広がる西東京市の放課後カフェ 大人と子どもが緩く交わる居場所に
西東京市の放課後カフェは、中学生の放課後の居場所づくりを目的とし2015年から始まった。地域の大人が中心となり市内公立中学校の校内で開催。いまでは市立中学全9校中7校でカフェが開かれている。生徒は無料で提供される紅茶やコーヒーを飲みながら、ゲームで遊んだり、おしゃべりしたりして自由に過ごす。こうしてカフェは、生徒同士だけでなく、生徒と大人も緩く交わる場になってきた。
先生や地域の大人がそれぞれ協力
西東京市では田無第一中学校で最初のカフェが開かれた。立ち上げメンバーのひとりである古林美香さんによると、「生徒が親や先生以外の多様な大人と関われる場」が実現するまでに、学校と何度も交渉を重ねたと言う。その後活動を市内全域に広げようと2017年に「西東京子ども放課後カフェ」を任意団体として立ち上げた。2018年度には西東京NPO等企画提案事業として認定、実施されるまでになった。
現在の西東京市の放課後カフェは、中学校教職員の協力はもとより、民生・児童委員、西東京市青少年育成会、西東京市社会福祉協議会、ほっとネット推進員、PTA・応援団・おやじの会、保護司など、多くの地域の方々の理解と応援により成り立っている。カフェの活動に関わる大人は様々で、開催スタイルも中学校ごとに特色がある。
青嵐中学校では学校と協力して、図書室で「青嵐ブックカフェ」を実施している。都内でもお洒落なブックカフェが増えているが、同校の取り組みは時代を先取りしていた。本に囲まれてお茶を飲み、目についた本を手に取って読み始める生徒も増えた。カフェがスタートした頃は、図書返却ができるのみだったが、現在はブックカフェ中も貸し出しや返却ができ、1回に5〜6冊借りる生徒もいる。
柳沢中学校「やぎカフェ」は、2018年3月の立ち上げ当初からほぼ毎週カフェを開き続けている。スタッフが少ないときは、生徒たちがカフェの仕事を助けてくれるという。少人数校でありながら毎回50人ほどの参加があり、週によって開催曜日を変えるなど、部活動に参加している生徒にも配慮している。テスト期間中にはボランティアの大学生が補習を手伝う。
同校の活動は2018年6月に続き2019年9月10日にも朝日新聞に取り上げられた。福島県で放課後カフェの実施を目指す団体「ビーンズふくしま」の視察も受け入れた。不登校の子どもたちのフリースクールを運営し、困窮世帯の学習支援、子ども食堂を実施するNPO団体だ。東京都他市からの見学も多い。
できる人ができる範囲で多様なカフェ
田無第三中学校の「サンカフェ」は落ち着いて過ごせる静かな雰囲気を大切にしている。スタッフの高橋ますみさんは「本当は来たくても来られない生徒がいるかもしれない。その子らが少しでも近寄りやすい場となっているか」と自問する。「子どもが本当にそれを望んでいるかよく考える。大人は温かく見守る脇役として地味に徹する」をメンバー内で周知徹底し、大人だけが楽しむイベント的な場にならないよう気をつけていると言う。
田無第四中学校は、昨夏からの準備段階を経て今年度から活動を始めた。1学期に1回のペースで開催されているカフェの名称を生徒から募集中。10月に開催されたカフェで「Café Four」「四中放課後カフェ」「たなよんカフェ」などの名称候補が生徒や先生の投票で多くの支持を得た。この3候補から最終的に1つに絞られる。
四中のカフェを運営する「四中放課後カフェ応援団」団長の道本利子さんは、生徒には使い捨ての紙コップではなく陶器のカップを使ってほしいとの思いがあった。各方面に呼びかけた結果、個人や団体から101個ものマグカップが寄せられた。生徒らは自分の好きなカップを選ぶ楽しさもあり、一緒に来た友達とペアで選んだりしている。スタッフに「このカップが合うんじゃない」と渡され、うれしそうに受け取るシーンも見られた。
できる人ができる範囲のことをやる。長く続けていくための工夫や試みが、多様なカフェを生み出している。
教育長も見学・参加、熱烈応援
今秋からカフェを実施する7校の生徒を対象にアンケート調査を行っている。「もっと頻繁に開催してほしい」「とても居心地のいい場所で楽しい」といった好意的な意見が多く見られた。「お仕事でお忙しい中、カフェを開催してくれてありがとうございます。これからも頑張って続けてください」といった大人を思いやる声もあって、サポーターらは感激していた。
