誰もが安心して社会保障を受けられる国へ―財源はある

投稿者: カテゴリー: 未分類 オン 2023年1月19日

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第31回

師岡武男 (評論家)
 

 日本経済の問題点を長年報告したり論じたりしてきて、今96歳の私が一番大事だと思う経済課題は、社会保障の充実である。私自身の生活は、寝たきりの体にならない限り、社会保障のお陰で、独居老人でも幸い何とか暮らしていける。しかし日本全体で見ると、不景気続きのじり貧経済のため生活に困っている人々が沢山いるし、社会保障は抑制のための「改革」がどんどんと進んでいる。恐らく多くの人々が老後不安におびえ、結果として消費節約による不景気経済の悪循環を招いていると思う。この状況を一刻も早く改善したい。

 社会保障充実の根拠は、一言で言えば人権主義による公正分配の実現である。
 憲法第25条の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」は基本的人権の一つとしてよく知られているが、第13条は「生命、自由、および幸福追求に対する国民の権利」は「立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と、そのための政策努力を求めている。

 

 私の老後不安「不健康長寿」

 まず私が身につまされて必要を感じる社会保障政策は、誰もが安心して医療と介護を受けて暮らせる国になってほしいということだ。

 私自身は、いまは何とか体を動かせる「健康長寿」の状態だが、怪我などによって外出もできない「不健康長寿」になる可能性はかなり大きい。もし体が動けなくなったら、医者にも行けず生活もできなくなってお手上げになってしまうだろう、という不安をいつも感じている。生活費は厚生年金のお陰でなんとか足りているが、今の社会保障では一人暮らしの老人の、安心な「終末」への支援体制はできていない。自治体には在宅介護のための「地域包括支援センター」があり、私も世話になっているが、在宅では手に余る医療や介護には対応できないと思う。
(私の生活費が一応足りているということは、年金については運よく制度的に優遇された厚生年金のためだが、そうでない人はたくさんいるだろう。年金給付には大きな格差がある。医療と介護の前に、誰もが生活費を保障される年金制度と生活保護制度への改正が当然必要だ)

 身体が自由でない一人暮らしでも、医療は往診や入院、あるいは訪問看護・介護などが十分なら、在宅で間に合うこともあるだろうが、体の衰弱が進んだら在宅は無理となって、ケアつきの老人ホームに入れてもらうしかないだろう。そのためのホ-ムは、介護保険の特別養護老人ホーム(特養)のほかに、有料の施設が沢山出来ている。特養は要介護認定3以上でないと入れないようだが、有料ホームは、カネさえあれば、手当を受けながら贅沢に暮らせるかもしれない。しかし金持ちでない大多数の国民にとっては、社会保障の充実改善は安心生活のための最大級の問題であり、当然政府にも政党にも最大級の政治課題である。

 

 社会保障への財源の壁

 そこで、かならず大きな問題になるのが社会保障給付の財源対策だ。この小論でも何回か取り上げてきたが、今のところ政府も、ほぼすべての政党も、財源問題で壁にぶつかって、大幅な改善案が出せないでいる。その壁とは、政府の貨幣発行権による財政資金の大幅な活用への理解不足である。例外的に、政党では「れいわ新選組」の積極財政政策、民間団体では「日本経済復活の会」などのベーシックインカム案の提唱がその壁に挑戦している。私の小論もその挑戦に参加してきたが、依然として少数意見の状況なので重ねて強調したい。

 社会保障で給付される財・サービスは、現役で働く世代の生産する実物(モノ)が大部分であって、それを媒介するカネの財源は、日本経済では政府が十分に創り出せるという根本的な事実を認識することがまず必要である。逆に言えば、モノが無かったらいくらカネの蓄積があってもモノの役には立たないということである。

 その認識から出発して、少子高齢化が進む日本経済で、誰もが安心して豊かな社会保障の給付を受けられる対案ができるか、を考えてみよう。

 

