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成長も分配も必要―それには積極財政が肝心

投稿者: カテゴリー: 連載・特集・企画 オン 2021年11月7日

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第27回

師岡武男 (評論家)
 

 総選挙の時に盛んに使われた「成長」と「分配」というキーワードを軸にして、今後の経済政策の在り方を考えてみたい。

 

アベノミクスの転換へ

 

 自民党の「成長も分配も」に対して立憲民主党は「まず分配」を主張した形になっているが、内容的にはそれほどの違いがあるわけではない。立民は「まず分配が成長への道」だと分配を強調したのだ。一方の自民党は「まず成長させ、その果実をたくさん分配して、成長と分配の好循環を実現する」と言った。アベノミクスでは成長も分配もなかったのだから、どちらも大きな政策転換が必要になるはずだ。

 総選挙の結果、今後の経済運営は自民党が担うことになったので、以下自民党の政策を中心に検討する。

 

生産者所得の分配先

 

 先ず言葉の意味(定義)をはっきりさせる必要がある。選挙戦では、それが曖昧のままだったからだ。成長とはGDPの拡大のことだが、その果実とはなにか。多分GDPそのもの、つまり国内総生産のことだろう。これはわかりやすいが、分配はかなり難しい言葉だ。

 経済とは、人々が分業でモノを生産して、それを利用する活動である。生産の段階でカネ(所得)が発生し、生産の関係者に分配される。分配とは、そのカネを誰にどう分け与えるかということだ。

 国民経済計算では、国民所得の分配先は、雇用者所得、財産所得、企業所得などに大別されている。企業の段階で生産した付加価値の分配は、賃金と利潤に大別され、労働者への分配比率を労働分配率という(雇用者所得には会社役員の所得も含まれる)。しかし国民経済には、「再分配」という大きな複雑な問題が別にある。

 

成長は分配よりも「需要」との関係が重要

 

 分配は、生産したモノを利用者に分け与えるという意味でもあるから、生産物がなければ分けることもできない。その意味では「生産(成長ではなく)が先」になるのは当然だ。分配が先という言葉は、所得分配の仕方を変えることがまず必要ということだろう。そして総選挙で議論された分配重視ということは、主に労働分配率の引き上げを指すものと思われる。もっと具体的に言えば、賃金の引き上げである。岸田首相の好循環論でもその意味のようだ。

 しかし成長との関係では、こういうややこしい分配論よりも「需要」という経済用語の方が分かりやすいだろう。「需要なくして生産なし」「需要拡大なくして成長なし」である。

 

労働分配率の引き上げへ

 

 実は好循環のための賃金引上げ論はアベノミクス以来のものだが、安倍政権は実現できなかった。実質賃金は1997年以後下がり続けたままだった。結果的にアベノミクスは無策だったが、賃金低下の責任はもちろん安倍政権だけのものではない。なによりも企業と労働組合の責任だろう。両者は、その責任をまず認めるべきだ。

 賃金引き上げのために政府の出来ることは何か。岸田首相は「まず成長」だと言う。岸田氏の認識は「安倍政権は成長では大きな成果をあげたが、分配面が足りなかった」である。しかしこの認識は事実に反するもので、安倍長期政権時代のGDP成長率は年平均0.9%程度のデフレ経済だった。成長も分配も足りなかったのだ。したがって、岸田政権は「まず成長」と言うなら、どうやって成長させるかが最大の課題のはずである。賃金引上げはその一つだが。

 

現金給付拡大で所得再分配が徹底する

 

 分配の課題は、賃金引上げだけではない。広い意味での社会保障が、所得再分配の中心だ。社会保障の在り方は、別格の大問題だが、ここではコロナ対策で急浮上した一律現金給付の問題だけ取り上げておこう。成長政策にも関係があり、当面の経済政策の大きな課題となるものだ。