木村俊二西東京市教育長も今年、各中学校のカフェを精力的に見学・参加した。「これからも応援しています!!」とのメッセージを「西東京子ども放課後カフェ」のリーフレットに寄せている。
放課後カフェのメンバーはよりよい場を作るために自ら学ぶ機会も作っている。10月31日および11月15日には認定NPO法人育て上げネットの井村良英さんを招き、生徒とのコミュニケーションの取り方や信頼関係を育むための具体的な事例を聞いた。「必要なのは支援でなく応援である」との言葉が印象深い。「支援をしてあげる/してもらうという関係ではなく、友人として応援したいという気持ちがベースにある関わり方だ」と語った。
横や斜めの緩やかな関係
中学生が普段触れ合う大人は限られている。親、先生、部活動の顧問、塾の先生などだ。それらの関係は多くの場合、こうしなさい、ああしなさい、といった指示や教えを受ける上下・縦の関係だ。一方で、カフェのスタッフは近隣のおじちゃん、おばちゃん。生徒を指導し評価する立場ではない。地域の中で、横や斜めの緩やかな関係を作りたいと願う大人が集まっている。
参加者が楽しんでゆったり過ごしてくれればそれでいい。「こんにちは」「飲み物は何にしますか?」「ごちそうさまでした」「ありがとう」「コップは自分で洗います」といった、さりげない言葉の掛け合い、やりとりの中から、緩やかな交わりが生まれている。大人も生徒も、頑張らなくてもよい場、肩の力を抜いてほっとできる場所。そんな心地よさが参加者にも伝わり、また来たいと思う居場所になっているのだろう。
(卯野右子)
【関連情報】
・西東京子ども放課後カフェ(HP)
・【講演会】放課後カフェから考える中学生の居場所づくり(西東京市Web)
・放課後カフェやっているよ!(「公民館だより」第197号、2017年10月1日発行 PDF: 1.21MB)
【筆者略歴】
卯野右子(うの・ゆうこ)
西東京市新町在住。金融会社勤務。仕事の傍ら「アートみーる」(対話型美術鑑賞ファシリテーター)「みんなの西東京」「放課後カフェ」の活動に参加。東京藝術大学で「アートX福祉」を履修し、2019年4月より東京都美術館のアート・コミュニケータとして人と美術館を繋ぐ活動を開始する。
とてもステキな試みだと思いました。
介護の仕事をしてるので、後にカフェを開きたい私にとって、参考になりました。一度見学に行きたいです。
田中さま、コメントありがとうございます。
見学につきましては、以下のHPからお問い合わせいただければありがたいです。各校、開催頻度・形態・特色も様々ですので、ご興味にあった学校をご紹介できれば幸いです。
https://nishitokyo-afterschool.jimdofree.com/
また、1月26日に「放課後カフェから考える中学生の居場所づくり」と題して、高校内でカフェを支援する石井正宏さんを講師に講演会も予定しております。こちらも参考にしていただけるのではと思います。
https://www.city.nishitokyo.lg.jp/siseizyoho/npo_kyodo/npokyoudou/npo_kikaku/20200126npokikakuafterschoolcafe.html
https://www.facebook.com/events/2181564332145241/
よろしくお願いいたします。卯野
田中さま、コメントありがとうございます。
見学につきましては、西東京子ども放課後カフェのHPからお問い合わせいただければありがたいです。記事の最後、関連情報にリンクがございます。各校、開催頻度・形態・特色も様々ですので、ご興味にあった学校をご紹介できれば幸いです。
また、1月26日に「放課後カフェから考える中学生の居場所づくり」と題して、高校内でカフェを支援する石井正宏さんを講師に講演会も予定しております。ひばりタイムスのカレンダーに詳細がありますので、こちらも参考にしていただけるのではと思います。
返信が大変おそくなりまして、申し訳ございませんでした。
素敵なカフェができますように!出来たら一度うかがわせていただきたいです。(卯野)
とても興味深く読ませていただきました。
子育てを通して、50歳すぎた今、何か子どもに関わる事で貢献していきたいと考えているのでとても参考になりました。
横や斜めや多面的に子どもたちが関われる寛容な環境が広がるといいですね。
畑さま、コメントありがとうございます。本当に「多面的に関わる」というお言葉が身に沁みます。それぞれの場所で活動が広がり、学校が、地域が、豊かになっていきますように・・・