 豊かな社会保障への3条件

 豊かな社会保障を実現するための条件は、次のようになるだろう。
 ①給付するモノの供給力(生産力)が十分にあること
 ②給付を受け取る需要力(支払い力)への公的分配支援が十分あること
 ③豊かな供給力と公的な分配支援の実現のための、大きな政府による積極財政政策

 以上の三つの条件についての、現在および将来の日本経済の状況はどうか。
 まず、現在でも③の条件さえあれば実現できるという具体的な対案の一つを紹介しよう。2021年4月に3人の経済学者が発表した「99%のためのベーシックインカム構想」だ。長年のデフレ不況とコロナ・ショックで疲弊している全国民の生活支援策として提唱された社会保障強化策だ。(学者名 朴勝俊、山森亮、井上智洋)

 

「99%のためのベーシックインカム」案
 提唱の骨子は次の通り。
 ベーシックインカムは全ての個人に一定の金額を定期的に給付する。制度は2階建てとする。2階部分は政府と日銀による貨幣発行(国債発行と日銀の買い入れ)で均等に給付するが、経済が回復するとゼロに向けて縮小する。当面は1人1月あたり7万円とする。1階部分は恒久的に安定的な給付を保証するもので、税による裏付けをする。約45兆円の増収を図り、1人1月あたり約3万円給付する。(1億2600万人に1月あたり1万円給付するには15兆円強の裏付けが必要)。この制度は既存の社会保障との調整を必要とする部分(生活保護など)もあるが、基本的には併存させるものなので分かりやすい。

 一見すると夢物語のような内容だが、前提として日本経済は高度な生産力を持つという認識に基づいて、経済学者の責任を込めた具体的な提唱なのだ。構想の内容には詳細な説明がつけられているが、注目されるのはやはり財源対策だろう。2階建て給付のための貨幣発行権の活用、1階部分の税金負担の増加対策は実現可能なのか。

 

 必要な財政拡大は国債発行で

 実は財政の財原対策は今、国債増発か増税かという課題をめぐって最大級の政治問題になっている。経済対策、コロナ対策に加えて、防衛費倍増政策まで飛び込んできたが、この問題についての根本的な考え方は、「必要な財政支出の財源は国債発行で調達してよい」ということだろう。防衛費大幅増加が必要かどうかはまだろくろく議論もされていない問題だが、社会保障など国民生活改善のための財政支出は、最優先の必要事項である。貨幣増発への制限は、悪性インフレ化を防ぐことだけだが、日本経済はまだ悪性デフレから脱け出せていないのだ。2階建てのベーシックインカムが出来たら、それを速くゼロにできるようにしたいものだ。

 

 少子高齢化でも大丈夫

 ところで、少子高齢化が進む将来の社会保障給付は大丈夫だろうか。まずモノの供給力が問題である。少子高齢化でモノをつくれる人口が減って、つくれない人口が増えることが問題の原点だ。就業者一人による生産量が増えないとすれば、国全体の総生産量(GDP)が減るのは当然だろう。公的分配の公正化を進めたとしても、GDPの量が減っては、豊かな給付は望めなくなる。金持ちも、いくらカネがあっても、公正分配の枠がはまるはずだ。対策にはやはり生産力の強化、生産性向上による経済成長が必要になる。それは可能だろうか。可能だと考えていいのではないか。科学技術進歩の人類の歴史が証明していると思うからだ。

 そうだとすれば、先に示した豊かな社会保障実現のための三つの条件は満たされることになるだろう。経済成長と公正分配による社会保障の充実のために、大きな政府の積極財政を進めることが経済政策の要だと思う。
(2023.1)

 

 

【筆者略歴】
師岡武男(もろおか・たけお)
 1926年、千葉県生まれ。評論家。東大法学部卒。共同通信社入社後、社会部、経済部を経て編集委員、論説委員を歴任。元新聞労連書記長。主な著書に2021年2月刊の『『対案力』養成講座』(言視舎)、『証言構成戦後労働運動史』(共著)などがある。

 

 

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