移動式子ども食堂「カモミール」

移動式子ども食堂カモミールが1周年 小平市の公民館を巡って調理・配食 NPO法人化、ラジオ番組など広がる活動

投稿者: カテゴリー: 暮らし子育て・教育 オン 2022年5月3日

 小平市の移動式子ども食堂「カモミール」がスタートして5月で1周年を迎えた。「コロナ禍で会食ができないなら自分たちが動こう」と公民館を拠点に移動するという独自のスタイルを続けてきた。3月にはNPO法人化し、4月からは小平、清瀬、東久留米3市をエリアとするコミュニティーFM「TOKYO854 くるめラ」で自らの番組が始まるなど、活動は大きな広がりを見せている。(写真は、弁当のおかずを盛り付ける「カモミール」支援者。2022年4月21日、小平市・中央公民館)

 

逆境で生まれる力

 

 NPO法人全国こども食堂支援センター「むすびえ」(湯浅誠理事長)によると、子ども食堂とは「子どもが1人でも行ける無料または定額の食堂」を言う。民間による自主的活動にもかかわらず、「子どもの貧困」が社会問題化するに伴って、ここ数年急増し、その数は2021年12月現在、全国6007カ所(前年比21%増)に上っている。

 小平市で移動式子ども食堂を立ち上げたのは、市立小学校で23年間、給食を作っていた田中貴子さん(58)。家庭環境や経済的に恵まれない子どもたちと接するうちに「自分にできることはないか」と考え、「料理を通して子どもたちを笑顔にできれば」と子ども食堂に思い当たった。経済的な不安はあったが、2020年3月に退職。コロナ禍による全国一斉休校の直後だった。

 当初は知人の子ども食堂を手伝っていたが、4月の緊急事態宣言によって人が集まって会食する子ども食堂は活動休止を余儀なくされた。田中さんは逆にこの期間を利用して料理教室に通い、食育アドバイザーの資格を取得する。「辞職からの1年間は本当にさまざまな出会いがあった。自分にとって必要な期間だったと思う」

 コロナ禍による経済・社会活動の停止は生活困窮家庭をさらに追い詰めた。どうにかしなければ。集まれないなら自分が動けばいい。思い至ったのが「移動式の食堂」だった。市内各地区の公民館で調理した料理を弁当にして配る。大勢が一つの場所に集まらず、しかも公民館を巡ることで、子ども食堂がなかった地区にも食を提供して地域的な偏りを解消できる。キッチンカーによる移動式はあっても、公民館を拠点に移動する子ども食堂は初めてだった。

 食堂名「カモミール」の花言葉は「逆境で生まれる力」「友情」「あなたを癒す」。「コロナ禍を強く生きる力と安らぎを安全でおいしいご飯で届けたい」との願いを込めた。

 

子ども食堂「カモミール」

役割を分担してテキパキと調理する

 

縁が縁を呼ぶ

 

 第1回配食は2021年5月19日。地域のボランティアをはじめ公民館や学校、社会福祉協議会の協力を得て82食の弁当を配った。高校生以下は無料、大人は1食300円。これまで市内に計11カ所ある公民館中6カ所を回り、第1、第3水曜に100〜150食を配ってきた。献立は給食調理の経験を生かし、子どもたちが好きで食べやすいだけでなく、見た目が彩り豊かになるよう工夫しているという。

当初は段取りが悪く、移動式ゆえの苦労やトラブルもあった。炊飯器を2台同時に使ってコンセントのブレーカーが落ちたり、料理の匂いが公民館内にこもったり。調理道具などは毎回、持ち運ばなければならず、公民館によって調理場の広さや備品が異なるため、作ることができる弁当の数も変わる。

 経費は当初、退職金を取り崩して賄ってきたが、この1年間で活動が広く知られるようになり、支援者や福祉団体、企業から食材や寄付金、配布場所が提供されるようになった。調理や配食を担うボランティアは中学、高校時代の同級生や先輩後輩、ママ友……そこからさらに縁が縁を呼び、今や近隣だけでなく渋谷や新宿から駆けつける人も。支援の幅を広げて活動を継続、発展させるため、3月にはNPO法人の認証を得た。

 

田中貴子さん

調理を指示する田中貴子さん

 

楽しくなければ続かない

 

 今年4月21日午後1時、小平市小川町2丁目の中央公民館実習室。検温、消毒、手袋、マスク、キャップと徹底した衛生管理のもと、調理が始まった。献立は赤飯、ブリの照り焼き、若竹の土佐煮、小松菜とわかめの中華風酢の物、にんじんしりしり。食材の米、小豆、小松菜、たけのこ、イチゴは各地の支援者や地元農家、小平市から寄せられた。

 集まった十数人のうち意外にも4割近くが男性だ。食材を切ったり煮たり焼いたりと役割を分担し、テキパキ動く。「貴子さん、イチゴのヘタは付けておく?」「一番菌が多い所だから取って」「了解!」「これ、味見してみて」「休憩、取りまーす」。なんだか楽しそうだ。「そうでなきゃ続きませんからね」「家庭科の調理実習みたい」と参加者。田中さんも「楽しくないとおいしいものは作れない。みなさんが参加してよかったと思えるような環境づくりを心がけています」。

 

子ども食堂

配布する集会所前にはすでに子どもたちの行列ができていた

 

 午後5時半の配布時間が迫り、急ピッチで仕分けを進める。 後片付けと同時に150食を約2キロ離れた「大沼町一丁目アパート集会室」に配送する。集会室前にはすでに行列ができていた。弁当と一緒に、社会福祉協議会からの缶スープやクラッカーを渡す。「毎回、楽しみにしています」(親子連れ)、「これ、なんでタダなの?」(近くで遊んでいた子ども)、「いつも田中さんにお世話になっています」(老夫婦)……それぞれ集まってくる理由は異なる。

 

子ども食堂

訪れた親子連れに弁当を手渡す

 

 無料、格安で次々配られる弁当。「本当に届けたい子どもたちに届いているのか」という課題はカモミール内でも議論されてきた。「子ども食堂の存在をまず知ってもらうことが大事。たとえ1割でも困っている子どもに届けばいい」「不特定多数に配っていたほうが、困っている子どもも来やすいはず」「地域の親や子の交流の場であり、お母さんの負担を軽くするという効果もある」。スタッフたちの意見はさまざまだ。

 

居場所づくりに向けて

 

 4月23日、コミュニティーFM「くるめラ」で、田中さんがパーソナリティを務める生番組「笑顔でいただきます」が始まった。第4土曜の午後1時から55分間、毎回ゲストを迎えて旬の野菜情報や子ども食堂の情報、支援者たちを紹介していく。調理師の前はイベントや結婚式の司会・進行の仕事をしていただけに、田中さんの語りも堂に入っている。今後、番組を通じて市内の子ども食堂との交流を進め、ネットワーク化を図っていくという。

 現在、構想しているのがコンビニと連携した「フードドライブ」の取り組みだ。各家庭で余った食品を店舗に寄付してもらい、カモミールの食材にしたり利用者に配布したりする。実施店舗など具体的なプランは決まっていないが、「これからの展望の一つとして協力していただけるとうれしい」と田中さんは話す。

 子ども食堂の大切な役割に「居場所づくり」がある。移動式ではかなわないが「将来は必ずみんながつどえる居場所をつくりたい」と言う。「今できることにできる限りチャレンジする。やらないことには何も始まりませんから。この仕事は私の使命だという思いを持って続けていきます」
(片岡義博)

 

【関連情報】
・移動式子ども食堂「カモミール」(facebook
・NPO法人全国こども食堂支援センターむずびえ(HP

 

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