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ひばりが丘の「スリバチ散歩」 「谷の中の谷」の過去を知る

By in みどり-環境, 催事・集会 on 2018年11月10日

ひばり文化祭のチラシ(クリックで拡大)

 ひばりが丘周辺の地形を、レクチャーとフィールドワークで探索するイベントが11月初めに実施されました。知っているつもりのご近所でも、土地の歴史や地形には意外な過去が隠されています。気持ちのいい秋晴れのもと、その謎解きに参加した青沼詩郎さんの報告です。(編集部)

 

集合・解散場所となった、ひばりが丘PARCO前

 

 2018年11月3日、「<真貝会長と巡る>ひばりが丘エリアのスリバチ地形を訪ねる旅」が開催された。主催者は、ひばりが丘PARCO。開店25周年を記念した「ひばり文化祭」の一環として行われた。1時間半かけて5km未満の道のりを歩くフィールドワークだ。

 案内役を務めたのは、多摩武蔵野スリバチ学会会長、真貝康之しんがいやすゆき氏。参加者は18名、スタッフが4名、真貝氏を加えて総勢23名でひばりが丘PARCOを出発し、ひばりが丘~東久留米地域を流れる川や窪地を巡って歩いた。

 「スリバチ」とは、窪地や谷になっている地形のことで、そうした地形を訪ねて歩くことを愛好する者の間でつけられた呼び名だ。近年、テレビなどのメディアに取り上げられることで、熱心な愛好者以外の耳にも届き始めた言葉ではないだろうか。

 

ひばりが丘~立野川

 

透明度が高く、水生植物が繁茂する立野川

 

 14時30分、ひばりが丘PARCO1階店頭に集合した参加者は、市内在住者や在勤者を中心としたおおむね30代~70代くらいの男女で、男性が8名、女性が10名。

 声の届きにくい範囲にいても真貝氏の声が聴こえるように、無線の受信機が参加者に配られた。各自、無線に接続されたイヤホンを片耳に装着し、ひばりが丘PARCO店頭を出発した。踏切を横断して北側へ渡り、そのまま線路に沿って北西へ歩いた。青空にところどころ雲が浮かぶ、フィールドワークに適した天候だった。

 最初に真貝氏が立ち止まったのは、ちょうど市境にあたる路上だった。旧保谷市章が中央にデザインされたマンホールと、東久留米市章が中央にデザインされたマンホールが、視界の中に並んで設置されていた。「(散歩をしていると)下ばっかり見て歩いてるんですよね」と、真貝氏は言った。

 ひばりが丘の街を背にして遠ざかり、坂を下って、窪地に入っていく。住宅地の奥に現れたのは、立野川だ。岸壁沿いには、住居が連なって建っている。川の流れが、きつくカーブしている場所だった。「蛇行」をこの川の特徴として挙げ、真貝氏は説明した。

 この地域は、かつて「古多摩川」が流れていたが、流路が変わって、幅の広い巨大な窪地が現れたと真貝氏は言う。その地形を大きな「谷」とすると、その「谷」の底を、立野川、落合川、黒目川が流れており、これらの川が小さな「谷」を形成していることになる。この構図を真貝氏は「谷の中の谷」と表現した。

 立野川の清流の中に、クレソンを見つけた参加者。「取り放題だね」などと談笑しながら、住宅の間の幅の狭い道を通り抜けて、立野川の谷を脱した。

 目指す次なる「小さな谷」は、落合川だ。清流の中にクレソンを見つけたり、住宅の外壁に沿って大量に置かれたペットボトルを見つけたり、小さな気付きや発見がある度に、参加者の足が止まった。先頭を行く真貝氏は、「“東京スリバチ学会”の会長は、遅れる人を待たないんですよ」と笑いながら話し、列を延ばす後続の参加者を待ってから、再び歩き始めた。

 「東京スリバチ学会」から分科したのが、真貝氏が会長を務める「多摩武蔵野スリバチ学会」だ。同日、このフィールドワークが行われる前には、ひばりが丘PARCOの5F特設会場にて「ひばりが丘エリアのスリバチ地形」をテーマとした講演が、真貝氏によって行われたばかりだった。西東京地域の地形の魅力を語った真貝氏の知識量と考察の深さには、西東京出身の筆者も大変驚かされた。

 

落合川~竹林公園

 

橋上から望んだ落合川の下流。奥に不動橋グラウンドが見える。来訪者は多い

 

 次なる「小さな谷」を流れるのは、落合川だ。大きな鯉が5匹ほど、流れの中に佇むのが見えた。「上流の方で、釣りをしている人を見たことがある」と話す参加者もいた。川を渡る歩道の手すりに、白い鳥と黒い鳥が2羽並んでとまっていた。先の講演会において、「水の得やすい場所に集落ができる」と真貝氏は説明したが、窪地を流れる川には、人間だけでなく、あらゆる生物が集まるのかもしれない。

 落合川の縁から歩道の上に向かって頭を出した高木の紅葉が、黄色く美しかった。歩きながら「楽しい」を連発する参加者の声が聞こえてきた。

 草を刈った形跡のある、開けた場所に出た一行。「前に来た時は、草が生えていて入れなかった」と言い、奥に進んで行く真貝氏。突き当たりの眼下には、「こぶし沢」が流れていた。視線の正面には石垣、目線を上げたところに住宅のコンクリート塀があった。自分たちが窪地に足を踏み入れ、いかに低い場所にいるかが実感できた。