 一律現金給付の代表例は20年度の特別定額給付金一律10万円だった。総選挙では各党が様々な現金給付案の公約をしたが、自民党には一律給付案はなかった。与党の公明党は18歳以下の子供への10万円給付を公約したが、これも一律とは言えない。恐らく、財務省の徹底した「バラマキ財政」反対論がブレーキになったのだろう。

 財務省は、一律給付だけでなく、社会保障的な財政拡大案すべてに対して「バラマキ競争」と批判したいようだ。しかしそれはあまりにも時代遅れの無知な主張だ。世界はすでに一律所得保障のベーシックインカムを模索するところまで来ている。昨年の10万円給付も世界の流れ沿ったものと言えるだろう。自公政権もその状況を踏まえて、大胆な一律給付案を策定すべきだ。

 最大のネックは財務省による財政破綻論だろうが、日本財政の現状自体が頑迷な主張の破綻を示しているではないか。

 現金給付拡大による所得再分配の徹底と需要拡大は、経済成長へのエンジンにもなるはずだ。

 

成長なければ総貧乏国になる

 

 総選挙で成長政策の議論がほとんどなかったのは、野党側に成長必要論が少なかったためだろう。野党には、分配が改善されれば成長はなくてもいいという思想もあるようだ。しかし成長なしの国民総貧乏で、分配が改善されるという経済は、やってみても持続できないだろう。世論調査では経済対策への要望が必ずトップなのだが、その意見の中に成長無用論はあるまい。

 成長のために何が必要か。日本経済の場合、根本的な条件は「需要」の拡大だ。需要拡大なくして成長なし。国内需要の内容は、大別すると消費、投資、である。分配優先論は消費の拡大を強調したものだが、それだけで消費拡大ができるわけではない。多種多様な消費、投資による成長策が必要なのだ。そのために、決定的に重要なのが積極財政である。政府も野党も、正面から積極財政に取り組まなければ、日本経済の将来は「分厚い中間層」(自民党)「一億総中流」(立憲民主党)どころか、国民総貧乏の惨憺たるものになるだろう。(了)

 

 

【筆者略歴】
師岡武男(もろおか・たけお)
 1926年、千葉県生まれ。評論家。東大法学部卒。共同通信社入社後、社会部、経済部を経て編集委員、論説委員を歴任。元新聞労連書記長。主な著書に今年2月刊の『『対案力』養成講座』(言視舎)、『証言構成戦後労働運動史』(共著)などがある。

 

 

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成長も分配も必要―それには積極財政が肝心」への3件のフィードバック

  1. 1

    高度経済成長期のような消費や投資を刺激する「もの」が何なのかが私には見えません。積極財政で、今萎縮している消費などは、若干回復するでしょうが、「何がなんでも欲しいもの」、「設備投資をして儲かる可能性のある産業分野」のイメージが湧きません。また、アメリカのGAFAのように新しい産業分野を開拓するであろう牽引企業も見えません。

  2. 2

    「何がなんでも欲しいもの」は安心ではないでしょうか。「もの」でなくてもいいと思います。
    高齢社会の先端を走る日本ですから、安心に暮らせる社会のモデルをつくれば、「世界」を牽引できるのでは、と愚考します。

  3. 3

    難しことは分かりませんが、世界的に異常気象・地震・災害が多発、また、石油をはじめ諸物価の高謄で、庶民の生活は、大変です。また仕事も奪われています。何より若者に夢が持たせられません。
    CO2の削減に大豆ミートが、話題を呼んでいますが、世界的に大豆収穫が少なかったとのニュースもあります。職労自給率37%の日本、まず、地産地産地消、都市も耕すことを考えなければなりません。半農半X、自宅作業の方も通勤時間近くで野菜を作る、健康にも家計にも助かります。まず、市の空き地・公園等に大豆を植えても良いと思います。コミュニテイの再生につながります。
    そこから、地方自治、国の政策を話し合う必要があります。
    そのための知恵を出し合いましょう。東大農場・演習林売却地をコンクリートにするなど考えられません。

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