アベノミクスへの代案が必要
政府の政策への反対論があると、政府やその応援団が言う決まり文句は「なんでも反対」ではなく、責任のある代案を出せ、という逆襲だ。これが、世論対策としてかなり有効なセリフだからである。ただし、この論法が役に立たない場合もある。前国会の最大の争点だった安保法案などはそれだ。有力野党は、法案の撤回こそが代案だったからである。
しかし政府・与党は、ちょっとした修正案だけを代案として、形ばかりの付帯決議をつけるような談合にこぎつけて「審議を尽くした」ことにした。強行採決の悪印象を薄める、という小手先の策略である。だが撤回論の野党や世論は、それで納得するはずはなく、争点は来年の参院選まで持ち越されている。
それに肩すかしを食わせようというのが、国会閉会直前に打ち上げられた「アベノミクスの第2ステージ」論であり、「一億総活躍社会」政策である。安保法は過去のこと、今後は未来志向の経済で行こう、ということだ。国民としては、どう対応すべきだろうか。
安保法が過去の問題などでないことは言うまでもないが、アベノミクスも元々大問題なのである。そして、これこそは本格的に「代案」「対案」を出して追及しなければならない問題であった。これまで3年間のアベノミクスの実績はどうだったか、これからの経済政策はどうあるべきか。国会は、緊急課題の安保法案の議論に明け暮れて、経済問題の議論はほとんどなかったが、その間、株高の陰にかくれて、社会保障の後退や労働保護規制の緩和がずるずると実現してきた。
安倍首相は、アベノミクスの第2ステージ案披露の際、過去3年間の実績について手放しの自慢話を繰り広げた。そして、今後の一億総活躍社会のために「新しい3本の矢」を放つと発表した。3年間の旧い矢の実績については、雇用、賃金、倒産の改善を強調し、景気も「デフレ脱却はもう目の前だ」として「日本はようやく新しい朝を迎えることができた」と謳いあげた。記者団からは、どちらについても批判的な質問はなかったが。
普通の国民にとって望ましい経済社会とは、景気が良く雇用は安定し、物価は上がらず、貧困者はなく、格差はできるだけ小さく、社会保障の充実した安心社会だ、と言って間違いではないだろう。ではアベノミクスの旧い矢は、これらの標的に当たったのか。とてもイエスとは言えないのが実情だ。むしろ真逆の結果になりそうな気配さえある。
新しい3本の矢政策はどうか。第1「強い経済」で2020年に向けてGDP600兆円を目指す、第2「子育て支援」で50年後も人口1億人を維持、第3「社会保障の改革・充実」で介護離職をゼロに、というものだ。標的は雑駁だし、具体的な政策も示されていないので、矢はどこに飛んでゆくのか見当もつかない。
これでは、この新政策に今後の日本経済の運営をお任せするわけにはいかない、と誰しも考えるだろう。まさに「代案」が必要なのだ。だが、これまでに野党からアベノミクスへの代案が示された形跡はない。参議院選挙では、安保法が争点になるのは当然だとしても、国民はそれだけで政党や政治家を選択するわけではないだろう。アベノミクスへの代案を、一刻も早く争点に加えてもらいたいものだ。
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