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福島原発の放射性物質はいまも 「にしとうきょう市民放射能測定所あるびれお」の取り組み

投稿者: カテゴリー: 環境・災害 オン 2022年3月10日

 福島第一原発の爆発事故で放射性物質が広範囲に降り注ぎました。事故から11年。現地はもちろん、多くの地域でまだ放射性物質が残っています。西東京市で発足した「にしとうきょう市民放射能測定所あるびれお」の10年の取り組みを、測定員の梅村浄さんが報告します。(編集部)(写真は、あるびれおの看板)

 

 にしとうきょう市民放射能測定所あるびれおは、2012年7月1日に西東京市向台町の一画で開所しました。この10年間の取り組みを紹介し、現在実施している<3.11から10年プロジェクト>への市民の協力を募っています。

 

市民の手で放射能を測定・監視しよう

 

 2011年3月に起こった東京電力福島第一原子力発電所の爆発事故により、日本の広い範囲に大量の放射性物質が降り注ぎました。市内でいち早く、同年6月から自宅周辺の空間線量を測り続けていた市民がいました。また、国や産地にだけ測定を求めるのではなく、消費者の側からも積極的に測定してこの危機に対応しようと考えた子育て中の親たちは、西東京市に測定室設置を求める署名を集めて市議会に陳情しました。12月にこの陳情は市議会で趣旨採択されました。

 このような中でベラルーシ製のヨウ化ナトリウムシンチレーション放射線測定機を寄付する申し出があり、急遽「にしとうきょう市民放射能測定所あるびれお」を立ち上げることになりました。集まったのは小さい子どもの親が多く、孫を放射能から守るために参加した夫婦もいました。メンバーの住まいの一角に測定機を置く場所を確保し、測定リーダーから放射能測定理論、小児科医師から健康影響の講座を受け、並行して測定の実技を学びました。

 測定所の名前とした「アルビレオ」は白鳥座の頭にあたる星で、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の中に出てくる、天の川の流れの速さを測定する測候所の名前です。「もうここらは白鳥区のおしまいです。ごらんなさい。あれが名高いアルビレオの観測所です。」(『銀河鉄道の夜』)

 慌ただしい準備期間を経て、7月7日に近隣市民からの測定依頼を受付け始めました。

 

測定データ

2012年開所当時の放射能測定データ

 

 福島第一原発の爆発後放出された微細な放射性物質が、大気に乗って煙状のプルームとなり関東地方にも流れて来ました。3月21日から22日に降った雨で東京都内全域に降下し、東部に位置する葛飾区の金町浄水場からは放射性ヨウ素が検出されました。

 西部の多摩地区も例外ではありません。2012年、開設当初に測定した西東京市内のコンクリート上の苔からはセシウム137と134を合わせて6180ベクレル/Kg、調布市内住宅のベランダに積もった松の落ち葉からは1290ベクレル/Kg、同住宅の掃除機のゴミからは839ベクレル/Kgの放射能値が出ました(注1)
 (注1)放射性ヨウ素とセシウムは原子力発電に伴って生成される放射性物質です。ベクレルは1Kgの検体に含まれる放射性物質の量を表します。

 

 食品では2011年夏に杉並区で穫れた山桃の酒からセシウム137と134を合わせて9.16ベクレル/Kg、山桃の実から106ベクレル/Kg、2012年小平市にある農園のブルーベリーから6.40ベクレル/Kgの値が出ました(注2)
 (注2)あるびれおの放射線測定機では1リットルの検体を30分間測定した時、検出下限値は10ベクレル/Kgとなります。測定時間を長くすれば、検出下限値は下がります。

 

 2012年に政府は2011年爆発事故直後500ベクレル/Kgとした食品放射能基準値を100ベクレル/Kgと変更しました。この値以下ならば絶対安全という意味ではなく、放射性物質で汚染された食品を食べると人体は内部被ばくしますが、どれくらいの被ばく量まで許容させるのかを政府が決めた値です。最近、政府は再び食品放射能基準値の引き上げを検討しており、市民放射能測定所が中心となって署名を集め、政府に申し入れを行いました。

 他地域の市民放射能測定所やニュースからの情報で果実、山菜やたけのこ、きのこ、れんこんなどに高い値が出やすいことが徐々にわかって来ました。測定依頼に来た市民のスマホで、普段は茎の天辺に花茎がボール状に出て花が咲くアガパンサスに、不規則な位置から花茎が出ている写真を見せられ、放射性物質が遺伝子に突然変異を来すことを実感しました。

 測定結果が出たら依頼者と話しあい、食べるかどうかは本人の判断に委ねています。お互いに学び判断して行動できるように次のような活動を行って来ました。

 

市民と一緒に放射能について学ぼう

 

 「放射能のことを地域で気楽に語り合える機会があれば」「あるびれおの活動は気になるけど、測定員になるのはハードルが高い」という声に応えて、2013年5月に「わいわい寺小屋」を開きました。あるびれお代表から放射能の基礎知識や、福島原発事故の概要、放射能測定方法を解説、「子どもたちを放射能から守る全国小児科医ネットワーク」代表の山田医師からは放射能による健康被害について、福島から母子避難した測定員から「つながろう!放射能から避難したママネット」の活動を話してもらいました。その後、「わいわい寺子屋」を10回に渡って開き、若い親世代と放射能と子育てについて自由に語り合う場としています。

