タブー視されるテーマに向き合う 親への「性教育講座」開催

投稿者: カテゴリー: 子育て・教育 オン 2016年9月17日
性教育講座チラシ(クリックで拡大)

性教育講座チラシ(クリックで拡大)

 「性」は「生」の基礎であり、成長する上で大事な過程でもあります。障害のあるなしにかかわらず、子どものいる家庭で親と子はどう向き合うか-。このほど開かれた性教育講座の様子を、主催者側の斎藤直美さんに報告してもらいました。(編集部)

 9月11日(日)午後、田無町の障害者総合支援センター「フレンドリー」で、「でこぼこ」主催の「子どもへの性教育講座~親が知っておきたい『性と生』のこと~」を開催しました。32人の方に参加していただき盛況のうちに終えることができました。事例を交えた講師の語り口と熱心に講演を聞いている受講者の姿が印象的でした。障がい児にとどまらず、健常児にも共通する話が多いと思いました。

 主催者の「でこぼこ」は、できる事とできない事の差が大きい子どもと、その家族・支援者の会です。私がこの講座を企画したのは、とかくタブー視されがちな性教育の問題は多くの方が関心を抱いているにもかかわらず学ぶ機会が少ないと感じていたからです。

 「性の問題をどのように子どもに伝えるか」は、親にとって頭の痛い問題です。性教育講座の開催に当たり、「でこぼこ」の会員からどのような話が知りたいかを聞きました。思春期の子どもを持つ親からは、「こだわりの強い子どもの場合、子どもがストーカーの加害者にならないためにはどのようにすればよいか」「被害者になった時にはどのように対応すればよいか」、幼い子どもを持つ親からは、「子どもを性被害から防ぐにはどうしたらよいか」などの声が上がりました。

 今回開催して、コミュニケーション能力に課題を抱える子どもを持つ親こそ、このテーマについて学び、正しく対じすべきだとの思いを新たにしました。

 

絵本を手に講演する谷森櫻子先生(筆者提供)

絵本を手に講演する谷森櫻子先生(筆者提供)

 

 講師は、“人間と性”教育研究協議会本部幹事で“人間と性”教育研究協議会障害児・者サークル世話人の谷森櫻子先生にお願いしました。谷森先生は、小学部・高等部の障害児学校の教員として長く勤務された経験を持ち、約30年間、人権と科学をベースに性教育の活動をされてこられました。

 当初の予定時間を延長して約2時間にわたった講義は、「『人間の性』とは何か」「乳幼児期からの性教育~発達年齢に応じた内容を」「思春期の心理との付き合い方」「主な発達段階における『分かる力』の目安」「子どもたちに伝えたいこと~自分の心と体の主人公になるために」の順で進みました。どれも教員生活での体験に裏打ちされた具体的な内容で参考になりました。

 「『人間の性』とは何か」では、3歳児がよくする問いかけとして、「私(僕)はお母さんのどこから生まれてきたの」と親に尋ねることがあるといった話が出ました。突然、子どもからこうした質問をされると、多くの親はどのように答えてよいか戸惑ってしまいます。しかし、これは「ルーツの確認」であり、教えていくことで子どもが生きていくうえでの地盤固めになるとの話を伺い、新たな視点を持つことができました。

 9歳、10歳を過ぎたころから、障害の重い子ほど大人に近づく体(二次性徴)を親が意識して配慮する必要がある。「性」については寝た子を起こすなの発想ではなく、障害の重さにかかわらず、女の子であれば月経、男の子であれば精通を迎える前から、子どもの発達年齢に応じた伝え方で教えるべきだとのお話もありました。

 自閉症や発達障害の子どもは自分の思いをなかなかうまく表現できないことがあります。自閉症の男の子が思春期を迎えて急に荒れ始めた。原因を調べてみると自慰行為ができないことで、イライラが募っていたことが分かった。母子家庭の母親と話し合ったうえで特別支援学校の男性教諭が自慰行為を教えたところ、精神の安定を取り戻したという話も伺いました。母親には分からない男の子の心と体の話は参考になりました。

 講演の最後に谷森先生は、障がい児に「体はいいもの」「触れ合う心地よさ」「自分の体(の感覚)は自分だけのもの」といった意識を持たせることの大切さと、性被害に合わないために自分を守る「自立の心」(「いや、やめて」「やめて、助けて」と言って良い)と、加害者にならないために相手を尊重する「共生の心」(「いや、やめて」と言われたらやめる)を育む必要性を強調されていました。

 

盛況だった「性教育講座」(筆者提供)

盛況だった「性教育講座」(筆者提供)

 

 講演終了後は質疑応答の時間を取るとともに、公の場では質問しづらい方のために個別ブースでの質問の時間を設けました。個別ブースには多くの方が並び、そのうちの数件は深刻な悩みの相談であったとのことでした。谷森先生は、最後まで質問に丁寧に答えてくださいました。

 終了後に回収したアンケートには、「オープンにできない障害者の性教育の問題を知ることができて良かった」「性教育をポジティブに話すことの重要性についてよく理解できた」などの意見が寄せられました。当初は「でこぼこ」の会員中心の内輪の勉強会を考えていましたが、会員外の方にも参加を呼びかけたところ、会員外の方の出席が7割を超えました。この問題に多くの方々が関心を持っていることが分かりました、性の話題はどんなに親しい親同士であっても、なかなか語る機会がありません。それだけに今回のような企画を開催することができて良かったと思っています。
(斎藤 直美)

 

【筆者略歴】
斎藤 直美(さいとう・なおみ)
 東京都生まれ。2013年3月から西東京市在住、「東京都自閉症協会」、西東京市の「ぶーけ」と「でこぼこ」という発達障害の子供を持つ親の会に所属し活動中。

 

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