「生活小国」から脱け出そう 社会保障充実を軸とする成長経済へ

投稿者: カテゴリー: 連載・特集・企画 オン 2022年2月7日

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第29回

師岡武男 (評論家)

 

30年前と同じ課題

 日本経済にはかつて「生活大国5か年計画」というものがあった。それを振り返ってみると、今や日本は大国どころか「生活小国」になってしまった、と思わざるを得ない。

 この大国計画を立てたのは、約30年前の1992年、宮沢喜一内閣の時だった。当時日本は経済大国と言われていたが、バブル経済崩壊の直後であり、国内からは「豊かさの実感がない」という声が高まっていた。計画決定の際の総理大臣談話は次のように言っている。

 「我が国の経済力は世界有数の規模になったが、そのことが国民一人一人の生活に的確に反映されていない。国民が豊かさを実感できるよう、生活者・消費者の視点に立った政策運営が求められている」「新しい計画は我が国の課題を、『地球社会と共存する生活大国への変革』としてとらえ、国民経済の目標がより直接的に生活の質の向上に向けられるよう、経済成長の在り方やその成果の活用に対する考え方の転換を図る」

 このままそっくり岸田内閣の「新しい資本主義」に使ってもらいたいような文句だが、結果はどうだったか。その後30年がたち、経済は停滞して「大国」は死語になり、生活は衰退して「小国」になってしまったのではないか。

 経済大国に戻ることはもうできないだろうが、生活小国からは、何としても脱け出して、豊かな福祉国家にしたいものだ。その方策として考えたいのが、社会保障充実を軸とする成長経済である。

 

社会保障の充実はできる

 社会保障政策の充実が多くの国民の願いであることは間違いないだろう。福祉国家は労働意欲を弱めて経済成長を妨げるという反対論もあるようだが、それはこの際無視しよう。しかし、これからの労働人口減少と老人の増加を考えると、財政負担の拡大は容易でないだろう。その心配は無視できない。現に、民主党野田政権の「社会保障と税の一体改革」政策以後、財政負担はじわじわと抑制されて、年金、医療、介護、生活保護は後退し続けている。

 これからの社会保障充実の課題と対策は、次のような要約できると私は思う。

 ⑴ 基本的な前提となるのは、国民が共に助け合う共生社会の理念を共有すること。

 ⑵ 給付の実物(財・サービス)は、現世代の生産者による生産物以外にはない。過去の生産物はほとんど役に立たない。従って、供給量には限界がある。カネは実物ではないが必要であり、供給量は政府が裁量できる。
 給付の分配は、憲法第25条の実現を目指す人権主義によるべきであり、保険料等の拠出額の多寡とは無関係とする。

 ⑶ 日本経済の生産力の現状では、社会保障給付をもっと拡充できる。財源には国民の負担率引き上げが必要だが、政府の貨幣発行権の積極的活用も必要。現在の負担率は、国際比較から見てもまだ低い。国民の負担の方法は、応能主義による賦課方式とする。

 ⑷ 給付の実物の生産確保のためには、生産力向上による経済成長が必要。少子高齢の時代には、特に重要。社会保障給付の充実は「生活革新型経済成長」(盛山和夫)の中軸になるだろう。

 以上の4項目にはそれぞれ詳しい説明が必要だろうが、政府の「一体改革」政策への抜本的な対案だと考えている。

 

 

【筆者略歴】
師岡武男(もろおか・たけお)
 1926年、千葉県生まれ。評論家。東大法学部卒。共同通信社入社後、社会部、経済部を経て編集委員、論説委員を歴任。元新聞労連書記長。主な著書に2021年2月刊の『『対案力』養成講座』(言視舎)、『証言構成戦後労働運動史』(共著)などがある。

 

 

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