 

わいわい寺子屋

わいわい寺子屋。山田医師が放射能と健康について若い親たちに説明しています(2017年4月)

公開講座

公民館市民企画事業として実施した公開講座で、東京大学助教の小豆川勝見さんが測定について話した(2015年1月)

 

 測定員の有志が「放射能測定を考える会・西東京」を作り、2013年6月に天笠啓裕さんの講演「食べ物と放射能」を公民館市民企画事業を活用して開催し、幅広い市民と共に放射能の健康被害などについて学びました。その後10年間で18回の公民館市民企画事業を開きました。

 測定器と測定法を自分の目で確かめ、放射能について率直に話し合うために、希望者に測定所に来てもらい、福島県の山菜やきのこ、市内の原木栽培きのこ、茨城県のれんこんなどを測る公開共同測定を行いました。

 

共同測定

測定室の隣の部屋を借りて、公開共同測定の話し合い(2016年12月、桃の公開共同測定)

 

10年間で食品の放射能値は減少

 

 あるびれおへの測定依頼件数は2012年388件、2013年433件がピークで、その後食品のセシウム値が下がってくるにつれて、依頼は減って来ました。

 あるびれおは2020年内に多摩地域で収穫、販売されている野菜を自主的に測定しました。レモン、大根、ゆず、キャベツ、小松菜、たけのこ、じゃがいも、ズッキーニ、ニンジン、紫玉ねぎ、カボチャ、ブルーベリー、なす、玉ねぎ、とうがん、小松菜、柿の放射能値はすべて検出下限値以下でした。

 

<3.11から10年プロジェクト>のチラシ(表裏)(クリックで拡大)

 

 食品の放射能値は当初と比べると減って来ましたが(注3)、2011 年に原発からまき散らされた放射性物質は、今も自分たちが住んでいる場所に留まっています。
 (注3)放射性物質は時間と共に崩壊して別の物質に変化していきます。セシウム134は半減期が2年で2011年当時と比べると現在3.5%に減っていますが、セシウム137は半減期が30年で現在も79.5%残っています。また、現地では農産物のセシウム低減の様々な努力が続けられて来ました。

 

 <3.11から10年プロジェクト>として次の2つの測定を始めました。
 まず、西東京市内の土の放射能値を測ってみることにしました。表面から5センチまでの土を1リットル=牛乳パック一杯分、集めて乾燥後測定します。

 もう一つの方法はゼオライト測定です。セシウムは土に付着し風や雨で絶えず移動しています。雨樋下(ない場合は雨水枡)にセシウムを吸着しやすいゼオライトを設置します。雨に流されてゼオライトにたまった土埃を定期的に測定して放射能値の経年変化を記録します(注4)。
 (注4)ゼオライトは鉱物の一種で内部にミクロレベルの穴が開いており、イオン交換剤や吸着剤として広く使われています。

 

 昨年1年間で<3.11から10年プロジェクト>に市内約30箇所から参加者がありました。担当の測定員から連絡して土やゼオライトを受け取り、あるびれおで測定します。結果が出たら連絡して返却し、土は自宅で処分してもらい、ゼオライトは元の場所に戻してもらいます。どんな場所の土なのか写真を撮って持って来てくれる人もあり、放射能について話しをする良い機会になっています。

 

測定マップ

西東京市放射能測定マップ。緑のマークは、プロジェクト参加者が居住する町内(あるびれお作成)

 

 これまでの土の測定から以下の傾向がわかりました。

 1. 側溝の土4カ所を測りました。セシウム137と134を合わせて1548ベクレル/Kgが最大値で、他の家でも665〜250ベクレル/Kgと高い値が出ました。雨で流れ込んだ土はセシウムが凝縮されやすい場所です。この家では子どもたちが遊ぶ場所にある側溝の土をさらって別の場所に埋めました。
 2. 庭土は概ね120ベクレル/kgから50ベクレル/Kgの間に分布していましたが、例外的に高い場所もあり、さらにデータを集める必要があります。
 3. また、保育園、学校、公園など子どもたちが土に触れる場所を測定するにはどうしたら良いか、皆さんの知恵をお貸しください。

 

 3.11から11年が経ちました。福島第一原発の廃炉への道は見えず、除染廃棄物は中間貯蔵施設に保管されていますが、帰還困難区域の汚染土がこれからどれくらい出るかは見通せません。本年1月27日には福島第1原発事故で放出された放射性物質により甲状腺癌を発症したとして、当時6~16歳で福島県内に在住していた6人が損害賠償を求める裁判を東京地裁に提訴しました。放射能の健康被害を認めようとしない東電との長い裁判になります。

 あるびれおは土とゼオライトの測定を今後も継続していきます。皆さんのご協力をお願いします。

 

【にしとうきょう市民放射能測定所あるびれお】⇒ https://west-tokyo-albireo.com/
〒188-0013 東京都西東京市向台町4-17-8-201
電話:070-5073-4356
(写真と図は、あるびれお提供)

 

【筆者略歴】
 梅村浄(うめむら・きよら)
 1945年3月福岡市生まれ。1975年より西東京市南町在住。梅村こども診療所小児科医、にしとうきょう市民放射能測定所あるびれお測定員。

 

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