「構造的賃上げ」へ新次元の対策を
岸田首相が、就任1年後の22年10月、国会での所信表明で「構造的な賃上げ」を重点政策として訴えた。立派な政策公約だが、その実現には今どうすればよいか、を考えてみよう。
具体策ない政府公約
①バブル経済崩壊後の平成初期から続く不景気な低成長経済は、低賃金(低分配率)を主因とする低消費と低投資の値下げ競争の結果として、総生産(GDP)の停滞する賃金デフレ経済となった。
②この状況下では企業は賃上げの余力がなくなる。まず景気を良くする需要拡大の経済政策が必要だ。岸田政権はそれをしていない。23年1月の施政方針演説も「構造的賃上げ」について説明しているが、具体的な内容は示していない。「まずは物価上昇を超える賃上げが必要」と言っているが、目前の春闘賃上げでそれが期待できるような動きは見えない。
政府財源で分配改革を
③企業は輸入インフレのコスト転嫁で値上げしても、もうかっているのではないから、賃上げの余力が付いたのではない。(企業内に過去の利益の多額の内部留保はあるが-21年度末利益剰余金585兆円・財務省統計)。従来型の春闘のままでは、実質賃金低下が続く結果になるだろう。
④今すぐ賃金を上げるには、政府財源による賃上げを中心とする分配先行の景気対策が必要だ。賃上げのために政府ができることとして、岸田首相は23年1月4日の記者会見で、「最低賃金引上げ、公的セクターや政府調達参加企業の賃上げを目指す」と言った。公務員の賃上げを含めることができる言葉だ。
公務員の大幅賃上げを
⑤公務員の先行的大幅賃上げには、人事院勧告制度の改正なども必要だろうが、何よりも民間賃金準拠の考え方の転換が重要だ。民間賃金が公務員賃金準拠であっても不合理ではないのだ。公務員労組の賃金理論の再検討も必要ではないか。
⑥公務員の賃上げについては、経団連の21世紀政策研究所が22年6月に発表した「経済財政運営の大転換」の提言の中で「公共部門の賃上げ・雇用増と競争政策の強化」として言及されている。
⑦全国民の生活支援のためには、ベーシックインカム(BI)が適切だ。賃上げだけでは、雇用者以外は取り残されてしまうからだ。労働組合の要求は賃金だけになる恐れがある。賃金だけの場合でも、要求は格差縮小を徹底して、「一律定額」だけという新次元の分配方式を打ち出すべきだ。そして何よりも、公務員の大幅賃上げを要求すべきだ。BIの導入があれば、賃上げは減らすことができるが、導入がなければ、別途のインフレ対策給付が必要になる。
賃金以外の生活支援給付も必要
⑧国民の所得増額に必要な金額試算(1年間の合計金額)
ベーシックインカム 1月2万円給付 29.9兆円
雇用者全員賃金1月3万円増加 21.8兆円
公務員賃金1月3万円増加 1.2兆円
財源は、企業負担あるいは税金、国債発行による政府負担で十分に可能。
⑨生活別人口
総人口 1億2477万人 2023年1月現在
就業人口 6724万人 2022年11月現在
雇用人口 6053万人 2022年11月現在
公務員人口 333万人(人事院資料)
公務員をもっと増やす
⑩財源試算で示したように、全公務員333万人に1月一律3万円の賃金増額をしても、予算は1.2兆円で足りる。コロナ対策に一人10万円給付の12.8兆円に比べると僅かなものだ。公務部門の人数の数え方にはいろいろの基準があるが、どの基準でも人口比で国際比較すると、日本は先進国では一番少ない、小さな政府である。金もうけを目的としない公的な供給の生産や給付を減らす行政改革と、低賃金政策の結果だ。人権国家らしく大幅賃上げと人員増加をはかるべきである。
(了)
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