職場環境の改善必要 「教育長パワハラ疑惑」は未解明 西東京市が「報告書」公表

投稿者: カテゴリー: 市政・選挙 オン 2017年2月28日

 

調査結果を報告する丸山浩一市長

 西東京市議会2017年第1回定例会が2月27日に始まった。初日の冒頭、年末に辞任した前田哲前教育長の「パワハラ疑惑」に関する庁内調査委員会の調査結果が報告された。「人前での感情的な叱責」「挨拶や話しかけを無視」などを(前教育長から)直接受けたとの回答があって「職場環境の改善が必要」と判断したが、市や教育委員会の窓口にこの件の相談はなく、窓口を知らない職員が半数を超えた-などの状況からが明らかになった。しかし「疑惑」の事実や実態はこの報告書に盛り込まれなかった。

 調査委員会は1月6日から13日まで職員の無記名アンケート調査を実施した。対象は、前教育長が赴任した2015年7月から昨年末まで、教育委員会や公民館、図書館などに在籍した職員ら計102人。回答は101人からあった。

 パワハラが疑われる(前教育長の)言動の有無を尋ねた13項目の内、「直接受けた」と回答したのは、「人前での感情的な叱責」4件、「挨拶や話しかけを無視」3件、「必要以上の仕事への監視・関与」3件など計11件だった。
 「見聞きした」との回答は、「人前での感情的な叱責」23件、「必要以上の仕事への監視・関与」10件、「人格否定や差別的な言葉による叱責」8件など計61件に上った。

前田哲前教育長(2016年6月)

 厚生労働省によると、職場のパワーハラスメントとは「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義している。このため「『業務の適正な範囲』を超える行為があったかどうか」を重ねて尋ねた。

 「業務の適正な範囲を超え、人格、尊厳を侵害する言動があったと感じたか」を尋ねたところ、28人から回答があった。このうち「感じた」と答えた職員が8人(29%)、「感じない」5人、「どちらともいえない」15人となった。
 同じ前提で「精神的苦痛または苦痛を伴う言動があったと感じたか」に対し、「感じた」9人(32%)、「感じない」5人、「どちらともいえない」14人だった。
 さらに「職場環境を悪化させる行為と感じたか」では、「感じた」12人(43%)、「感じない」4人、「どちらともいえない」12人となり、「職場環境を悪化させる行為」と感じた職員の割合が高かった。

 3つの設問で「感じた」回答のほぼ半数が、前教育長から直接指示を受ける立場の部課長職だった。

 ハラスメントの相談窓口は職員課に設置されている。しかし、この件での相談や苦情はなかった。相談しなかった理由は、「教育長という高位の職だったから」が最も多く8件、「行為者を刺激してはさらにエスカレートすると思った」4件、「自分が我慢すればよいと思った」「行動するほどのことではなかった」がともに3件ずつ、などの結果だった。

 相談窓口の認知や相談しやすさを尋ねた設問に対し、99人の回答のうち「相談しやすい」が16人(16%)、「相談しにくい」32人(32%)で「しにくいが」倍となり、そもそも「窓口を知らない」職員が51人(52%)と半数を超えた。

 自由記述は43人からあった。しかし報告書の記載は簡略で、「『暴言』『人前での叱責』『長時間の拘束』との回答があった」とする一方、「『当事者としては業務の適正な範囲内だと思っていた』『厳しい指導だったが、勉強になった』『学校現場を大切にしていた』『熱心に取り組んでいた』『的確な判断と指示で、信頼できた』などの回答もあった」と紹介している。

 これらの調査結果から、「職場環境の改善が必要な状況」「相談窓口が十分機能していなかった」と判断。パワハラ研修や相談窓口の周知を徹底し、「庁内組織を設置して見直し・改善を、職員組合とも連携・協議して進める」と今後の対応をまとめている。

 このほか市内の全小中学校の校長27人全員から聞き取り調査した。学校職場、児童・生徒、保護者らへの影響はすべて「なし」だった。

 丸山浩一市長は「職場環境が改善を必要としている状況だったことは重く受け止めている。組織の長として、職員一人ひとりが働きやすい職場環境づくりに努めていく」と語った。任命責任について「(教育長が)任期満了前に退職したのはまことに残念。責任を感じている」と述べた。

 

調査委員会の委員長を務めた池澤隆史副市長

 

 「パワハラはあったのか、なかったのか」。最初に質問した酒井豪一郎氏(自民)に対し、調査委員会の委員長を務めた池澤隆史副市長が答弁に立ち、「人事院の『パワーハラスメント防止ハンドブック』によると、パワハラは受け手が不快に感じるかどうかだけでは判断できないとされている。職員の主観的な感情を否定できないけれど、『業務の適正な範囲を超えたかどうか』の客観的な事柄が明らかでないため、パワハラの認定、断定はできない」と説明した。

 酒井氏が重ねて「(パワハラ疑惑を明らかにするため)これ以上の調査はしないのか」と問いかけた。池澤副市長は「聞き取り調査になると、職員個人の内面に関わることになり、本人の同意が必要。本人の意思に基づかないまま個別具体的な話を聞くのはなじまないので、これ以上の調査実施は考えていない」と述べた。

 事実解明と再調査の2点は、この日質問に立った15人の多くが繰り返し市側に回答を求めた。大竹あつ子氏(共産)は「調査方法は適切か。事実認定がなければ対策が立てられないのではないか」と言い、山崎英昭氏(みらい)は「匿名を担保した上で、第3者による聞き取り調査をしたらどうか。話したい人もいるはずだ」と迫った。

 これに対し丸山市長は「パワハラは、いじめやセクハラと違う。この基本を押さえてほしい」と述べ、池澤副市長は補足して「セクハラやいじめは、受け手が不快に感じたらハラスメントだが、(暴言や叱責などを)不快と感じても、『業務の適正な範囲』を超えなければパワハラにならない」「窓口に相談があれば、所属長や関係職員から事情聴取して事実関係の確認が必要になってくるけれども、職員の同意なく個人の内面に関わる個別具体的な事情を聞くのはなじまない」と従来の説明を繰り返した。

 では、パワハラかどうかの線引きは何か。「難しい」という市側の答弁に対し、桐山ひとみ氏(みらい)は「ここまで言ったらパワハラだと具体的にしないと、マニュアルを作っても組合と相談しても、何も解決しない」と強調した。

 トップ(特別職)のハラスメントをどう防ぐか。この点も問題になった。これまでハラスメント対策マニュアルが想定した対象は一般職員レベル。特別職のハラスメントは想定外だった。「職場環境を改善すると言っているけれど、教育長や市長ら特別職にハラスメントがあったら、だれが諫めるのか。どうやって特別職の首に鈴を付けるのか」と森輝雄氏(無所属)は皮肉った。

 大林光昭氏(公明)は大本に立ち返って「この調査はパワハラの事実の有無を確認することなのか」と調査の目的を尋ねた。池澤副市長は「良好な職場環境の維持向上によって職員の能力を発揮し、効率的に業務を遂行することが目的」と述べ、事実関係を直接解明する目的で委員会が組織されたわけではないことを明らかにした。

 この問題は昨年12月8日の本会議で、保谷七緒美氏(自民)が前田哲前教育長に対し、「パワハラ疑惑がある」と突きつけたのが発端。その後、前田氏が辞任したことを受けて、100条委員会による真相解明を求める動議が出されたが否決。市側の内部調査が続いていた。調査報告書は近く西東京市のホームページに公開される。
(北嶋孝)

 

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