 「河」という字が刻まれた石標を、草が刈り取られた道端に見つけ、声をあげた参加者がいた。石標は、自分たちの足元に、かつて「河」が流れていたことを示しているのだ。時代によって変遷する光景に思いを巡らせる楽しさが、「スリバチ散歩」にはある。細かい観察が、この散歩をより面白くすることは間違いないだろう。

 「こぶし沢 ホタルの里」と書かれた看板が、岸壁に寄りかかるようにして、沢の端に立っているのが見えた。沢沿いに進むと、ふきのとうが自生していた。歩行者側のフェンスには、「市民の宝 湧水の『こぶし沢』」と書かれた、端が欠け落ちたプレートが括り付けられていた。

 

竹林公園~ひばりヶ丘

 

竹林公園内、湧水点下流側。園内の小径には起伏とカーブが多い

 

 群生した竹が、濃密な日陰をつくっていた。竹林公園に到着した時刻は、15時25分。公園内は起伏に富んでいて、小さなアップダウンを繰り返しながら、園内奥(南側)の湧水点を目指して歩いた。

 途中、湧水の流れに手を差し入れてみると、思った程の冷たさではなかった。11月上旬、この地域の水道水と似たような温度か、あるいは、それよりも温かかったかもしれない。寒さを強く感じる日が増えてきたが、地中の温度変化は、外気温の冷え込みに対して、いくぶん順応が鈍いのかもしれない。立ち止まってハンカチで手を拭いていると、蚊が寄ってきた。

 湧水点を見学し、竹林公園を出る登り坂を歩いていると、「この規模の湧水地は、都内で大変貴重」と話す真貝氏の声が聞こえてきた。「夏の落合川には、たくさんの子どもたちが集まって、水浴びを楽しむスポットがある」と語った参加者もいた。西東京出身の筆者は、「宝」と呼ぶに相応しい湧水を擁する東久留米を、少し羨ましく思った。

 竹林公園を発って南下し、再び立野川沿いにやってきた。往路に横断した地点より上流側に位置するのが、「たての緑地」だ。

 「たての緑地」は、戦前の武蔵野鉄道(現在の西武鉄道)東久留米駅から旧中島航空金属田無製造所へ敷設された、全長2.84kmの鉄道の引き込み線跡だ。東久留米市所有部分のみ、同市の旧跡指定を受けている。小高さが感じられる旧跡上の歩道を北に進んでいくと、スポーツウェアに身を包んだ数人に追い越された。地域の住民が、夕食前の運動を楽しんでいたのかもしれない。

 日が傾き始めたのを感じながら、自由学園の敷地沿いを歩いた。「これが、今日最後の登り坂ですから」と言って、私たちを率いる真貝氏についていく。坂を登りきったところで振り返ると、遠くに建物が見えた。いったん低くなって、窪地を越えたところでふたたび高くなった地形の上に建っているマンションだろう。スリバチ地形を実感するのにふさわしい、この日最後のビューポイントだった。

 自由学園や、その周辺の宅地開発についての真貝氏の解説を聞きながら、ひばりが丘の街を目指して歩いた。道の途中に、「自由学園みらいかん」が確認できた。この地域には、個性ある建築物が目立つ。それらを見て、感嘆の声をあげたり、カメラを向けたりする参加者もいた。

 市境にあたる道路のコンクリートの継ぎ目を指して、「あの継ぎ目が市境だろうか」などと真貝氏を交えて談笑しながら、ひばりヶ丘駅西側付近の線路沿いに戻ってきた。時刻はちょうど、16時を迎えるところだった。正面のHIBARITOWERが、夕日を浴びて、オレンジ色に染まって見えた。

 

「スリバチ散歩」という観察法

 

フィールドワーク参加者に配布された地図。破線部に沿って歩いた(クリックで拡大)

 

 真貝氏は今回の講演とフィールドワークで用いた資料を、「カシミール3D」というコンピュータソフトを用いて作成したという。このソフトを使えば、地図を標高によって色を塗り分けて表示させることも容易にできる。地図上で確認できる地形を実際に歩くことで得られる発見があり、五感を使った観察の楽しさを「スリバチ散歩」は教えてくれるのだと実感した。

 多摩武蔵野スリバチ学会は、定期的にフィールドワークを開催しており、誰でも参加が可能だ。直近では、11月24日土曜日、聖蹟桜ケ丘にて開催が予定されている。同会Facebookページなどを参照し、参加されてみてはいかがだろうか。
(青沼詩郎)

 

【関連リンク】
・多摩武蔵野スリバチ学会 (facebook
・ひばり文化祭(ひばりが丘PARCO

 

【筆者略歴】
 青沼詩郎(あおぬま・しろう)
 1986年5月14日生まれ。西東京市(旧保谷市)在住。住吉小学校、明保中学校、都立大泉高等学校を卒業したのち、東京音楽大学音楽学部音楽学科音楽教育専攻を卒業。2016年4月より、市内在勤。楽器の演奏と歌唱が日課。

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