予算委員会

なぜ西東京市議会は「議会録音データ」を市民に開示しなかったか? 情報公開請求の長い道のり

投稿者: カテゴリー: 市政・選挙メディア・報道 オン 2022年9月3日

 西東京市議会がネット中継しているのは本会議と常任委員会だけ。予算と決算の特別委員会、議会運営委員会などの活動内容をすぐに知りたければ議会に通い、傍聴席でメモを取るしかありません。会議録公開は通常3ヵ月後になるからです。そこで会議録作成に向けて録音している予算特別委員会の音声データを聞かせて欲しいと市民が議会に要望しました。その日から1年余り。その顛末は-。西東京市在住、根本尚之さんの報告です。(編集部)

 西東京市市議会に対して、2021年6月10日に開催された予算特別委員会の録音データの情報公開を求めましたが、市議会はかたくなに公開を拒否し、西東京市個人情報保護・情報公開審査会の開催となりました。結局弁護士4人からなる審査会の結論は不公開が妥当ということで、本情報の公開を求める審査請求は棄却となりました。この間の約1年の経緯と、改めてなぜ市議会が議会録音データの不開示にこだわったのかを考えてみました。

 

 気軽に情報開示請求したのだが

 市議会予算特別委員会(2021年6月10日開催)の傍聴に行くことができず、どんな議論がなされたのか確認したかったので、2021年7月5日にその録音データ(会議録作成のため事務局が録音している)の開示請求を行いました。同年7月19日に市議会議長名で「公文書不開示決定通知書」を受領しました。

 なぜ、傍聴に行けばだれでも見聞きできることが不開示となるのか、審査請求を行おうとしたのは素朴な疑問をもったことがきっかけでした。

 

不開示決定通知書と裁決書

不開示決定通知書と裁決書

 

 公文書不開示の理由

 「公文書不開示決定通知書」に記載してある理由は、「録音データを公にすることにより、率直な意見の交換もしくは意思決定の中立性が損なわれるおそれ、不当に市民の間に混乱を生じさせるおそれがあるため」(原文のまま)となっていました。

 これを読んだとき、すぐに違和感を覚えました。というのも、議会はだれでも傍聴ができる公開されているものであり、そこでの会話はいずれ会議録でも公開される。その録音データを公にすると、「率直な意見交換もしくは意思決定の中立性が不当に損なわれ」、「不当に市民の間に混乱を生じさせるおそれがある」とは、議会はどのような状況を想定しているのか? がわからなかったからです。

 

 議会事務局との協議と審査請求

 不開示に納得がいかなかったので、議会事務局次長と面談しました。しかし、次長は不開示決定通知書に書いてあることを繰り返すだけで、私の素朴な疑問に対しての説明は一切なく、もやもや感はつのるばかりでした。

 こうして発言の意志を感じることのない人と話をしていても埒が明かないので、8月5日に公文書不開示決定について不同意の意思を示すため、公文書不開示決定処分の取り消しを求める審査請求書を市議会へ提出しました。審査請求の理由は以下の内容を記載しました。

 開示しない理由が、西東京市情報公開条例第7条第4号に該当:録音データを公にすることにより、率直な意見の交換もしくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に市民の間に混乱を生じさせるおそれがあるため。とあるが、当該条文の解釈が間違いである。
 市議会での市議や市職員等の発言は市民へ公開されているものであり、その録音データは情報公開の対象となることは自明である。この理由は今回の開示請求に対して正当な理由となっていない。
 加えて、議会の録音データを市民が聞くことによって不当に市民の間に混乱を生じさせるおそれがあるとの理由もまったく理解できない。議会(今回は予算特別委員会)での質疑応答の内容が市民の間に混乱を生じさせるはずはないことも自明である。
 従って、上記1の処分の取り消しを求めるため本審査請求を提起した。
 市民へ広く開かれた市議会であることを強く望む。(原文のまま)

