イスラム国講演

日本人人質事件の裏側 常岡浩介さんが講演

投稿者: カテゴリー: 暮らし文化 オン 2015年6月27日

 内戦下のシリアで昨年行方不明になった湯川遥菜さんと後藤健二さんの2人が今年[2015年]初め、過激派組織イスラム国(IS)によって殺害された。ISの支配地域で取材経験のあるフリージャーナリストの常岡浩介さんは6月13日(土)西東京市で講演し、渡航直前に警察の家宅捜索によってIS側と交渉する機会を失ったとして捜査を強く批判するなど、体験に基づく一連の経緯をあらためて明らかにした。(写真は、講演する常岡浩介さん。左端が「風の会」代表の小林力さん)

 講演は「西東京・風の会」(小林力代表)が主催した「イスラム国とは!」。西東京市公民館の市民企画事業として柳沢公民館視聴覚室で開かれた。前半はビデオやスライドを交えながら人質事件交渉の舞台裏を、後半はISの実態、ISが生まれたシリア内戦について語った。

常岡浩介さん(クリックで拡大)

常岡浩介さん(クリックで拡大)

 常岡さんはISを取材したことのある国際的にも数少ないジャーナリスト。昨年8月下旬、湯川さんが拘束された後、現地の幹部から連絡が入った。「湯川さんを拘束した。無事だが、証拠に基づいて裁判にかける。立ち会って通訳してほしい」などという内容だったという。

 同年9月5日にトルコからシリアのIS支配地域に入り、同行したイスラム法学者の中田考氏とともに現地の「司令官」と会ったが、シリアのアサド政権による空爆に遭い、結局湯川さんと接触できずに帰国した。

 翌10月7日に再度渡航して湯川さんの解放交渉を続けようとしたら、前日の6日に警視庁公安部が常岡さんらの自宅に家宅捜索に入り、カメラやパソコン、パスポート、メモなどが押収された。容疑は「私戦予備・陰謀罪」。「ISに行きたいという北海道大学生に同行する予定だったことが捜索の口実になった。しかしこの条文は明治時代に刑法が出来てからこれまで死文化していた。捜索から半年余り経っているのに、北大生も私も、逮捕も起訴もされていない。私が持っていた情報が欲しかっただけなのではないか。警察は渡航を妨害し、湯川さんの解放交渉を不可能にした」と手厳しく批判した。

 後藤さんが湯川さんの解放のためにIS入りしたのは10月下旬。「捜査妨害がなければ、私たちが湯川さんの解放交渉が出来たはず。そうすれば、後藤さんがシリアに入って拘束されることもなかった」などと話していた。

 政府による「邦人殺害テロ事件の対応に関する検証委員会 検証報告書」が今年5月に公表された。しかし「警察の家宅捜索で私たちの情報を吸い上げたことも、そのため私たちが現地入りできず交渉も出来なかったことなど、自分たちの責任を問われることはなにも書かれていない」などと指摘した。

 休憩後はシリア内戦について語った。
 常岡さんによると、内戦の死者は約23万人。「大半はアサド政権側の爆撃や毒ガス攻撃などによっている。秘密警察による拷問などの恐怖政治が日常だ」という。
 ISはイスラム教スンニ派の組織。「中枢はイランの旧フセイン政権・バース党の幹部たち」と常岡さんはいう。

 参加しているのは、『アラブの春』が崩壊、挫折した周辺のアラブ諸国の若者たちが多く、カリフ制国家の建設を掲げるISに引かれて集まっている。欧州で就職などがままならず、社会に受け入れられない若者も加わり、旧ソ連や中国で弾圧されたイスラム教徒が生き延びるために逃げ込むケースもあるという。

 「将来どうなるのか」という質問に「当分は現状が続く。イスラム国が崩壊しても、アラブ諸国の状況は変わらない」などと述べ、「シリア内戦を放置するなど、米国のミスが悲惨な現状を招いた」と指摘していた。これに対して「シリア政府は悪くない。常岡さんの分析がおかしい」などと会場で批判する人もいた。

 当日は約100人が集まり、会場はほぼ満員。講演が始まってからも参加者が来場。予備のイスを次々に出して追加の席を設けるほどだった。
(北嶋孝)

 

【関連情報】
・北大生「イスラム国」騒動で吹き飛んだ湯川遥菜さん救出計画(日刊ゲンダイ、2014年10月11日)リンク切れ
常岡浩介氏が見たイスラム国 「公開処刑はまるでショー」(日刊ゲンダイ、2015年2月1日)リンク切れ
・【全文】「警察の捜査が、湯川さん後藤さんの危機的状況を引き起こした」〜ジャーナリスト・常岡浩介氏が会見 (BLOGOS編集部、2015年01月22日)(2022年5月31日でサイト提供を終了)

邦人殺害テロ事件の対応に関する検証委員会検証報告書」(2015年5月)(首相官邸)リンク切れ

 

 

北嶋孝
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日本人人質事件の裏側 常岡浩介さんが講演」への1件のフィードバック

  1. 小林  力
    1

    記事を掲載していただきありがとうございました。
    常岡さんの講演を起承転結に基づき、詳しく記載されていて完璧です。
    やはりプロの方は表現が巧みであり、勉強することが多々あります。

    次回の公民館市民企画事業は表題:近現代史の戦争を振り返る 講師:中村孝文 期日:9月26日(土)午後2時~4時30分 開場: 田無公民館 視聴覚室ですのでよろしくお願いします。

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