長期総合計画策定で自治体経営ゲーム活用 「SIMこだいら2030」が市民にお披露目

投稿者: カテゴリー: 市政・選挙 オン 2019年5月31日

「けいみらい市」の近未来を話し合う

 自治体の近未来をシミュレーション(SIM)ゲーム形式で仮想体験する「SIMこだいら2030」が5月25日、市民らに初めてお披露目された。目標となる2030年まで、限られた予算で、どんな施策と事業によって市の将来像を具体化するか-。「部長」になった市民20人が4時間余り、熱い議論の末に取捨選択を繰り返し、特色あるそれぞれの「近未来」が見えてきた…。

 

少子高齢化を課題解決の好機に

 

 この試みは、2021年から始まる小平市の第4次長期総合計画策定の一環として実施された。無作為抽出で市民2000人にアンケート調査した中から参加者を募り、3月に第1回の市民ワークショップを開いて、市の将来像を話し合った。今回は市の行政と財政運営をゲーム形式で模擬体験し、6月のワークショップにつなげる狙いだった。

 

挨拶する小林正則市長

 

 会場となったのは、小平市福祉会館会議室。挨拶に立った小林正則市長は「市の人口はここしばらく増加傾向をたどりますが、やがて減少し、4人に1人が高齢者の時代を迎えます。しかしこういう変化をマイナスととらえず、参加と協働、市民自治推進の立場から、地域で誰もが役割や生きがいを持ち、担い手や支え手になって課題解決に取り組む好機」と述べ、「長期総合計画もこういう姿勢でつくりたいので、ご協力、ご支援をお願いしたい」と呼び掛けた。続いてミニ講座で小平市の財政事情を知ったあと、ゲームが始まった。

 

新規事業と廃止する事業

 

 1チームは5人。企画総務、健康福祉、都市環境、子ども教育、地域振興の各「部長」に辞令が交付される。「仮想市長」役の職員が「人口減少社会の到来で税収が減り、少子高齢化で福祉や医療にかかる社会保障費が膨らんでいます。限りある財源をいかに有効に使うかが重要です」と釘を刺して部長を送り出した。

 

辞令交付で送り出す

 

 事業名が書かれた手札型のカードが部長の手元に用意され、1事業が1億円という決まり。実際の第4次計画は2032年までだが、ゲームのシナリオは2030年までの10年間、仮想自治体「けいみらい市」が舞台だった。

 2021年から2025年までの前半5年間、高齢化で増える社会保障費2億円は必須経費。「公園リニューアル」「保育環境のさらなる充実」の2件が「決断」を要する事業だった。どちらも実施するなら財源確保が必要だ。前任部長らが進めてきた既存事業を廃止するのか、赤字地方債に頼るのか。しかし赤字地方債は計画期間の10年で2億円の枠しかない。

 後半の5年も厳しい。社会保障費が増えて1億円、下水道や道路などのインフラ施設更新に1億円の計2億円は「必ず実施」事業。そのうえ「近隣市と共同でAI導入」「市民ホールのリニューアル」の2事業が「決断」を要する課題。この2事業は、実施しない選択肢もある。その場合は代替案を探さなければならない。そこでまた財源確保に悩む。さーて、どうする、おのおの方…。

 

事業の選択で話し合う部長たち

 

まとめた「計画」を「議員」が採決

 

 限られた予算のなかで市民「部長」たちの議論と駆け引きが続く。「保育園はこれまで増設してきた。もっと介護に力を入れてた方がいい」「若い人に来てもらうには『保育環境の充実』は欠かせない」「小中学生向けの公園遊具の更新は待ってもいい。まずは保育を優先すべきでしょう」…。「高齢化」と「子育て」支援の狭間で綱引きがあり、各部長が手持ちの事業カードを出したり引っ込めたり。あるチームの都市環境部長が、担当の「公園リニューアル」事業は「必要ない」と廃止宣言したら、他の部長が「待った」をかけるなど、行政では見られない?ちょっと驚きの展開も起きた。

 事業の廃止や継続、代替案を大判のワークシートに書き込み、その理由も添える。保育充実、高齢化対応、環境・防災強化、健全財政推進、バランス重視…。それぞれ特色のある近未来の輪郭が見えてくる。

 

身振り手振りで概要を説明する「企画総務」部長

全員賛成でうれしい「可決」

 

 ここで終わるほどゲームは単純ではない。計画がまとまる前半と後半、チームの5人が「議員」役になり、隣のチームの計画案を審査。説明を求める仕掛けになっている。担当事業の部長が「困ったなあ」を連発したり言葉に詰まったり。淀みなく事業廃止の理由を述べる部長もいる。採決の結果、「可決」ならひと安心。あるチームは「否決」されてガックリ。歓声とため息、拍手が交錯した。