 

 孤独な闘いの始まりです。

 

 市議会から弁明書受領

 8月19日付で審査請求に対して市議会議長名で弁明書が送られてきました。

内容は
 ①(前略)傍聴者にも音声録音は許されていない(中略)録音した音声を様々な場面で再生することが可能となり、また、複製したり、インターネット上で公開したりすることもできることから、会議における委員の発言等に心理的制限がかかり、率直な意見の交換や意思決定の中立性が不当に損なわれる恐れがあるためである。(後略)
 ②(前略)音声データは会議録を作成するための補助的な手段とするもので、あくまでも会議録案を作成するための使用し、(中略)、会議録の公表前に発言者の生の発言が逐一録音されているだけの音声データが開示されれば、その一部のみを聞いた者等が、発言者の発言内容について、校正等を行った会議録全体を通して読む場合には生じ得ない誤解をするおそれがあるといえる。従って、音声データに記録されている情報は、「不当に市民の間に混乱を生じさせる恐れ」があるものといえる。(後略)

 どちらの弁明も、市議会内で問題発言をする市議がいて、そういった市議が不利益を被らないためには情報をできるだけ公開しないということが本音なのではないかと思い、市政について知りたいと思う市民に寄り添ってはいないと感じました。

 

 反論書の提出

 弁明書に書かれていたことはとうてい納得がいかなかったので、録音データの開示が会議における委員の発言等に心理的制限がかかり、率直な意見の交換や意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあること、不当に市民の間に混乱を生じさせるおそれがあることの論拠が示されていないことを指摘するとともに、次のように述べて反論書を提出しました。

 ① 以前より当市では本会議や常任委員会のインターネット中継が行われている。これらの会議では音声だけでなく映像もリアルタイムで市民はみることができる。なぜ、インターネットで公開されていない予算特別委員会等の音声データの開示が問題とされるのか。
 ②議会での不開示とされる情報の具体例は各省庁から発信されていて、1)役所内部、もしくは関係機関との意思決定前の審議・検討等の情報、2)関係機関との事前協議に関する情報などと限定されている。議会での音声データが不開示でよいという文言は、調べた限りどこにもない。
 ③群馬県みどりの市の市民が、今回の審査請求とほぼ同一の内容のものを提出し、審査会の結論として開示すべきものと結論づけた事例がある。

 

 西東京個人情報保護・情報公開審査会開催

 情報公開審査会で意見を述べたのだが、市議会に提出した審査請求書は行政手続きに従い、市議会議長から第三者機関である西東京市行政不服審査会である西東京個人情報保護・情報公開審査会に諮問されることとなりました。

 それを受けて、11月2日に西東京個人情報保護・情報公開審査会会長名で本審査請求に関して、西東京個人情報保護・情報公開審査会を翌年の1月6日に開催すること、審査請求人は審査会で、①口頭で意見を述べることができること②主張書面を提出すること又は提出資料の閲覧を求めることができるので通知します、という書面を受領しました。

 11月22日に①審査会で口頭での意見を述べる意志があること②提出資料として類似事例(川崎市教育員会会議の音声データ開示請求事例 審査会結論は「開示が妥当」)を書面で提出しました。

 1月6日西東京個人情報保護・情報公開審査会審査会にて口頭意見陳述を実施しました。時間は質疑応答を含めて約20分。委員は以下の4人の弁護士でした。

・川野智弘委員(弁護士)
・久保貴史委員(弁護士)
・橋積京子委員(弁護士)
・山内章委員(弁護士)

 こちらからは開示請求の主旨を説明し、開示内容の論拠の希薄さ、開示が妥当としている他市事例を説明しました。気張って参加したのですが、本質的な質問はなく、行政としては審査会を開催したという事実が必要だったのではないかを思ってしまうほど拍子抜けの審査会でした。

 

 審査会の結論は「不開示が妥当」

 

答申

審査会答申の写し

 

