放課後カフェが「安心空間の居場所」になる 「中学校にカフェを作ろう!」講演会と事例発表
「中学校にカフェを作ろう!」。こんなスローガンを掲げた講演会が10月27日、田無駅南口の正育堂2階ホールで開かれた。主催した市民グループ「西東京こども放課後カフェ」が活動の周知を目的として講演会を開催するのは昨年7月に続いて2回目。「NPO法人ハンズオン!埼玉」理事、西川正さんの講演と「放課後カフェ」の事例発表に、参加した約50人が熱心に耳を傾けた。
西東京市の放課後カフェは、勉強や部活で忙しい中学生にホッとできる時間を持って欲しいと願う大人によって2015年に始まった。ボランティアスタッフが校内の調理室や図書室で「カフェ」を開き、生徒にお茶やジュースをふるまう。カフェでは子どもたちがおしゃべりしたり、ゲームをしたり、勉強したりする光景も見られる。
「ジュースが飲めるのはここだけ」と開催を心待ちにする生徒も増え、カフェのある日は「学校に行くのが楽しみ」といった声も聞かれるようになったとの報告もあった。現在では市内9校のうち6校で実施されている。
放課後カフェが、より多くの大人に理解され、子どもの「居場所になる」ために何が必要か。
「学校では子どもたちは常に緊張して過ごしている」と西川さんは言う。話すと損。目立つと損。間違えれば怒られる。人と違えば笑われる。評価の対象となる。だからまずは「安心空間 – 子どもが自らを表現できる場所を作る」ことが肝要と説く。
「自らを表現できる場とは、あそびのある空間」とも指摘する。英語の「あそび」(Play)は、ギターやピアノを「弾く」、楽器を「奏でる」ことにも、スポーツや演劇の表現にも通じる。日本語の「あそび」には、「隙間」や「余裕」という意味もある。西川さんは「この場なら自分を出しても大丈夫、失敗も許されると思えるような安心が保証された場であれば、その子なりに歌う、描く、表現する」と強調した。
カフェが「みんなの場」になるには「なんらかの参加の余地を作ることも大切」と西川さんは指摘する。「子どもが自ら考えて、提案し、工夫できる場とすることが必要」だというのだ。大人も子どもも心地よく過ごせる空間にするために、問題があればお互いに相談し、よりよい場を一緒に作っていく過程が「みんなの場」へと変容していくのだろう。筆者はそう理解した。教える・教えられる、指示する・指示される、ケアする・ケアされる関係が固定化されず上下関係もない-そんな居場所こそが子どもが自分を表現できる安心空間になるのだと感じた。
講演後半、参加者でフォークダンスならぬ「トークフォークダンス」を行った。講師が今夏7月に上尾市の中学校で開催した生徒と大人がおしゃべりをするというイベントを模したものだ。椅子を二重の輪に配置し、中側と外側で向かい合って座る2人がペアを組む。講師から出されたお題をひとりが話し、相手はただ聞く。持ち時間は僅か1分で役割を交代。一方が話し終えたら、中側に座る人は動かず、外側に座る人が時計回りに隣に移動して、新しいペアでおしゃべりを開始する。
「話したくなければ無理に話さなくてもいい」との言葉が添えられ、西川さんが次々とお題を出していく。「昨日はどんな日だった?」「小さい頃に好きだった時間は?」「中学生の自分に言いたいことは?」…。膝と膝を突き合わせた「話す・聞く」の時間は、ペアの声が聞きにくくなるほどの盛り上がりをみせた。
筆者も輪の中に参加した。「小さい頃は、畑作業の合間のおやつの時間がとても楽しみだったの」。初めてお会いしたおばあさんが語ったその瞬間、幼女の姿となった。労働の合間のささやかな休息時、おやつを頬張る光景が目に浮かび、急に親しみが湧いた。
たった1分でも中断されずに話を聞いてもらえる機会は大人でも少ない。筆者自身、続くお題の「自分の好きなところ」「最近成長したなと思うこと」を聞いてもらい、欠点の多い自分を僅かだが肯定できた心持ちがした。「子どもに話すことを無理強いしない。子どもが話し始めたら黙って聞く」。改めて大事なことに気づかされたトークフォークダンスだった。
西川さんは「中学校は地域の大人が子どもと出会える場、そこを安心空間とすることで、新しい関係が作られ、町や暮らし方が変わっていくきっかけとなり得る」と期待を寄せる。そこは「工夫を取り入れながら日常を重ねていく」ことで、人が集まり、人が人として出会う場となる。講演を聞いて、放課後カフェの役割は小さくないはずだと確信した。
当日は放課後カフェ実施校である、ひばりが丘中学校と柳沢中学校の事例発表もあった。これから活動に取り組むグループからは、理解と賛同を得るための方策や、自発的なサポーターによる組織作りについての質問も出ていた。主催者代表の古林美香さんは「先行事例や講師の場づくりの理念と実践を参考に、子どもが安心できる居場所として、中学校放課後カフェが西東京市に増えていってくれたら嬉しい」と語っていた。
講師の西川さんは、子育て中のお父さんたちに自分のまちで子育て仲間を増やしてもらおうと「おとうさんのヤキイモタイム」を提唱し、地域の大人そして子どもが出会い交流する場を作ってきた。2017年3月『あそびの生まれる場所 「お客様」時代の公共マネジメント』を上梓。子育てが行政・民間のサービスに託され、人との関りが制度化、マニュアル化されてきた背景と、人々のつながりが生まれにくい社会を考察し “あそび” の大切さを説いた一冊。お薦めです。
(卯野右子)
【関連リンク】
・西東京こども放課後カフェ(HP)
・NPO法人ハンズオン!埼玉(HP)
【筆者略歴】
卯野右子(うの・ゆうこ)
西東京市新町在住。金融会社勤務。仕事の傍ら「アートみーる」(対話型美術鑑賞ファシリテーター)と「みんなの西東京」の活動に携わる。東京藝術大学で「アート×福祉」をテーマに、アートがいかに福祉の分野で貢献できるかを勉強中。