鳥居英晴著「国策通信社『同盟』の興亡」

投稿者: カテゴリー: メディア・報道連載・特集・企画 オン 2015年2月16日

『国策通信社「同盟」の興亡』表紙【書評】
国策通信社と国策新聞・国策放送について

師岡武男(評論家)

 世の中の出来事を人々に伝える新聞、通信、放送、出版などの情報活動は、本当のこと(真実)を正確・公正に知らせるのがその社会的責任である。間違った嘘の情報には誤報、虚報、捏造(偽報)などいろいろあり、それぞれ性質に違いがあるが、真実に反することは共通だ。

 以上の原則を頭において、最近出版された「国策通信社『同盟』の興亡」という本を読んだ。日本には1936年から45年の敗戦まで同盟通信社という組織があって、国策通信と呼び慣わされていた。

 国策通信という言葉に公式な定義はないが、国(政府)の政策実現のための情報通信事業ということだろう。その性格から、国策を無批判に囃したてることになりやすい。虚報、捏造を冒す危険もある。外国には国策通信という言葉はないだろうが、中国の新華社のような国営通信社は今も事実上国策通信だ。同盟通信社は国営ではないが、国から補助金をもらっていた。

 この本は通信社という情報提供事業が日本で始まった明治時代からの経緯を詳しく説明している膨大な記述で、通信社史という分野から日本のマスメディアの舞台裏の実態を調べあげた貴重な研究である。

 国策と似た言葉に国益というのがあるが、どちらも対外政策に関連することが多く、国内政策ではあまり使われない。対外政策で最大のものは戦争であろう。政府は戦争開始のためにも勝利のためにも、あらゆる手段を動員する。この「同盟の興亡」史も戦争情報に関わる内外の動きに重点を置いている。

 同盟が戦争宣伝のために動員され協力したことは言うまでもないが、それは同盟だけのことではなかった。既に同盟発足以前からすべての有力新聞・通信は戦争国策に協力していた。

 ではどのように言論報道が国策に動員され、協力したか。どこまでが真実の報道で、どこまでが国策協力の虚報あるいは捏造だったか。その判定は、実は大変難しい。戦争が大ニュースであることは勿論だから、大きな記事になること自体は当然だ。しかし国策戦争を無批判に囃したてたり、そのために虚報や捏造の情報を流すことがあっては、真実を伝えるべき社会的責任とは逆行する。残念ながら日本のすべての有力マスメディアはその責任に背き、大量の虚報、捏造を行った。

 端的な例で言えば「大本営発表」には虚報がかなり混じっていた。当時でもそれは分かっていたが、メディアはこれを虚報として批判することはできず、軍の暴走にも国の戦争政策にも屈従して筆を曲げてしまった。

 実は現在でも、政府の発表には虚報であることが後で分かる例がいくらでもある。言論自由の現在では、それを直ちに批判して解説することができるはずだが、果たしてやっているか、甚だ疑問だ。

 虚報と捏造は紙一重である。この本に出て来る1931年の9.18「柳条湖事件」(満州事変)で同盟の前身である聯合(新聞聯合社)と電通(日本電報通信社)の報道ぶりにそれを見せられる。聯合は第一報を「匪賊と日本兵との衝突」と打電したが関東軍の検閲を通らなかった。電通は憲兵隊の発表通り「奉天駐屯のわが鉄道守備隊と北大営の東北陸軍第一旅の兵が衝突、目下激戦中」と打電して、聯合との速報戦に勝った。軍の発表は「支那兵が鉄道を破壊した」としていたが、聯合の奉天支局長は「正式奉天軍がそんなばかなことをやるはずがない」と判断した。事実は、すべて関東軍の謀略であり、その後の「15年戦争」の発端となった。聯合はやむなく「支那兵と我守備兵と交戦が開始された」と打電した。その聯合も海外向けには「支那側からの攻撃だ」とロンドンのロイターに至急電を打った。でっち上げ(捏造)の話を未確認のまま報道すれば虚報だろうが、捏造とわかっていて報じたらやはり捏造の共犯になるだろう。戦争中の記事に虚報や捏造が溢れていたことには、疑問の余地がないのである。

 この本は「柳条湖事件は日本のジャーナリズムの分水嶺でもあった」と書く。明治以来の戦争報道も国策主義が大勢だったに違いないが、この時の軍追随報道以後、国策の侵略戦争のお先棒かつぎへと邪道にはまり込んでいった、と言えよう。

 満州事変の直後、外務省は「強大な国際的通信社を設立」する計画を立て、曲折の末1936.1.1に電通と聯合が合併して同盟通信社ができた。岩永裕吉社長はその任務について「ナショナル・ニュース・エイジェンシーとして全世界に活躍し、国家の政策を遂行するの機関」だと国策通信であることを公言した。しかし柳条湖事件報道に見るように、有力新聞・通信は既に数年前から完全に国策化していたのだ。ラジオのニュースはほぼすべて通信社からの提供だった。

 敗戦後、同盟は事実上米軍によって解散させられて、人員の大部分は共同通信と時事通信に吸収された。両社とも「再び同盟通信にはならない」ことを「憲法第一条」とすることを祈りたい。

 

【筆者略歴】
師岡武男(もろおか・たけお)
 1926年、千葉県生まれ。評論家。東大法学部卒。共同通信社入社後、社会部、経済部を経て編集委員、論説委員を歴任。元新聞労連書記長。主な著書に『証言構成戦後労働運動史』(共著)などがある。

【書籍情報】
書名:国策通信社「同盟」の興亡 通信記者と戦争
著者:鳥居英晴
出版社:花伝社
定価:本体5000円+税
ISBN:978-4-7634-0708-5 C3036
発行:2014年7月25日
A5上製 832頁

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