 審査会から4ヵ月以上経った5月中旬に、審査会が市議会議長に出した答申書の写しを受領しました。それは「不開示処分が妥当」であり、その理由は市議会議長が先に示した弁明書をほぼなぞるだけでした。当方からの反論書や開示を妥当とする他市事例に関しての論証をもとにした明確な反論は見当たりませんでした。弁護士4人が参加した審議会で、しっかりとした説明や論証を示すことなく、市議会からの弁明書の内容をなぞるような審査会の結論を読むと、残念でなりません。

 それは自分の主張が認められなかったからではなく、不開示が妥当であることの論証がほぼないに等しい答申書であったからです。言い方を変えると、いかにもおざなりな内容の答申書であったからです。

 

 裁決書は審査請求を棄却

 音声データの開示請求から約11ヵ月たった2022年6月6日付で、処分庁西東京市市議会議長から以下の内容の裁決書を受領しました。

主文:審査請求を棄却する。
理由の欄には、すでに受領した理由が再度書かれていました。そして、この処分の取り消しを求める場合は西東京市を被告とした訴え(裁判)をすることができるとの記載もありました。次は裁判か、敷居が高いなと思いました。

 

 なぜ議会は音声データを公開しなかったのか

 一連の受領した書類を読む限り、市議会は、議会音声データをなぜ市民に公開しなかったのかということの説明責任を果たしていないと思わざるを得ません。しかし以下のような理由ではないかと推測します。

 市議会での議員の生の発言が音声データで市民に公開されると、その一部を切り取られてSNS等で拡散され、自分が世間から批判されると考える市議が一定数おり、そういった市議たちの意思がなんとなく働いて、本裁定に関わった関係者の間で、「音声データを市民に開示するとどんな使われ方をするかわからないから、公開しないほうが無難だよね」という暗黙の合意形成がなされたのではないかと思います。

 

 市民のための市議会とは

 しかし、市議会とはだれのために存在するのでしょう。主権者である市民のために存在するのではないのでしょうか。市民への情報公開をすすめることにより、議会制民主主義は適度な緊張感のもとに、質の向上がなされるのではないでしょうか。

 会派や市議個人の都合によって、公開される情報が制限されることは絶対にあってはなりません。

 また、市議が市議会での発言に責任をもつことは当たり前のことです。そのために、しっかりと事前の準備を行うのでしょう。それが当たり前であれば、今回の議会の録音データの開示は当たり前に公開となっていたでしょう。

 

 最後に

 「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(いわゆる情報公開法)が施行されたのは、平成13年4月1日です。施行してから21年間で行政の情報公開は大きく進みました。この法律の理念は、単に行政情報の開示を目的とするものではなく、国民と行政との間で行政情報の共有化を図り、協働して、よりよい国造りを実現するためのものです。

 当市・市議会は、市民を巻き込んだまちづくりを推進するためにも、今まで以上に市民を信頼し、情報公開を進めていただきたいと思います。

 

【関連情報】
・本会議と委員会の会議録(西東京市Web
・答申(写し)(西東京個人情報保護・情報公開審査会審査会、PDF: 776KB
・裁決書(西東京市議会議長、PDF: 517KB
・公文書開示請求に対する拒否処分に係る審査請求について(川崎市情報公開・個人情報保護審査会 答申)(川崎市、PDF: 106KB

 

【筆者略歴】
 根本尚之(ねもと・なおゆき)
 1959年生まれ。西東京市在住、会社員。1996年に息子が脳性麻痺の障がいをもって生まれたことをきっかけに、民間企業に勤務の傍ら、西東京市で障がい者支援の活動をつづける。西東京市障がい者福祉をすすめる会会長、喫茶コーナーふれあい代表、西東京市地域自立支援協議会副会長、西東京市社会福祉協議会評議員、社会福祉法人さくらの園評議員、社会福祉法人田無の会評議員など。

 

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