「経済成長」は可能なのか必要なのか―現状と課題
[2015年]5月の消費関連経済指標(速報値)を、前年同期と比べて点検してみよう。名目賃金は0.6%増加、消費者物価は0.5%上昇、実質賃金は0.1%減少、実質家計消費支出は4.8%増加となった。この読み方はちょっとややこしい。実質賃金がマイナスになるのは、厚生労働省が物価で割り引く際の物価指数が「総合指数」よりも高い0.7%上昇だからだ。この状況はほぼ4月並みだが、消費は4月よりも大幅に増えた。これは、昨年5月が8%の激減だったためで、消費水準自体は低いままだ。
これでは、政府が目標としている名目3%、実質2%の年度間経済成長の「好循環」は、到底実現できないことが歴然としている。
政府は6月末に決めた新しい「骨太方針」と「成長戦略」で相変わらず「成長と財政再建の両立」を謳っているが、成長経済の実現はまず無理だ。政府は同時に「成長なくして財政再建なし」とも言っているのだから、成長と財政は両立ではなく共倒れということになる。
では、どんな対策が必要か。実はこれまでのどの政府も有効な対策がとれなかったのだ。名目GDP(国内総生産)は1997年度をピークに下がり続けている。そこで安倍政権は「この道しかない」といってアベノミクスを採用したのだった。しかし安倍政権もやはりできなかった、ということだ。これは安倍政権の「失政」以上の深刻な問題と考えるべきことだろう。
歴代政権の「成長戦略」に対しては、具体策不足への不満の一方、成長至上主義への反対論や低成長必然論がいつもつきまとっていたのだが、アベノミクスの失敗でこの問題はいよいよどん詰まりを迎えたと言えそうだ。そこで日本人が新しく選択すべき道は「成長よりも生活」あるいは「生活による成長」ということではないか。これは特に目新しい考えではなく、かつて言われて実現しなかった「国民の生活が第一」「内需主導の成長」あるいは「生活大国」論の新装版ということだ。それには、何よりも社会保障の充実を中心とする福祉型政策が必要であって、成長は望ましいけれども政策目標からは外すべきだろう。
国民生活の充実と安全を実現するためには、相当大量の財貨・サービスの生産、GDPが必要である。しかしその生産が実現するためには、需要つまりお金が必要だ。それには国民すべてに、買うためのお金が分配され、所得格差が是正なければならない。そうすればおのずと生産活動がついてくる。需要が供給を生むのであって、その逆ではない。しかしそれには、経済、財政政策の大転換が必要である。
生産規模(GDP)については、いまの程度を拡大(成長)しなくてもできるはずだが、政策転換の結果として拡大することもありうるだろう。どちらでもいいのではないか。
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