北多摩戦後クロニクル 第49回
2021年 自由学園が創立100周年 「よい社会を創る人を育てる」
東久留米市学園町に10万平方メートルのキャンパスを擁し、独創的な教育で知られる自由学園が2021年4月15日、創立100周年を迎えた。戦争が影を落とした苦難の時代から、日本の教育が180度変わった戦後も、「よい社会を創る人を育てる」という理念はブレず、前へ進んできた。そして次の100年に向け、2024年4月にスタートする中高の男女共学化で、「共生共学」の学校としての一歩を踏み出そうとしている。
■ 「自由」めぐる戦いの歴史
羽仁もと子・吉一夫妻。ともにクリスチャンでジャーナリストだった2人が、キリスト教を土台とした人間教育を目指し、「思想しつつ、生活しつつ、祈りつつ」をモットーに創立した自由学園。1921年4月15日、校舎があった東京・雑司ヶ谷の自由学園明日館(みょうにちかん)での第1回本科入学式に女子生徒26人を迎えた。
それから一世紀。2021年4月15日、明日館の講堂で100周年記念礼拝が行われた。新型コロナウイルス禍のため100周年で唯一行われ、80人が参加したこのセレモニーで、高橋和也学園長は100年の感謝を込めて礼拝をささげた。さらに校名の由来ともなった、ヨハネによる福音書8章32節の「真理はあなたたちを自由にする」の言葉もひき、「私たちの学校が『自由学園』であり、『真の自由人を育てる』という教育の目的を掲げていることは本当に素晴らしいこと」と話した。
振り返れば、学園の歩みは「自由」をめぐる戦いの歴史だった。「自由がなければ真の人間教育はできない」「究極的にそれは神のみが行い得る」という信念から、文部省(当時)の管轄を受けない各種学校としてスタート。そのため1935年に発足した男子部の生徒は、戦争が始まると士官候補の道や徴兵猶予の特権もなく、繰り上げ卒業で戦地に送られ、12人が犠牲になった。
校名から「自由」の名を外すよう文部省から圧力をかけられ、生徒らへの弾圧も相次いだ。高橋学園長はセレモニーで「私たちは日々の生活の中で与えられている自由を守り、正しく行使し、平和を実現する学校を目指したい」との決意を改めて示した。
■ 戦後の民主主義教育と一致
学園は1927年に初等部、35年に男子部、39年に幼児生活団(現・幼児生活団幼稚園)と続々規模を拡大。34年には久留米村(現・東久留米市)南沢に移転し、広大なキャンパスで生徒たちが「自治」生活を通じ、学びを重ねてきた。
「自主独立の人として生きていくことが大事」と、女子部を中心に昼食は交代で作り、学校用地の畑で野菜を栽培、豚などの飼育も手掛け、食の原点を知る。自分が使う机といすは自ら作り、「社会を輝かせながら幸福に生きる技」の美術・音楽・体操などを学び、「社会に働きかける」さまざまな活動も。こうした学びは戦後、180度変わった日本の教育界で注目を集める。
連合国軍総司令部(GHQ)の民間情報教育局(CIE)が、来日した米国教育使節団向けに作ったガイドブックで「女子教育で見るべき学校」のひとつとして自由学園の名を挙げた。これをきっかけに、戦後教育のカリキュラムを模索する教育関係者らが次々と自由学園を視察に訪れる。
「民主主義を学ぶために、体験を豊かにしていく教育をという世の中の動きが、自由学園がずっとやってきた動きと一致した」と高橋学園長。一方、「民主主義や自由というものが軽く言われる世の中の風潮に、創立者は抵抗も。吉一は『自由学園の自由はそんな簡単なものではない』と書いています」
■ やっときた学園の時代
7年制の各種学校だった女子部、男子部は1947~48年、新制中学校・高等学校として認可を受けた。49~50年には、男子最高学部(大学部、4年制)、女子最高学部(2年制)を設置。高等科までの学びをさらに極められるように。それを見届けるように55年に吉一、57年にもと子と創立者夫妻が相次いで逝去したが、第2代学園長に就いた夫妻の三女・恵子をはじめ歴代の教職員らが志を継いだ。その後も、教育の実践をめぐって文部省(文部科学省)と見解が分かれることもあったが、「昨年、文科省の学習指導要領を担当している人から、『やっと自由学園の時代になりましたね』と言われました」(高橋学園長)。
この間、創立2年後の関東大震災をはじめ、戦後も阪神・淡路大震災、東日本大震災などでの災害救援・復興支援活動、農村文化運動、国内外での植林活動、各種ボランティアや地域貢献などに生徒らが携わり、「学校から社会へ」と広い意味での教育活動・社会活動を展開。戦前から続く近隣と自治体、地域住民らとのさまざまな連携・交流も活発に行われてきた。
■ 卒業生が教える学びの成果
こうした人間教育の成果の一端が、100周年記念サイトにアップされている「自由学園100人の卒業生+」プロジェクトでわかる。2016~2021年に行われたOB・OG100人のインタビュー集。30~40代が中心で、教職、ビジネスパーソン、農家、旅館女将、弁護士、医師、新聞記者、テレビディレクター、デザイナー、歌手、アナウンサー、能楽師…と多彩な職業の卒業生が登場している。
「学校の学びをどう思っていたのか。彼らの話を聞いて、この教育に自信を持ちました。多くの人が語っていたのが、良い社会を創るということ。自分の人生だけでなく、どうしたら社会が良くなるかと思って生きているのだと。在校生や保護者にも関心を持ってもらえるとうれしい」
このほか、100周年ではさまざまなプロジェクトが取り組まれた。『本物をまなぶ学校 自由学園』(婦人之友社)と、初めての通史となる『自由学園一〇〇年史』(自由学園出版局)の出版、また、写真や年表などで学園の歴史をたどり、随時更新中の「デジタルアーカイブ自由学園100年+」もある。「後世に対する責任、これからに向けての種をまいた。自由学園を知りたい人に活用してほしい」
■ 「共生共学」の学校へ
2024年4月からは長年の課題だった「中高男女共学」が始まる。最高学部では、1999年に男女共修が実現したが、そこから四半世紀を要しての学校改革。そこには時代に向き合い、あるべき姿を目指して形を変えてきた同学園ならではの思いもある。「共生共学」だ。「国、年齢、性別を超えて人と人がより良く生きていく社会、人と自然の調和、そして地球や世界の課題に行動を起こし、愛をもって社会に働きかけていく学校を目指す。平和と持続可能性の社会が私たちの思う未来図です」
高橋学園長は、戦後の歩みを振り返り、こう繰り返す。
「終戦で世の中の価値がひっくり返った時期にも、創立以来行ってきた自由学園の人間教育は変わらないことを確認し、戦後の出発ができたのは誇るべきこと。今後も『自由』を守り、発展させ、自分の頭で考え行動する人がここから巣立っていくことが、今この教育を継ぐ私たちにも求められています」
(倉野武)
【参考資料】
・学校法人自由学園(HP)
・『自由学園一〇〇年史』(発行:自由学園出版局、発売:婦人之友社)
・学校法人自由学園創立100周年記念サイト(HP)
・デジタルアーカイブ自由学園100年+(HP)
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