「どんな農業でも可能性に満ちている」 ドキュメンタリー映画「百姓の百の声」上映始まる
日本各地の農家を訪ね歩き、「食」の原点である「農」の多彩な姿を浮き彫りにするドキュメンタリー映画「百姓の百の声」の上映が都内で始まった。和食をテーマにした映画「千年の一滴 だし しょうゆ」を撮った柴田昌平監督(西東京市在住)の作品。12月2日までポレポレ東中野で上映される。(映画「百姓の百の声」のポスターから)
「わからん」から始まった2年余の取材
映画は「農家の人が何を話しているのか、その言葉がわからん」と柴田監督が立ち止まることから始まった。「現代農業」(農山漁村文化協会発行)の取材チームを先達に、2020年から2年間、全国10カ所に及ぶ取材で柴田監督が何を見て何を感じたのか、行きつ戻りつ、悩みながらのカメラワークが2時間10分に及ぶ映画を飽きさせない。
茨城県の横田農場は、ディズニーランド3つ分の面積に、時期をずらしながら多品種の米を植える。手伝うのは、70代のおじいさん、おばあさんから小学生の子どもたちだ。イネの生育調査も行い、直販も手がけて食べてくれる人とつながる。地域の場所にもなっていて、農家の持つ多彩なつながりを実感する。養鶏をベースに有機野菜を生産販売し、近隣の農家と協力して飼料米を生産する山口県の農家もある。
「後継者問題」にふれないか「問題だ」だけで終わる取材もあるが、この映画では佐賀県のキュウリ農家が県の協力でトレーニング場所をつくり、毎年就労希望者を受け入れている姿も伝えている。「百姓の知は共有財産。もっている技術と経験はすべて伝える。みんながいっしょに豊かになればいい」と、展望への足がかりも提示する。
農業の豊かさと面白さ、希望も伝える
施行された改定種苗法の現実にもふれつつ、嘆くだけでなくそれを力に変えようとする農家の力強い取り組みも報告。国連の「小農宣言」にもふれる。害虫を天敵で駆除する方法を開発した農家が高知県にあるという。監督に聞くと「コロナ感染のことがあり取材できなかった。行きたかったが残念です」と話してくれた。高知県出身のわたしとしても少し残念だ。
この映画の上映を通して柴田監督が全国行脚し、地域の人と農家が対話し、未来について語り合う交流会を実現しようとクラウドファンディングで資金を募ったところ、目標の100万円を超え、10月までに全国から計250万円が集まった。
先人の叡智を学び、自分に引き付けて考え、人とつながることで力と命を豊かにする情熱をもつ人がいる。柴田監督は「どんな農業でも可能性に満ちている」と話す。
映画のチラシには「みんなつまずく そして前を向く 転んでは 立ち上がる 復元力」とあるが、それぞれの情熱が農業の豊かさと面白さと希望も伝えてくれる映画だ。
映画が人をつなげ、生き方も考えた
この映画を知ったのは、ひばりタイムスに掲載された滝山農業塾の記事を見て、映画の普及活動をしている富士 海さんから「広報にご協力お願いできないか」とメールが来たからだ。
富士さんは東日本大震災があって夫婦で奈良へ移住。農業に9年間従事していたが、東京に帰ってきて母上の介護をしながらこの映画の普及活動をしている。「ないものは自分で作り出し、世界を広げる百姓の生きざまにふれ、自分の生き方も考えた」と話してくれた。自分の生きざまを重ねていく力が、この映画にはある。見ていたら力が湧く、そんな映画だ。
ウクライナとロシアの戦争で食糧危機が改めて問われる今、農業の多様多彩な現状と希望を伝える、時機を得た映画だ。
(川地素睿)
【関連情報】
・映画「百姓の百の声」(公式サイト)
・予告編(1分50秒版)(You Tube)
・柴田 昌平(facebook)
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ポレポレ東中野で上映されるのは12月2日まで、となりました。12月3日以降は未定となっています。(編集部)