 

わがまちのキャッチフレーズ

 

 ゲームはまだまだ続く。「税収アップによるボーナス1億円」が与えられる事業が発表されると、該当するチームから拍手が起きる。使途は「廃止した事業の復活、新規事業、借金(赤字地方債)返済の三択」だった。さらに困難な事態も。「赤字地方債は全額返済せよ」という国の方針が出されるのだ。借金返済のため同額の事業を廃止しなければならない。チームの緊張が伝わると「これはゲームです」。職員の言葉に、ドッと笑いが起きた。

 仕上げは、「わがまち」の強みと特色をチームごとに、キャッチフレーズにまとめる作業だった。カードが分野ごとに色分けされているため、まちの輪郭が自ずから浮かび上がる。「自然」「緑」「子育て」「安心」「笑顔あふれる」「住みたい」「全世代」…。キーワードを出しながら話し合いが続く。最後は「他市視察」。「いいね」シールを貼り合ってゲームは終わりを迎えた。

 

チームの後期計画は否決された

30年後の「けいみらい市」(クリックで拡大)

 

仕掛けと水路に導かれ

 

 一段落したところで、小平市の長期総合計画策定を担当する政策課課長補佐の横山雅敏さんが全体のまとめを兼ねて振り返り、「あれもこれも出来た時代から、あれかこれか『選択』する時代になります。その選択を、根拠に基づきながらきちんと説明することが大事」と述べ、「そのためには情報を共有し、立場を超えて対話しながら、後の世代から感謝されるような選択をしたい」と語った。

 締めくくりは、「本物の」企画政策部長、津嶋陽彦さん。「みなさんの(議員さんに対する)答弁を聞いていると、本番さながらでしたね」と話すと、会場から賑やかな笑い声が上がった。将来ビジョンの共有や工夫の必要を述べたあと、「市民の皆さんと一緒に明るい未来をつくりたい」と締めくくった。

 ゲームの舞台は架空都市、10年計画のまちづくりは「仮想体験」のはずなのに、巧みな仕掛けと水路に導かれ、事業選択の積み重ねが、リアルの「わがまち」づくりに直結する-。そんな気分が伝わってくる。

 

コンピューターゲーム版の夢

 

 自治体経営シミュレーションゲームは、熊本県職員が2014年に開発。その後、福岡市の財政課長(当時)が財政レクチャーと組み合わせた出前講座を始め、各地に広がった。当初の職員向けから、市民との対話を探る「ご当地版」も出現。小平市は第4次長期総合計画策定に当たり、職員の企画提案を募ってSIM方式を取り入れた。隣の小金井市職員の有志と勉強会を立ち上げ、4月に多摩地区の職員向け体験会で合同版を発表。その後改善を続け、小平市民向けに「SIMこだいら2030」を仕上げて初公開した。

 「SIMこだいら」をはじめ、自治体SIMは手札型のカードを使うアナログ版。しかも市政実務の流れに沿い、政策選択の幅も限られがち。デジタル化してコンピューターゲームになれば、打つ手の範囲が広がり、設定や条件、事業の種類などパラメーターも多種多様にできる。

 コンピューターゲームが広がり始めた2000年前後、都市開発シミュレーションゲーム「シムシティ」が世界中で人気だった。プレーヤーが市長になり、寂れた都市を再開発して大都市に発展させるのが基本パターンだった。日本では、沿線開発を手掛けるシミュレーションゲーム「A列車で行こう」も有名だった。

 こんな技術とノウハウを生かして自治体経営のデジタルゲーム版ができれば、近隣の自治体と連携して広域事業を興したり、市民とともに国や都に政策変更を迫ったり、シナリオの可能性はもっと大胆に、よりダイナミックにならないだろうか。そんな夢の近未来を早く仮想体験してみたい。
(北嶋孝)

 

【関連リンク】
・(仮称)小平市第四次長期総合計画策定状況 ニュースレター(創刊号) 平成31年4月(小平市、PDF:546.6KB
・第四次長期総合計画(小平市

 

北嶋孝
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長期総合計画策定で自治体経営ゲーム活用 「SIMこだいら2030」が市民にお披露目」への1件のフィードバック

  1. 廣澤公太郎
    1

    市民モニターで意見を吸い取る方式は市民は言いっぱなしになりがち。行政側もパブリックコメントは取りました的、予定調和型の典型になりがち。小平市のSIMは市民の、市民による、市民のための提言になっており行政側も非常に参考になると同時にその内容に的確に応える事が求められ市民と行政の間にいい意味での緊張感が醸成される。さいたま市でも行われたそうで次回は地元さいたまのSIMに参加したい。

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