が期待できるのか。

まず指摘しておく必要があるのは、岸田首相が「アベノミクスは成長では成果を上げたが」と何度も言っていることだ。実績は、平均で1%そこそこの低成長から抜け出せなかったのだ。ひどい勘違いだ。

成長には生産(供給)能力と有効需要の拡大が不可欠だ。需要拡大のためには賃金の増加が必要なことは当然だが、効果的な具体策はまだ見えない。保育、介護、看護などの公的価格の引上げ宣言はあったが、その具体案はあきれるほど貧弱なものだった。そもそも、政府直接雇用の公務員賃金への分配増加をなぜ提起しないのだろう。財源はある。それが実現すれば、民間賃金も追随するはずだ。長年の公務員叩きの構造改革政策が民間賃金低下による賃金デフレを招いたのだ。

政府の「まず成長」という政策は、具体的にどの産業でどういう製品が生産され、買い取られて成長するかを示すべきだ。例えば、Go To トラベル支援金は観光サービス生産拡大に役立つから有効、というように言われればわかる。そういう具体的な成長全体のイメージが、わからない。「何を造って成長するのか」の中身がわからないでは、「成長が先」といわれても納得できないのだ。新しい資本主義のイメージも同じである。本物の修正改善になるような具体案が必要だ。

そんなわけで、「新しい資本主義」の中身ははまだわからないが、積極財政による政府のカネと、社会的規制の強化による公正分配策の活用なしに、本物の資本主義改善が実現できないことだけは、確実である。(了)

 

 

【筆者略歴】
師岡武男(もろおか・たけお)
1926年、千葉県生まれ。評論家。東大法学部卒。共同通信社入社後、社会部、経済部を経て編集委員、論説委員を歴任。元新聞労連書記長。主な著書に2021年2月刊の『『対案力』養成講座』(言視舎)、『証言構成戦後労働運動史』(共著)などがある。

 

 

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